第9話 公爵、ダンジョンに適応する&婚約者後悔する
俺がここに閉じこめられてから1週間が経過した。ドランさんは翌日、ここを出て行った。俺たちも1階の入口付近までは見送って、別れを惜しんだ。でも、ここを無事に脱出して、彼とも再会することをモチベーションにして、ここで生き残ることを頑張ろうと思う。
王太子派は、俺がここから脱出しようとしたら、間違いなく殺しに来る。いくら強いスライムと言えども、国家権力を敵に回したら……勝てるわけがない。
だから、俺はこのダンジョンで力を蓄えなくちゃいけないんだ。
伝説の難関ダンジョンのここには、俺が手に入れた魔石のほかにも、きっとすごい宝物がたくさんあるはずだ。それを使って、地上でも安定して生活できるような状況を作り、家族やナタリーとも接触できれば……
それが理想だ。でも、俺を廃嫡している状況を考えれば、家族すら俺を見限っている可能性がある。居場所が完全になくなっていたらどうしようか。そんな考えが頭をよぎって、あわてて否定する。俺が皆を信じなければ、誰が信じてくれるんだ。
「今日も探検に行くぞ、スーラ」
『うん、グレア。今日は3階に行ってみようか?』
スライムのことは、
ここ1週間で1階と2階はかなり探索が進んでいた。スーラがかなり道を知っているのもあって、隠し扉などはわかっていないかもしれないが、通常の通路はほぼ
そして、もうひとつ……
極限状態におかれたことで、俺の弓技術がかなり上達した。スライムの体液から作り出した
弓と乗馬は、貴族のたしなみということで、地上でもある程度やっていたことが大きかったみたいだ。スライムの強烈な毒もあって、かすっただけで魔物たちは動けなくなる。
特に狙い目は、ウサギ型やイノシシ型のモンスターだ。比較的に攻撃スタイルが力押ししかなく、単純なので、俺でも遠距離から弓矢で攻撃を仕掛けやすい。攻撃が当たってしまえば、あとはこちらのものだ。貴重な食料として活用させてもらう。
聖域内で育てているイモも順調に成長していた。やはり、あの魔石は日光の代わりになっているみたいだ。ある程度成長したら、種芋を増やして、さらに生産量を増やしてやる。ドランさん以外の冒険者ともたまに、ダンジョン内ですれ違うことがある。
昨日もそうだ。俺はスーラと一緒に1階の探索を行っていた。
※
「魔物かっ!!」
ダンジョン捜索中に、前方から大きな声が響いた。4人の冒険者パーティーが臨戦態勢でこちらをにらんでいた。
「違う、撃たないでくれ。俺はグレア。
そう言うと彼らは警戒心を解いてくれた。
「すまない。同業者だったか」
俺は、スーラを連れていることもあって、最初は敵と誤認されやすいらしい。まだ、1週間で3組ほどしかすれ違っていないが、ドランさんを除く他の組からは敵性存在だと認識されていた。
「いや、いいんだ。慣れているよ。ダンジョン内をマッピングしているんだが、どうだ情報はいらないか。罠の場所や種類を書き込んだ1階・2階のマッピング情報なら手元にある」
そして、これはチャンスだった。俺はスーラのおかげで安全に浅い階のマッピングができていることもあって、情報屋のような存在となっていた。普通に地上でこの情報を売れば、かなり儲けることもできるだろう。だが、あえて食料や物資と物々交換する。向こうは、多額のお金を請求されると思っているので、
向こうも最短距離で1階・2階を抜けることができるので、俺に渡す以上に物資の節約になるからウインウインになる。
貴重な薬草や弓矢、ここでは作れない野菜やフルーツなどが増えていくことで、さらに俺の生活は安定していった。
ただ、地上に帰った冒険者たちによって、俺の情報が伝わって、
ドランさんと最初に出会った階段を降りながら、俺は新しい冒険にワクワクしていた。
※
―王都(ソフィー視点)―
グレアが行方不明になって1週間がたった。私は極力、部屋の外からでないようにしていた。授業すら受けることもなく、ただ自室で引きこもり続けるだけ。
仲が良かった友達は、いつの間にか話しかけてもくれなくなった。逆に、今まで話したこともない人たちから親し気にに話しかけられるようになった。それもうすら寒いほどの下心丸出しで……
あなた、王太子殿下の愛人なんでしょ? なら、仲良くしていて損はないわよね。そんな考えが顔に張り付いている人たちしか、私の周囲にはいなくなった。
あれからうまく眠れない。目を閉じると、あの絶望したグレアの顔が浮かんでしまう。そして、罪悪感でいっぱいになる。
ひとりだけのベッドは、絶望でしかない。
今まで楽しかった思い出が、フラッシュバックしてしまう。彼の優しい笑顔が頭から離れない。
ナタリーさんと3人でお茶会をしながら、私が焼いたクッキーを喜んでくれた二人の笑顔が……
もう二度と手に入らない幸せな思い出が……
今後、楽しい毎日だったはずの、あったはずの未来を求めてしまう。
そして、自己嫌悪。
自分の浅はかさと浅ましさ。そして、自分の責任でこうなっているのに、それを求めてしまうことに。
食べ物はすべて戻してしまう。眠れない。常にふらふらしていて、気持ち悪い。貧血も止まらない。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
取り返しのつかないことをしてしまった罪悪感。震えながら、なんとか寝付こうと必死に目を閉じた。
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