第15話 首無騎士勧誘作戦&堕ちていくソフィー(NTR要素アリ)

「よし、作戦決行だ」

 俺たちは、再び階段前に転移すると、事前の作戦通りにマーリンを先頭にして下に降りた。


「人間、来たのか。今度は殺す」

 やはり、首無騎士デュラハンは階段近くで待機していた。俺たちがまた来るのを待っていたのかもしれない。


 前回よりも強い殺意をこめて、俺たちの元に突進してくる。鎧は地面とこすり合って鈍い音を立てている。気迫だけで、人を簡単に殺してしまうような……


 転移結晶の発動には、5秒は必要だ。おそらくあいつもそれを計算に入れている。こちらが結晶を取り出す余裕も与えてはくれないだろう。


「マーリン!」

 俺は転移結晶よりも先に、前衛に合図した。


「わかってますよ、グレアっ」

 奇術師の両手は、地面に向かって魔力を解き放つ。火炎魔力をあえて、地面に流すことで、床を吹き飛ばした。


 首無騎士デュラハンの足元に爆発の影響で大きなクレーターが発生する。全力疾走でこちらに向かっていたあいつは、さすがにバランスを崩し転倒する。これが狙いだ。


「まさか、この程度の落とし穴で、俺を足止めできるとでも……」

 確かにそれも考えた。ここから全力疾走で横を駆け抜けて逃亡する。しかし、あの能力を考えれば、どう考えても逃げられない。


 熟練の冒険者なら正面から挑んで、その都度、首無騎士デュラハンを戦闘不能にすればいいんだろうが……前回の挑戦の際に思い知ったからな。


「それは準備だよ、スーラ。頼む」


『うん』

 スーラは自分の体液を穴に落ちた騎士に向かって投げつけた。


「ちぃ、酸か。たしかに、これなら避けられない」

 あいつは、斬撃でスーラの液体を切りつける。しかし、放物線を描いて、穴に向かっていた液体は斬撃でもすべてを吹き飛ばすことはできなかった。


 水の塊は、アンデッドに降り注いだ。だが……


「残念だったな、人間ども。俺の鎧はこの程度の酸なら無効化できる。お前たちの負けだ」

 勝ち誇ったように、穴の中から首無騎士デュラハンは勝利を宣言した。


「誰が酸だと言った?」

 その宣言を無効化するように、俺は冷たく言い放つ。


「それは、ただの水じゃよ。騎士ナイト殿っ」

 マーリンも俺とタイミングを同じく作戦成功を確信する。


 デュラハンの上半身が水の中でギリギリ露出している。かなりの水の量だ。これならいける。マーリンはすぐさま詠唱をおこない、強烈な氷魔力を穴の中に解き放った。


「ふん、その程度ではこの白銀の鎧シルバーアーマーで弾き飛ばせる」


「狙いはそれじゃない……」

 マーリンの魔力は、鎧騎士本体ではなく、周囲の水に向けられていた。中央にデュラハンを入れたまま、周囲の水は一瞬で凍結する。


「なっ……」

 作戦は成功した。さすがに、周囲を厚い氷で固められれば、さすがのあいつでも体を動かすことはできなくなる。


「くそ、身体が動かん。おのれぇ、人間ども……殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる」

 身体が完全に氷で封鎖されている魔物は、どんなに強く怨嗟えんさの声をあげても動くことはできなかった。


「無駄じゃよ。いくらあんたの力でも、そこから抜け出すのには半日は必要じゃからな」


「うぉぉぉぉおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉおぉっ」

 最強クラスの魔物の力でもマーリンの強烈な魔力によって作り出された氷はビクともしなかった。


「なぁ、話をしようぜ、首無騎士デュラハン。どうして、そこまで人間を恨んでいるんだ? お前だって元は人間だろ?」


「許さん、俺は絶対にお前たちを許さないっ。お前たちのせいで、俺は……」

 首がないはずの魔物に、一瞬人間的な迷いが読み取れた。


「話してみろよ、首無騎士デュラハンっ!!」

 俺のうながしの返答として、やつはものすごいうなり声をあげた。


≪万物の声を聴きなさい≫

 スーラと出会った時、聞いた謎の声を思い出す。


 そうだ、言葉を持たないスーラとも会話できたんだ。

 俺は神経を集中させて、首無騎士デュラハンの絶望に触れた。


 ※


―王都(ソフィー視点)―


「殿下……」 

 私は思わず、彼に抱きついてしまう。すべてが終わった後、絶望に染まっていたはずの私の心はよろこびにあふれていた。


 お互いの体温を交換しながら、傷をなめ合うように、身体を抱き合わせる。


「もう、あいつのことは忘れろ。いいな。そうしなければ、俺たちは破滅する」


「は……い」

 本当の意味で、私は完全にグレアのことを忘れていた。もうどうなってもいい。刹那せつな的な快楽に身を任せて、グレアが死んだことを秘密にして、保身に走れば、私はずっとこの幸せな場所に居続けることができる。


 それがわかってしまった。頭で理解してしまった。だから、もうグレアを好きでいることはできない。私は、完全に裏切り者となってしまった。


「いいんだぞ、ソフィー。俺じゃなくて、グレアに義理を立てても。このままならあいつはただの行方不明者。死んだことすら認知されずに、世間からは忘れ去られていく運命なんだ。いくら婚約破棄したとしても、情くらいは残っているだろう?」


 人間であれば、それが間違いなく正しい道の進み方。グレアを裏切り、彼を殺してしまったのは私だ。背負っている罪くらいは自覚している。でも、それを選んでしまえば、今のような殿下との幸せな未来は完全になくなってしまう。


「いや、です。私は、ずっと殿下と一緒がいいです」


「俺の方がグレアよりも大事か?」

 最低の質問。はっきりと口にすれば、私は人間ではなくなる。理性が必死に止めていた。でも、私の気持ちは、簡単にその場しのぎの快楽を優先してしまう。


「はい。死んでしまったグレアよりも、私はあなた様の方が大事です」

 それを聞いた瞬間、殿下は大笑いしながら、満足そうに私の頭をなでてくれた。


 グレアにされて一番うれしかった好意を、彼がやってくれた。

 私は我慢できなくなって、自分から彼にキスをする。もう誰も暴走する気持ちを止めることはできない。


 私は完全に王太子殿下に堕とされてしまった。


――――――


ソフィー=マーベル(伯爵令嬢・貴族学校学生)

→グレアの元婚約者。学業に優れる優等生で、才女と評判。しかし、内心では旧・ブーラン王国貴族の出自にコンプレックスを抱えており、強すぎる上昇志向によって板挟みとなっていた。

(能力)左:現在/右:ポテンシャル

政治:71/89

武力:11/11

統率:9/10

魔力:69/80

知略:64/81

魅力:85

義理:4


(適正)

剣:D

騎:D

弓:D

魔:C

内政:B

外政:B

謀略:A

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る