第19話 転移者は花冠を編む

 昨日もすごかった……。私がケイさんを気持ちよくするぞ、と言う計画は、なんか勢いで我ながらすごいことしちゃったけど、ケイさんも野生に戻りそうなくらい喜んでくれたから計画は成功とする。いやほんと、手首まで入ったのはびっくりした。

 でも十分にケイさんが喜んでくれたのはいいけど、その後私がしたのを真似てまた私まで気持ちよくされてしまった。ケイさん、体力すごすぎない? 私がしたからあれだけど、ケイさんの舌長いからすごい入ってきて、うん、すごかった。


 そんな感じで結構長いことしてたけど、晩御飯もお風呂も前倒しで早くしたから、寝る時間はいつもに比べて遅すぎると言うこともなく、普通に起きることができた。

 今日は旅行最終日、明日の朝に出発だ。朝早いので、今日の夜はそう言うのもなしだし、ゆっくり過ごす予定だ。


「せっかくだし、もう一度湖を見ておくか?」

「そうだね、船にはのらなくても、最低一年はこの景色を見れなくなるし。それに、恋人として見るのは初めてだもんね!」

「そ、そうか。そうだな。カノンはそうだな……」


 あ、しまった。落ち込ませてしまったようで、ケイさんはなんだか遠い目をしてしまった。

 私が告白する前から恋人と勘違いさせてしまってたことは判明したけど、思ったよりケイさんショック受けてたりするのかな? 私は両思いなのにテンションあがってたし、ケイさんもノリノリでグルーミングしてきたから、まあこれから恋人だし一緒のことだと思ってたけど。


「ご、ごめんね。今日こそちゃんと恋人として、いちゃいちゃデートしながら見ようね」

「……あれ以上があるのか?」

「え? うーん。人目を忍んでキスしたりとか?」

「さっ、さすがにそれはやりすぎだろう。鼻ならいいが、口をあわせるとグルーミングに見えるし、いくらカノンの世界の感覚ではありでも、この世界ではさすがにちょっと……その、破廉恥だぞ」

「破廉恥でしたか」


 すごいこと言われた。恥じらってるケイさんめっちゃ可愛いけど、それだけ人前では恋人らしいことってしないのか。まあ、元の世界でも人前でキスは別に推奨されてたわけじゃないけど、いい景色でいいムードのデートスポットで軽くちゅっとなら白い目で見られるってことはないはずだ。まあ、世界が違うなら仕方ない。


「うーん、じゃあ、こないだしたあーんしたりくらい?」

「いや、一つの食事を分け合うのも恋人くらいしかしないというか、人前でするのはまあまあアピールの激しい行為というか、バカップルだぞ」

「え、そうなの!? そ、そうなんだ。そう言われると恥ずかしくなってきた」


 女同士だしはたから見る分には仲良しだなーで終わる話だと思ってケイさんを落とすことしか考えてなかったけど、まさか外から見てバカップル扱いだったなんて。女同士だからの免罪符がないなら、そりゃそうか。


「ん? と言うか、馬車で膝に乗せてくれてたのもまあまあそうでは?」

「それはそうだが、カノンのお尻を守るためと言う建前があったしな」


 建前だったんだ。じゃあ私だけが意識してるんじゃなくてケイさんも恋人としてのいちゃつきのつもりだったのか、と言うか考えたら新婚旅行とか言われて否定しなかったの恋人だから半ばそんなノリだったのかな。


「あ、あのケイさん、今更こんなこと聞くのもおかしいんだけど」

「どうしたんだ? おかしいなんてことはないから、何でもいってみてくれ」

「うん。この旅行、新婚旅行じゃないよね?」

「……まあ、新婚旅行ではない。さすがにそれはまだだ」


 よかった。でもさすがにまだってことはいずれは本当に結婚も視野にいれてるってこと? やだ、恥ずかしくなってきてしまった。ていうか催促されてるって思われた? うう、でも否定するのも違うよね。


「そ、そっか。よかった。えっと、じゃあ今日は恋人としてのデートってことで、やりすぎない程度にいちゃつこうね!」

「ああ」


 と言う訳でデートに出発。この間よりゆっくり湖に向かうと、すでにボートの受付は終了していた。ボートがいくつか浮いている。あそこから見る景色ももちろん綺麗だったけど、こうしてボートが浮かんでいる様子を反対側から見るのも乙なものだ。


「ケイさん、お花好きだよね。普段の作品も結構お花モチーフ多いし」

「ああ、まあな。私の故郷はあまり花が咲かないんだ。春でも雪が降るし、短い期間の限られた種類しか花と言うのは存在しなかった。だから余計に、魅力的に見える」


 そう眩しいものを見る様にして花を見るケイさんを見てると胸がしめつけられるような気になってドキドキして、えー、私より? なんて言葉が出そうになったけど抑える。これはちょっと意地悪だよね。言うならむしろ


「そっか。私も好きだよ。季節の移り変わりも感じられるし、春にはお花見って言って、花を見ながらお祝いする習わしもあったよ。ピンクで小ぶりで可愛くて、散り様まで遠目に見るとすごくそっくり」

「そうなのか。だったら、また来年も見にくるか」

「それもいいね。でも、私にとってはね、花もすごく綺麗だけど、ケイさんの方が素敵だよ、大好き」

「そ……そう、か」

「照れてるね、可愛い。好きだよ」


 景色より綺麗、なんて聞いたことあるけど実際に言う人いる? みたいに思ってたけど、実際にケイさんを見ると景色より心動かされて、そう思わずにはいられなかった。

 だから張り合いたい気にもなったけど、それより素直に言った方がいい気がしたんだけど、実際ケイさん喜んでくれてるみたいで、視線そらされたけど尻尾が風きり音たててる。ちょっと気障っぽくて恥ずかしかったけど、言ってよかった。可愛い。


「んん、か、カノンこそ、可愛いし、その、好きだぞ」

「ありがと、嬉しい」

「……なんというか、カノンはこう、文化の違いを感じるな」

「え? そう?」


 今の会話そんな要素あった? ただのバカップルでは?

 まだまだ文化の違いを理解するのは難しそうだ、と思いながらもほどほどにいちゃいちゃした。

 それから街に戻って、実質今日が最終日だからお土産も買うことにした。あんまり家族以外に買う文化が無いみたいだけど、店長さんにはお世話になってるしね。それに自分用にお土産買うと、帰ってからもしばらく旅行気分に浸れて楽しいからね。記念にもなるし。


「あいつにはこれでいいだろ」

「調味料って」

「馬車で一日とは言え、こういう個人で作っている日持ちのしない地元の人しかつかってないような調味料は他所まで行かないからな」

「はー、そう言われたらなるほど」


 小さい地元民向けにやってるだろう雑貨も売ってる個人商店でケイさんは小さい瓶に入った黄色い調味料を手にとった。変わっているけど確かに見たことないし、手作り感ありありなので他所ではないのか。

 さすがケイさん、旅なれてるだけあってお土産のチョイスも絶妙。確かに近所と言えば近所なんだからありふれた定番のお菓子とかは多分店長さんも何回も食べてて飽きてるだろうしね。


 お土産を買って明日の馬車も予約したらあとは特にやることもない。と考えて思い付く。折角お花を堪能しにこの街に来たのだから、花冠とかつくってみたいな。

 と言うことでケイさんに提案したところ、どうやら外では摘むのが禁止されてるけど需要はあるということで、それようの可愛らしい小花がお手軽なお値段で売られてるとのこと。

 昨日街を見て回ったときも花屋さんがおおいなー、綺麗な花がいっぱいだなーとは思ったけど、ちょっと奥にある小花のセットは目にはいってなかった。それにしても、商売上手な街だなぁ。


 折角なので購入して宿に戻り挑戦することにした。親切にやり方も実演つきで教えてもらえた。こう言う観光に特化してる街ってほんとに観光客に親切してくれるから嬉しいよね。


「こうやってみると結構多いな」

「種族差とか、失敗前提でって言ってたけど、これなら色々つくれそうだね!」


 ベッドにひろげると白い可愛い花がたくさんで、すごくメルヘンな気分でテンションがあがってくる。さっそくつくり始めるケイさんが座ってる回りに散らばってる感じ、妖精さんがせっせと花細工で遊んでるみたいで可愛すぎるなー。愛らしい。

 ケイさんは自分のこと怖い顔って思ってるみたいだし、たしかに歯とかするどいしむき出しで威嚇されたらこわいかもだけど、普通に口を閉じて真面目にしてると、あー、もふもふわんこカッコよくて可愛いって雰囲気にしか感じないんだけどなぁ。

 まあ、街の人で過剰にびびってる人もいたし、私的には口をあけてても緩んだ顔も可愛いとしか思えないし、これこそ文化とか価値観の違いなのかなぁ?


「カノン? やり方がわからないのか?」

「あ、ううん。ケイさんがあまりに様になってるから見とれてた。可愛いからそう言う仕草がほんと、可愛いよね」

「……カノンはもしかして、目が悪いんじゃないかとたまに思うんだが」

「視力は種族的にはいいほうだよ?」


 両方1.5だ。もちろん他の種族と比べたらわからないけど、少なくとも私のいた国では普通にいい方のはずだ。と言うか目がいい悪いの問題ではないと思う。まあ、私の気持ちを疑われてるとかじゃないならいいけど。

 折角ならケイさんにつけてもらいたいし、大きめにつくらなきゃね。まずはここを曲げて、と。


「そうなのか? うーん」

「そんな不思議がることないでしょ」


 うーん。私から言い出したものの初めてだし、ちょっと角度が悪いような。まあ仕方ないか。話しながらも集中する。いつまでもケイさんを見てたらできないもんね。


「まあそうだが。他ならぬカノンの目に私が好意的にうつっているなら嬉しいんだが、さすがにそこまで的外れ、と言うか、親にも言われないようなことを言われると困惑すると言うか」

「感性は人それぞれだからねぇ。ケイさんが可愛い扱いされないのは納得できないけど、でも、ケイさんが世界で一番可愛くてカッコよくて最強に素敵! と思ってるのは恋愛感情による欲目がゼロとは言わないよ」


 全く可愛くないと言うのはさすがにない、とは思うけどさ。私的に可愛くてたまらないと言うこの感情はさすがに個人差あると思う。犬派と猫派はどっちが絶対的に可愛いとかそう言うことじゃないからね。あくまで好みだ。


「そ、そうか。んん。なんだ。私にとっても、カノンはその、世界一可愛くて魅力的だと思ってるぞ」

「んふふ。嬉しい。ありがとう。ケイさんだーいすき」


 若干言わせた感がある気もするけど、でも言いたくて言っただけだし、ケイさんも本音で言ってくれてるのは信じられるので嬉しい。恋人になったばかりのラブラブカップルなのでそう思ってて当然だしね。とは言え口に出してもらえて嬉しい。


 私は頑張って花冠をつくった。ちょっとサイズが合わなかったりしたけど、とっても楽しくていい思い出になった。

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