9.習得
…なんてこともなく道場に座り、センと向かい合う。やっぱりいいな、格好良さとかわいさが同居しているというかこの鼻のラインと耳の形、そしてなによりこの眼がなんとも…。
「こら!集中しなさい」
大槻さんに叱られてしまった。だが誰も俺を責めることなど出来ないはずだ。センと見つめ合って落ち着いてなど…。いけないまた脱線してしまう。集中。
センと一体になることをイメージする。それはなんと幸せなのだろう。絶対なってみたいと強く願う。
目を瞑り、センと自分の姿を想像していく。ケモ耳の俺は…まだ許される年齢だろうか。出来るだけ格好良いイメージを練り上げていくと体が熱くなってきたような気がする。体調不良か?色々あって心身共に疲れているので無理もない。でも全然辛くないし、むしろ体に力が漲っている様な。熱い!
「ウオオーーーン」
我慢できず叫んでしまった。眼を開け手を見ると、これはケモ足。いやケモ手になるのか?そのケモ手で違和感のある顔を触れるといつもの輪郭ではない。これは!
「すごいわね。《憑依》出来たじゃない」
大槻さんが鏡で見せてくれた自分はケモ耳どころか狼男だった。センの面影があるのでかっこいい。不思議な感じだ。姿形は変わっているのに体を動かす感じはいつも通り。多少違和感があるがまるで被り物をしているような。試しにあ、ア、と声を出しても問題ない。
「これどうなってるんですか?大丈夫なんですか?」
少し怖くなり、大槻さんに尋ねた。
「大丈夫でしょう。セン君から悪意は感じられないし。むしろ協力的だからこんなにすんなり《憑依》出来たんだろうし」
「肉体は《憑依》によって変化していても君の霊体まで変わったわけじゃないからね。違和感なく動かせるように慣れること。あとは力の入れ所と変化の割合を自在に出来れば合格点さ。大分セン君寄りになっているから力を抑えてみるんだ」
佐野隊長の言う通りに手に込められている力を抑えるイメージするといつもの手に戻っていく。でもそれだけでとても疲れる。なんだかクラクラするような…。
「はい、そこまで」
大槻さんに肩を叩かれると体から力が抜ける。センは刀に戻ったようだ。ぜーぜーと呼吸が乱れる。
「《憑依》は妖の力を自在に使えるようになるが代償がないわけではない。霊力を大量に消耗する。すると今みたいにとても疲れるというわけさ」
聞いてない。説明は事前にお願いします。
「まさか初日で《憑依》の基礎が出来るようになるとはね。これは入隊も近そうだ。ヤエ君、入隊祝いの準備よろしくね」
「はい!いつでも出来るように準備万端です」
さすがです久信田さん。そう思った時、意識が途絶えた。
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