10.憑依
目を覚ましたら見知らぬ天井。ベットに寝ていた。運ばせちゃったのかな。申し訳ない。
『いや、オレ様が歩いてやったんだ。オレ様に感謝しろ』
え、ジャックが。そういえばずっと静かだった。流石に討鬼士の本拠地。彼でも普段通りとはいかないのだろう。
『馬〜鹿。妖刀だのなんだの。全く興味がないから寝てたんだよ。まったく、戦いならオレ様が出ればそれで終わりだ。あの犬っころには精々愛玩用に芸でも仕込むんだな』
すごい自信だ。だが、センを馬鹿にすることは許されない。怒る。
『まあ、好きにしな。いいか。オレ様は天の邪なる鬼だぞ。こんな格好良い名前の鬼なんているか!』
自信満々に己の名前を誇る。彼の自信の通りの力があるのなら俺も助かるので敢えて突っ込みはしない。鬼は名前で強さが決まっているのかと。
「気が付いたみたいね」
大槻さんが水と軽食を持ってきてくれた。体調を確認されたがやや気だるいだけで、特に不調は感じない。
「そう。霊力の回復も早いのね。ごめんなさいね。最初にこうなることが分かっていたらなかなか限界まで霊力を使うこと出来ないでしょう。力を使い果たして気絶なんて実戦じゃ命取りだから、訓練中に一度は経験しておいて欲しかったのよ」
確かに倒れるまでやれと言われて素直に出来る勇気は俺にはないだろう。鬼と戦うことになるのなら、この経験はいつかきっと役に立つと皆に感謝した。
「普通はこんな無茶はしないんだけどね」
聞き捨てならない。なぜ普通にしてくれないのだろうか。
「隊長はとにかく早く、君に討鬼士になって欲しいみたい。隊長権限でどこまで周りを抑えておけるかわからないし。君に言うのは恥ずかしいんだけどここも一枚岩ってわけじゃないから」
討鬼府は大きな組織みたいだし、いろいろな派閥があるのだろう。敵である鬼を体に宿した自分を討鬼士にして組織に組み込もうとする佐野隊長の方が異常な気がする。
「ま、組織関係のことはおいおいね。どう、《憑依》の感覚しっかり覚えてる?体に宿った妖の力、しっかり感じたかしら?」
「はい。センの力、確かに」
変化の調整で一杯一杯だったが、体にはセンの妖力が満ち満ちていた。また、思いきり走り出したいというセンの感情が頭の片隅に浮かび上がっていた。
「本当にセンスがいいわね。妖の感情までわかったなんて。《憑依》は妖の力を使ってこそ真価を発揮する。妖の思う通りにさせれば初歩的な力は使えるはず。ただ、それは本当に危険だからしっかりと力の制御するようにね。無茶しないように」
討鬼士の誰もが通る道らしい。体に湧き上がる力の万能感に振り回され、力を暴走させて怪我をする。気を付けよう。
そして、3日後。ケモ化の調整は完全に出来るようになった。これからセンの力を使おうと呼吸を整える。
「走れ!千疋狼!!」
100mくらいある訓練場の端から端まで一瞬で移動できた。すごいぞ、セン!
「移動術か。最初に覚えるには悪くない。攻めも逃げも速さはとても大切だからね」
佐野隊長のお墨付き。
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