5.鬼
椅子に座っている。手が後ろで縛られている。白髪の女性がこっちを睨んでいる。
「気が付いたようね。色々と思うところあるだろうけどまずこちらの質問に答えてちょうだい」
名前、家族構成、住所など聞かれたことを応えていく。
「原川光、両親は1年前に他界しました。学生。現在は学生寮に住んでいます」
女性がソワソワしている。
「…そう。ご冥福を祈るわ。学生。歳の割には顔つきが幼いわね。それであなたは帰宅途中だったわけね。その時から今までを思い出せるだけ話て」
グサ。童顔気にしているのに。そっちだって小柄だし童顔じゃないか。
帰り道、不意に異質な雰囲気を後ろから感じたこと。全速力で逃げているときに頭の中で声が聞こえその声に従ったこと。鬼と呼ばれる怪物に投げられてから頭痛がして気が付いたらここに座っていたことを伝える。
「なるほど。今はその声聞こえるかしら。聞こえないなら呼びかけてもらっていい?」
普通なら正気を疑われるようなことを言ったのにすんなりと信じてくれた。頭の中で呼びかけてみる。おーい。おーい。しばらく試してみたが何の反応もない。
「返事がありません」
「そう。少し席を外します。食事が届くからすましておいて。トイレはそこの扉の先ね。寮にはこちらから連絡しておきます」
確かに腹が減っている。この部屋には時計も窓もないので今が何時かわからない。
食事が終わりしばらくすると先ほどの女性が部屋に入ってくる。後ろには緑髪の男性。さっき食事を持ってきてくれた人は金髪だったしすごくカラフルだ。
「名乗るのが遅くなったわね。私は大槻陽芽。こちらは佐野命隊長。討鬼府という組織に所属しています」
それからその組織と俺を襲った鬼について軽く説明してくれた。
「まずあなたを襲ったのは鬼と呼ばれる存在です。その肉体はとても強靭で例えば警察の所持している拳銃でもかすり傷を負わせることしか出来ません」
まるで漫画だ。でもそういった存在だと理解できた。アレは危険だ。恐ろしい。
「そんな怪物が存在していたら今頃ニュースに取り上げられているんじゃないですか?建物だって壊されるんじゃ」
「ごもっともな意見ね。まず鬼は鬼道を通って現世に来るわ。これは前もってわかるのでその付近を結界が張られるようになっているの。あなたも見たでしょう人のいない世界。あれが結界の中よ」
ちんぷんかんぷん。なんとなく分かるのは結界という仮の世界に鬼を閉じ込めてそこで鬼退治しているらしい。位相がどうとか空間がどうとかまったく頭に入らない。
「結界に入る条件が霊力の高さ。あなたは不幸にもその条件を満たしてしまったらしいの」
霊力?霊感の様なものだろうか。たしかに昔から他の人には分からない気配を感じることはあった。中二病と言われるから黙っていたが。
「あなたは結界に入れるほど霊力が高く、…そして鬼を宿している。これでは残念ながら普通の生活をさせるわけにはいかないわ」
ひとまず討鬼府に行き今後の方針を決めるらしい。転居の手続きはしてくれるみたいだ。少ない友達と、保護者の叔父に連絡すれば大丈夫だろう。
「他に質問はないかしら」
ついに聞くチャンスが巡ってきた。
「あの、その。ええと、あなた達は日本人なんですか?」
大槻さんが噴き出した。
「ごめんなさい。そうよ名前の通り日本人。この髪気になるわよね。これは刀の影響なの」
なんでも体の色素に影響がでるとか。後で詳しく教えてくれるらしい。他に気になることは…。
「身の安全は11番隊が責任をもって補償する。決して無体な実験などしないよ」
今までにこにこと笑顔でこちらを見ているだけだった佐野隊長が口を挟む。そうだ鬼を討伐する組織に鬼を宿していくのだから。大丈夫なのだろうか。急に心配になった。
「それでね。一ついいかな。天邪鬼だっけ。聞きたいことがあるんだけど」
「なんだよ」
自分の意思ではなく勝手に声が出た。
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