第13話 新たな階層へ&泣き崩れる元・婚約者(微NTR有)
マーリンを無理やり仲間に引き入れて、俺たちの3階の探索はどんどん進んでいった。やはり、遠距離攻撃が得意な魔術師を仲間に入れると、効率が全然違う。近距離はスーラ、中距離は俺の弓、遠距離はマーリンで攻撃が可能となってバランスが良くなった。
魔獣系モンスターの狩りも取り逃す確率がグッと減って、食料調達が楽になったな。
「くそ、どうして、ワシが人間と一緒にダンジョン探検なんか……」
そう悪態をつく魔族に対して……
「ん、今の反抗か?」と魔石を気にするそぶりを見せるだけで、「申し訳ございません」と謝ってくるくらいに……
魔族にとって光魔力とはそれほどまでに痛いものなんだな。俺たち人間にはちょっとピリッとするくらいなのに。
「じゃあ、今日から4階だな」
そう言うと、スーラが珍しく低い声で『気を付けた方がいいよ、グレア……』と注意を呼び掛けてくる。
「なんでだ?」
「4階には、奴がいるからな。人間を見つけたら、執念で追いかけてくるあいつが……」
マーリンはいつも白い顔をさらに白くして何かにおびえたような声をあげた。
「奴ってなんだよ?」
『魔物にはいっさい目もくれずに、人間だけを襲う
なんだよ、それ。かなりやっかいじゃないか。執念深い上に、不死能力持ち。冒険者は逃げるしかない。
「肌身離さず、すぐに転移結晶を使えるようにしておこう」
転移結晶を道具袋の一番上に移動し、すぐに手につかめるように調整する。下手にマッピングするよりも早く下へ続く階段を見つけた方がいいよな。
『うん。4階はそのほうがいいよ』
俺たちは
階段を降りるといつもの通路が続いている。近くに敵がいないかを確認する。マーリンによる
「ま、さか」
胴体と手足だけの身体に、さびついた
「あれが
その言葉に反応したかのように、騎士はこちらに向かって、ゆっくりと歩みを続けた。
「人間、殺す。生きた人間、許さない」
完全に標的にされている。いや、むしろこの階段近くにずっと待機していたのかもしれない。人間は転移結晶を使わなければ、絶対にここを通るからな。帰る時も進むときも。
「ちぃ、逃げようにもあいつがいない方向は行き止まりだ。戦うしかない」
俺の言葉を聞いて、マーリンはすぐに詠唱を始めた。やはり、頭がいい。自分がやらなければいけないことはすぐに理解して行動してくれる。
「
突進してくる騎士に対して、罠のように火炎の壁が作られる。魔力の中でもカウンター攻撃に分類されるものだ。勢いよく突進してきた相手は、突如出現したこの火炎に包まれてしまう。
「やったか!?」
しかし、あいつの鎧から発せられる鈍い音は止まらなかった。ダメか。
俺の毒矢攻撃も、あのさびついた
接近された。今度はスーラが酸攻撃を飛ばした。
圧倒的すぎる。俺たちが持っているすべての攻撃が無効化された。
逃げるしかない。俺は転移結晶を掲げて、聖域へと逃げ帰った。
対策なしで相手にできる相手じゃない。
※
―王都(ソフィー視点)―
私の部屋に殿下がやってきた。
「殿下、こんなに夜遅くでは……皆さんに噂が……」
私は苦しい言い訳で拒絶しようとした。昼に公爵家で言い渡された絶縁宣言が、私の心をむしばんでいた。
「もう、噂されているだろう。何を気にする必要がある。それに俺は知っているぞ。ソフィー、お前、正式に婚約破棄したんだってな。ずいぶんと薄情な女だ。グレアが失踪して1週間で見限るとはな……。そんなに俺の身体が忘れられなかったのか?」
「ちがっ……」
否定の言葉を邪魔するかのように、殿下にくちびるを奪われる。
必死に彼の胸に押し付けて拒絶の意思を示した。
「ふん、もっと抵抗するのかと思ったぞ」
「……」
うつむきながら、殿下に対する憎悪がわきあがる。でも、これは八つ当たりだ。一番悪いのは私。
「まぁ、いい。今日はお前が知りたがっていたグレアの消息のヒントを持ってきたぞ。知りたいだろう?」
「えっ!!」
私は思わず、殿下の肩をつかんでしまった。
「これだよ、見ればわかる。王都の西の森で見つかったそうだ」
そして、何かを包んだ白い布を手渡された。
嫌な予感が頭によぎった。最悪の可能性。そんなわけがないと必死に否定しながら、包みを開封する。
そこにあったのは、指輪と白く小さな骨。指輪には見覚えがあった。ミザイル公爵家が代々継承している次期当主が身に着ける宝玉を飾ったもの。グレアが肌身離さず身に着けていた、あの大事な指輪。
そして、明らかに人間の骨だと分かる物体。これが何を意味するのか……否定しようとしてもできるものではない。
「おそらく、魔物に襲われたんだろう。そこには数本の骨と指輪くらいしか残っていなかったようだ」
まものにおそわれる。だれが? グレアが? どうして?
あの優しかった彼が、魔物に殺された。誰にも看取られずに、ひとりでさびしく……
わたしのせいで?
わたしが彼を裏切ったから?
ちゃんと最後にお話もできなかった。謝ることも、恨まれることも、もうできないの。
自分の中で何かが壊れた音がした。視界がモノクロになっていく。
意識が途切れそうになった瞬間、殿下が悪魔のように笑っているのが見えた。
わたしは、どこで間違えちゃったんだろう……
冷たい床に身体が強く打ちつけられながら、私は身体の痛みよりも心の痛みによって、意識を失った。
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