第5話 宝箱開封(王都編NTR要素アリ)

「無双してたな。お前……」

 スライムはルンルンに頭の上に宝箱と俺を乗せて、来た道を戻っている。圧倒的な暴力感は、最初に会った時のこいつを思い出す。偽装怪物ミミックたちは本来捕食者側の魔物だ。宝箱に潜み、油断した冒険者を狩るトラップモンスター。


 実際、ダンジョンにおける死傷率トップはこいつらと言われている。そして、床に隠されている罠すらも無効化していくこいつのぽわぽわとした強さをまざまざに見せつけられた。


『そうかな。いつもこんな感じだよ』

 そりゃあ、誰もこいつに逆らわなくなるよな。ここら辺の階層のあるじと恐れられているんだろう。さっきから獣型の魔物が通路でばったり遭遇そうぐうすると、尻尾しっぽを振って逃げていくことが何回もあった。


 きっと、道をゆずらないと、さっきの罠みたいにみ潰されて溶かされてしまうんだろう。


「こんな柔らかい口調で、やっていることが鬼畜きちくすぎる」

 

『ボクは、ボクと会話ができない動物は皆、敵だから』

 最強クラスの怪物スライムはケタケタと笑った。ちなみに、偽装怪物ミミックは、B級冒険者でもかなり苦戦する。すでに、ダメージを負っている場合は、死を覚悟しなくてはいけないらしい。


『ねぇ、グレア? 人間たちは、B級とかC級とか冒険者を順位付けしているみたいだけど、どういう感じなの? 強さ順??』

 一応、テレパシーでつながっているせいで、俺の心も読めてしまうらしい。


 人間は、冒険者ギルドに登録することで、冒険者になることができる。

 最初はD級から始まって、仕事をこなしていくとC級・B級・A級・S級と昇格していくんだ。だいたい、D級からC級に昇格できるだけで、かなり才能があるらしい。8割のD級冒険者は、C級に上がることなく、消えていく。挫折ざせつして違う職業に転職できるなら幸せ者。半分近くが冒険中に殉職じゅんしょくする。


 B級冒険者からは全登録者数の上位5パーセントとなり、A級冒険者になると人外の天才。S級冒険者は、10万人を超える冒険者の中のトップ20に入らなくてはたどり着けない狭き門。


 B級冒険者は、軍隊に入ればエース的な存在。

 A級冒険者は、一人でひとつの戦場をひっくり返す存在。

 S級冒険者は、一人で戦争の勝敗を変えてしまう存在。


 そんな風に恐れられている。

 世界各地に散らばるダンジョンにも、冒険者のレベルに応じて解放される。この死の迷宮ラビリンスは、最低条件でB級の冒険者免許ライセンスが必要になる。


 一度だけ、S級冒険者が4人のパーティーを組み、このラビリンスを攻略しようとした時がある。200年以上前のことだが。その最精鋭チームですら、地下20階でモンスターに破れて重傷を負い、命からがらここから脱出したらしい。


『ふ~ん、そんな感じなんだ』


「ずいぶん、反応が薄いな。ちなみに、お前は冒険者パーティーと戦ったことあるのか?」


『ボクを見ると、人間たちも逃げちゃうね。相手するのが面倒だからって……ボクも無理して追いかけないから、ちゃんと戦ったことはないなぁ』


「だろうな。地下2階とか浅い階で、強力魔力で吹き飛ばさないと勝てないお前と全面戦争するなんて割に合わなすぎるだろう」


『ふ~ん、そういうものなんだね。まぁ、僕はめんどくさくないからその方がいいけど』


 そんな会話をしていると、湧水の部屋に戻ってきた。よし、モンスターは入り込んでいないな。スライムが入口によりかかって、封鎖してくれれば、俺たちは外敵の恐怖を感じることなく、ここでリラックスできる。


「よし、開封タイムだな」


 ※


 目の前に、5つの宝箱を並べた。形状に違いはない。ちなみに、開けたら爆発やら毒矢が飛び出すトラップ宝箱もあるらしい。盗賊シーフスキルを持っている冒険者なら解除できるんだけどな。でも、俺にいい考えがあった。


「なぁ、スライム。この宝箱を溶かしてくれないか? 少しだけ体液をかけてくれればいいからさ」


『いいよぉ』

 スライムは、数滴ずつ宝箱に酸の液をかけていく。たいていの罠は、宝箱のふたを開いたら作動するトラップだ。なら、蓋を開かずに、宝を奪ってしまえばいい。


 予想した通り罠は何も作動せず、宝は露出する。

 3つの宝箱からは、赤・青・白の魔石が出てきた。


「えっと、何の魔石だろう? どれどれ」

 魔石には自分の魔力を少しだけ分ければ、効果を発動させることができる。


 赤い魔石には太陽石ライトストーンと書かれている。魔力をともすと、魔石は自由に動き始めて、俺たちのことを照らし始めた。


『うわぁ、まぶしいなぁ。まるでお日様みたいだよ。ボクはジメジメした場所が好きだけど、たまにはこういう温かい感じもいいよねぇ』


「すごいな。こんな魔石みたことない。これで松明や魔力消耗を気にせずに、動くことができるな!!」

 実際、最初の袋には数本の松明が入っていたが、これが無くなったら、俺は魔力を消費して、あの小男がやっていたような光源魔力を使わないといけないと思っていた。これがあるだけで、体力の消費が全然違う。ダンジョン攻略とは最強の相性を持つ魔石だな。


『ねぇ、青い石は何?』

 

「これは地上にもあるよ。すごい高価な魔石だ。手のひらと同じくらいの大きさがあるけど、こんなにあれば家が何件も買えるぞ!!」


『へー、それってすごいんだ。ねぇ、使ってみてよ!!』


「悪い、まだ使えないんだよ。準備が必要だからな」


『なんだつまらないなあ』


 そして、俺は聖域石サンクチュアリ・ストーンと書かれた白い石に魔力を込める。


 これも見たことがない魔石だな。魔力を込めると、光りはじめた。


『うわ、まぶしい。でも、赤い石よりもなんだか優しいなぁ』

 そして、石ははじけ飛んだ。俺たちの脳内に、女の声が響く。

 

<魔力を確認。この領域を聖域サンクチュアリに設定しますか?>


聖域サンクチュアリって、なんだよ?」


聖域サンクチュアリには、あなたが許可した存在以外は入ることはできなくなります>


『じゃあ、ぼくたち以外、許可がなければこの部屋には入ることができなくなるの?』


<そうです>


「永遠に?」


<あなたたちが解除するまで、永遠にです>


 とてつもなく魅力的な話だった。いくらスライムでも、寝ている間は無防備。2人が寝ている間に、この部屋の俺をねらって魔物が潜入してきたらどうしようもない。代わる代わる見張りをしたりするしかないが、体力の消耗が激しくなる。


 しかし、ここを聖域化できれば、安心して体力を回復できる。さらに、最強の安全地帯を確保できる。この危険なダンジョンに、絶対的な安全圏ができる。それだけでも生存率は格段に上がる。さらに、周囲を探検している間に、ここに盗まれる心配なく荷物を置くこともできる。


「この部屋を聖域サンクチュアリにしてくれ!!」


<わかりました>

 部屋は輝き聖域化を意味するはずの魔方陣が完成した。


 ※


―王都(王太子視点)―


 俺は、学園寮の部屋にいた。


「殿下。本当にグレアがどこにいったのかわからないんですか?」

 ソフィーが語気を強めて、こちらに詰め寄った。


「くどいぞ、ソフィー」


「あなたなら、彼がどこに行ったのかわかるんじゃないんですか」


「いい加減にしろ。過去の男のことは忘れろ。キスもしたことがなかったんだろう?」


 俺はばかにしたように笑う。こんないい女を前に何の手も出さなかったあいつは本当におろか者だ。あいつは、気を失っている間に情報局に拉致らちされて、死の迷宮ラビリンスに送り込まれたからな。


 グランドには、「公爵家から廃嫡された」・「お前は、反逆者の烙印らくいんを押されている」という嘘を伝えるように言っておいた。


 これで、女・家・名誉。あいつはすべてを失った絶望を感じて死んだはずだ。いい気味だ。昔からグレアのことは嫌いだった。俺よりもはるかに劣るくせに、周囲から愛されていたあいつのことが……


 目の前の女は、最初は無理やり手籠てごめにした。嫌がるあいつのくちびるを奪い、長い時間をかけて骨抜きにする。貴族の令嬢として、清く正しく生きてきた生娘きむすめを陥落させることは容易だった。浮気した事実を脅しにして、何度も呼び出し、俺がいなければ生きていけない体にする。


 男としての征服欲を満たして、自分から婚約者を裏切るようないやしい女を作り出すことに成功した最高の時間だった。


「殿下っ!!」

 めんどくさい女だ。まぁ、いい。


 俺は有無を言わせずにソフィーのくちびるを奪った。最初の時と同じように。女の体の力は抜けていく……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る