8.特訓
「ちょっと、ちょっと!そんな簡単に決めていいの?」
良いのである!大槻さんは慌てているが、千疋狼の眼を見なさい。あんな眼で見られて選ばないなんて考えられない!キュピーンという効果音が聞こえる。
大槻さんは私の時は…、とか言っているが耳に入ってこない。
「直感は大切だよ」
佐野隊長が頷く。
「隊長の言う通りです!」
ハイハイ、久信田さんはやいね。
「刀が決まったんだ。早速特訓だよ。ヤエ君、訓練場の準備は大丈夫かい?」
「はい!もちろんです。第6訓練場を11番隊名義で貸し切っています」
「じゃ、行こうか」
目の前の千疋狼はハッ、ハッとお座りしたままである。自分が歩けば付いてくるのだろうか。
「さすがに妖を連れまわすのは目に付くわ。大分懐いているみたいだし、戻れって言えば大丈夫よ」
「セン、戻れ」
言われた通りにしてみたら、千疋狼がワンと言って消える。刀が少し重くなった様に感じる。
「訓練場に行きがてら討鬼士の条件確認をしよう。条件は簡単、3つの事が出来れば良い。《具現》、《憑依》、《開放》さ。《具現》はクリア。ヒカリ君はあと2つ覚えれば討鬼士だ」
佐野隊長は簡単に言うが、前に大槻さんに説明を受けたときは討鬼兵の1割しか討鬼士になれていないという話だ。特訓は過酷になるだろう。
「さ、着いた。ここなら思いきりやれるから。《憑依》の練習開始だ」
相変わらず不思議な力ですぐ着いた。板張りの道場。この討鬼府全体に結界が張られているらしく、この板も鉄よりも固く傷がついても直るようになっているのだとか。結界便利。
「さて《憑依》だが…」
「おう、おう。そいつが噂の鬼憑きかい!本当に討鬼士にしようなんて相変わらずおもしれーヤツだな、ミコトォ」
道場の入り口から大柄な男性がドシドシと入ってくる。髪は茶と金のツートンカラー。
「俺は達伊十郎。ジュウロウって呼んでくれ!おいおいミコトよゥ。外から来たやつが討鬼士になるなんて俺以来じゃねーか。一声かけろや」
「討鬼士になってから言おうと思ってたんですよ。変に期待させても悪いかなって」
佐野隊長と達伊さんがわいわい話し合っている。達伊さんの圧は強いが佐野隊長は相変わらず笑顔のままだ。
「まったく。隣の隊なんだから水臭いこと言うな。同じ番獲りじゃねーかァ!で、少年!名は?」
急に矛先がこっちに向いた。原川光と名乗る。
「よし、ヒカリィ!こういうのは見本をみてそれを真似すりゃ大体出来るようになるもんだ。いいか見てろォ」
そう言うと道場の真ん中に行きイタチィと叫んだ。すると達伊さんの肩に動物が現われる。あれはイタチか。
「《具現》したらなァ、それを自分に重ねる様に思い込むんだそしたら《憑依》ってなわけだ」
達伊さんの頭にネコ耳ならぬイタチ耳が生えている。大男のケモ耳はなかなか強烈だ。
「これは分かりやすくするためにこうしている。妖の特性をどれだけどこに出すか。自由自在にこなせたら一人前だァ!」
そう言うと両手が毛深くなっていく。まさに獣の腕だ。
「で、こうなってるとこうすることが出来る。鎌居達ィ!」
刀を振るうと風の刃が道場を切り裂く。
「それでだァ!お次はこの全身に溢れる力を刀に込めるわけだ。おお!《開放》鎌居達嵐の型ァ!!」
達伊さんの刀が光り輝く。閃光の後、握っているのが刀でなくなっている。あれは鎌?達伊さんから強風が吹き荒れる。眼が開けられない。それどころか立っていられない。
「まァ、こんなところだ。俺は忙しいから帰るぜ。次会った時には出来るようにしとけよォ!」
鎌が光り元の刀に戻る。風がピタリと止んだ。達伊さんは言うだけいって道場から出ていった。正に嵐のような人だ。
「あんな人だけど訓練で《開放》を見せてくれる人なんてそうはいない。参考になったろう。まずは《憑依》から頑張ろう」
佐野隊長は笑顔だが髪が少し乱れている。久信田さんが自分の髪を気にせずに隊長の髪を整える。
ここから地獄の特訓が始まる…。
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