第14話 デュラハン討伐作戦&王太子とソフィー(NTR要素アリ)

「強すぎるだろっ、あれっ」

 俺たちは聖域に逃げ帰ると、へたりこんでしまった。少しでも転移結晶の発動が遅かったら終わっていたな。


「スーラ、さすがに斬撃は無効化できないよな?」

 俺は念のため確認した。


『さすがに、身体が真っ二つになったら大変だよぉ』

 だよなぁ。


「マーリン。あいつの魔力防御力を超える攻撃はできないのか?」


「できないわけではないが……そんなものを撃ってしまったら、ダンジョンの倒壊に巻き込まれて、みんな死ぬぞ」

 たしかに、あの狭さで地形すら変えてしまう最上級魔力を放てば、大変なことになる。首無騎士デュラハンのあの固さだ。俺たちは全滅して、あいつだけ無事というパターンも十分に考えられる。


『ダメだよ、グレア。あいつは不死属性持ちだから。壁を倒壊させても、すぐに復活しちゃう』

 そもそも論か。どうやっても倒せないなら、やり過ごすしかない。


「マーリン。魔力であいつを氷漬けにできないか。全身凍れば、さすがに時間は稼げるだろ?」


「いや、無理じゃろうな。あのアーマーはかなりの魔力防御力を誇る。凍結は厳しいだろうな。なにか、助けになるものでもあればいいのだが……」


 魔力単独では、なすすべなし。

 これじゃあ、俺たちは永遠に4階より先に進めないじゃないか。いや、なにか策があるはずだ。


 考えていると、俺の腹が鳴った。

 マーリンとスーラはその音を聞いて笑っていた。


 塩漬け肉をお湯に入れて簡易的なスープを作り、俺たちは腹を満たす。ちなみに、3階に塩の結晶ができるフロアを見つけた。その結晶を砕いて、袋に入れて聖域に持ち込んだおかげで、食糧事情はさらに改善されている。


 イノシシ型・ウサギ型モンスターを狩って、肉を塩漬けにすれば、保存食は作り放題だからな。


 意外とダンジョンに順応している俺がいることに驚いた。王都にいる時は、こんな自分は想像できなかった。そう考えれば、なんとかなるかもしれない。


「なぁ、マーリン。首無騎士デュラハンって、もともと人間なんだよな?」


「まあ、そうじゃな。たいていの場合は、命を落とした人間の戦士が、現世への後悔や恨みをつのらせて、魔物になるものだ。だが、普通は復活に回数制限があるはずじゃ。あいつは、何度でもよみがえる。よほど、強い気持ちがあるってことじゃな」


「そっか。あいつも辛いことを経験して死んだんだな」

 そう思うと、ちょっとだけ同情が芽生めばえてしまう。俺もこのままじゃ死んでも死にきれない。もしかすると、あいつは俺の末路なのかもしれないな。


「……グレア殿?」

 マーリンは気まずそうにこちらを見ている。ああ、そういえば、マーリンは元々、あいつらの仲間だからな。俺が思い出して、怒りに震えて、魔石を発動させないか心配なんだろう。


 元々は敵だった事実を忘れるほど、さっきの連携は完璧だったし、基本的に水分だけ取れば大丈夫なスーラと違って、固形物を食べないとダメだし。人型だから、安心感がある。思った以上に信頼関係を築きつつあることにも驚いた。


「嫌味じゃないから、安心しろ」

 俺が笑うと、ホッとして「そんな深刻な顔をしないでくだされよ」と首筋をさするマーリンに、人間味を感じて、俺は笑った。


 こいつらと一緒ならなんだか大丈夫そうな気がする。根拠はないけど、自信がでてきた。


「そうか、いい考えがあるぞ!!」

 腹ごしらえが済んで、自信が湧いたところで、俺はひとつの案を思いつく。


『ほんとうかい、グレア?』


「ああ、スーラ。あいつを仲間にしよう!!」

 俺はさらに難しいことを提案する。


『はぁ?』

「はい?」


 スーラとマーリンは度肝を抜かれたように、すっとぼけた声をあげた……


 ※


―王都―


 目を覚ますと、殿下がこちらを見つめていた。


「わかるか、ソフィー?」

 あれが夢ではないことは、テーブルに置かれた指輪が証明している。やっぱり、グレアは死んじゃったんだ。違う、私が殺したんだ。


「いや、いや、いや。グレア……なんでっ」


「おい」


「私が殺した、私が殺した、あの優しい彼を私が殺した……」

 自分の心は完全に壊れていた。


「落ちつけ、ソフィー」

 殿下は、私に向かってグラスに入った水をかける。私の顔は水しぶきを浴びて、冷たくなっていく。ほんの少し体温が下がるだけで、私は現実に引き戻されてしまう。


「嘘、ですよね?」


「認めろ、俺とお前は共犯だ。いいか、今回のことは誰にも教えるなよ。教えれば、俺たちは社会的に糾弾される。俺は大丈夫だが、お前は死んだことと同じになるからな」


 死ぬ。私はグレアと同じように死んじゃうの?

 そう思っただけで、どうしようもなく怖くなる。でも、自分も責任を取らなくちゃいけないという気持ちはさらに大きくなっていた。


 どうすればいいの。もう心は死んじゃっている。何も考えられない。


「助けてよ、誰か、助けて……」

 赤子のように泣き叫びそうになった瞬間、またくちびるを奪われた。


「……っ」

 驚きのあまり力は抜けていく。こんなことをしている場合じゃないとわかっているのに……


 永遠とも思えるほどの長さの時間、私たちのくちびるは重なっていた。


「いいか、ソフィー、もう、お前には俺しかいないんだ。もう、何も考えなくていい。あとは、すべて俺に任せておけ」

 その言葉は、誰かにすがりたい自分にとって、まさに救いの言葉だった。

 もう自分で何かを判断したくない。


「はい、わかりました」


「そうだ、それでいい」

 殿下は、すべて満足したようにうすら笑う。


「どうすればいいですか」


「グレアのことは忘れさせてやるよ。今日はすべて俺の言う通りに動け」


「はい、殿下……」

 肯定の言葉を聞いた殿下は、私の髪の毛を触れながら、顔をこちらに近づける。

 私は彼の顔をうっとりと見つめていた。


「最初の命令だ。自分から俺にキスをしろ」

 ずっと、グレアのことがあったから、殿下に自分から口づけをしたことはなかった。でも、それは今日で終わり。


 私の濡れた服がゆっくりと脱がされていく。下着姿になった私は目を閉じて、彼とキスをする。


 もう自分にはこうすることしかできない。一種の絶望感も背徳のスパイスにしながら、私は自分から彼を受け入れた……

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