第6話 ダンジョンで始めるスローライフ?
3つの魔石は最高だった。むしろこれがなければ、この鬼畜ダンジョンを攻略できないんじゃないかすら思う。
残り2つの宝箱の中も確認するか。俺は溶かされた宝箱から罠などを作動させないように丁寧に中にある物を取り出した。
「ん、なんだこれ?」
中からは3つのイモのようなものを見つけた。学園では、将来的に領地の農民への農作指導などを行う必要もあるので、農学の勉強はしていた。だから、ある程度は、農作物の種類くらいはわかる。おそらく、
種芋と一緒に古代文字で書かれたメモが見つかる。おそらく、この宝を仕掛けた人のものだろう。
『ねぇ、なんて書かれているの?』
「あっ、ああ。どうやら、これは冒険者だった魔導士が見つけた他の大陸の芋らしいな。どんな劣悪な環境でも、日光と少量の水があれば育つらしいぞ。その魔導士は、これが
『へぇ、そういえば宝箱の中に数百年入っていたのに、腐ってないねぇ』
「うん。その魔導士が強力な保存魔力を付与していたんだな。そして、魔力による品種改良で、1か月もあれば収穫できるらしい」
まるで、魔法アイテムだな。そんなすごいものがあれば、領地が豊かになる。
『地上だったらすごいものなんだろうね。でも、こんな地下じゃ育たないよね』
「いや、
魔石の名前的に、これは日光の力を貯めこんで使っているはずだ。つまり、小さな太陽。魔石は割って分割して使うこともできる。半分に割って、それぞれを松明用と農業用に使えば食糧事情も改善される!!
生き残れるぞ。この最悪のダンジョンの中でも!!
希望が見えてきた。
そして、最後の宝箱にあったものは……
「これが一番わからないな。なんだこれ? カギか?」
カギの様なものが出てきた。魔石かと思って魔力をこめても反応しない。何の変哲もない謎の鍵。きっと大切なものなんだろうが……
まぁ、いいや。とりあえず保存しておこう。この聖域は俺の寮の部屋4個分の広さだからこんな小さなカギなら
罠もない宝箱を荷物入れに活用して、俺は次の段階に動く。
食事の問題はとりあえずまだ不安があるが、安全な住居は確保できた。
イモが収穫できるまでに、あと1か月はかかる。それまでに袋の中の食料は絶対に持たない。つまり、なんとしてでもダンジョン内を移動して食料を確保して食いつながなかればいけないんだ。
よし、この青色の魔石を聖域の入口にセットする。これで準備万端。
『探検に行くの?』
「ああ、この魔石の効果を見せてやるよ」
俺たちは再び聖域を抜け出して、ダンジョン
※
松明よりも明るい魔石の効果で、探索は思いのほか進んだ。スライムと魔石の存在によって魔物たちは、俺たちに近づく前に逃げていく。
さらに数百年間冒険者たちの夢を
さすがに白骨死体を見つけた時は驚いたが、近くに落ちているアイテムは回収させてもらう。
昔読んだ物語を思い出すな。
遺体から貴重品を盗み出す老婆の話。
ただ、やはり薬草などのアイテムは、ほとんど腐敗などしていて使い物にならない。食料も絶望的だった。原形をとどめていないし、魔物たちに食われてしまったのだろう。穴が開いたアイテム袋に食料はない。
薬草や毒消し草はわずかに使えそうなものだけ手に入れることができたのが不幸中の幸いだな。
さらに探索中に下に繋がる階段を見つけることができた。
よし、ここに青の魔石を仕掛けるかと思った瞬間だった……
荒い息づかいが聞こえた。階段を登る影がゆらりと見える。
銀色の鎧を身にまとった大柄の老戦士だった。
深い傷を負って、今にも死にそうだ。
「魔物かっ!!」
戦士がスライムの様子を見て、臨戦態勢に入りそうになるのを必死に止める。
「違います、人間です」
俺の声を聴いて、老戦士は安心したようにうなずく。
「そうか、すまなかったな。
「大丈夫ですか。すごい傷ですよ」
「すまないが、薬草を持っていたら分けてくれないか?」
戦士は死にそうな顔でそう嘆願した。
スライムは注意の言葉を発した。
『どうするの、グレア? そんなに薬草に余裕ないんでしょ』
ああ、そうだな。だが、ひどい傷だ。ここで薬草を渡さなければ、彼は間違いなく死ぬ。しかし、俺が生き残るにも薬草はいくらあっても足りない。どうする、グレア……
時間が止まってしまったかのように感じられた。冷たい汗が背中に流れていく。
※
―王都(ソフィー視点)―
自室に戻って自己嫌悪にさいなまれる。
結局、グレアの行方はわからなかった。王太子殿下にいいように
最初は嫌悪感しかなかった殿下の強引さに、
心では拒否しなくてはいけない。グレアのことが心配だと思っていても、最悪の裏切り行為を続けていた私の身体にとっては、それは背徳感のスパイスに変わってしまう。
結局、私の身体は殿下を求めてしまうのだ。浅ましいほど素直に……
身体につられて、心まで彼に
いや、グレアに浮気現場を見つかるまでは、完全に堕とされていた。
どうしようもない深い沼にはまっていく感じに怖くなる。
殿下に抱かれている時、私は完全にグレアを忘れていた。その事実を突きつけられてから、食事は喉を通らずに、胃の中のものはすべて戻してしまう。これが本当の生き地獄なのかもしれない。
神様が私に与えた罰。
そういう風に自分に都合よく解釈してしまう自分のわがままさが嫌になる。一番つらいのはグレアのはずなのに……。
「ごめんなさい、グレア……」
私は祈りを捧げるように、グレアに祈った。偽善的な行為だと分かっていても、これくらいしかできることはなかった。
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