第18話 転移者は心の準備に時間がかかる

 ケイさんと熱い一夜を過ごした。いやー、……すごかった。初めてだし、そんなとこまでって思うけど、うん。気持ちよかったし、ケイさんすごかった。でもされるがままだったし、今日はちゃんと私からもしないとね。

 異性だったら同時に気持ちよくなれるだろうし、多少私がされっぱなしでもいいかもだけど、私もちゃんとケイさんを満足させないとね。いくら愛し合ってても、そう言う不満は離婚理由になるって前にお昼の番組でやってたもんね。


 と言う訳で気合を入れている私だけど、それはそれとしてお昼は普通にデートを楽しんだ。起きるのが遅くなっちゃったから、だらだらケイさんと街を散策してあれこれ食べたりお店をのぞいたりした。

 その際、ケイさんはやたら自分の尻尾を気にしていた。朝にまさか動いてる? みたいに聞かれたし普通に答えたけど、どうもケイさん自覚してなかったみたいだね。あれだけ動かしてそんなことある? とは思うけど、貧乏ゆすりみたいなものなのかな? あれもたまにすごい人いるけど自覚なくてびっくりしたことあるし。

 だとしたら私が抱き着くだけで無意識に出るほど喜んでくれてたってことだし、それはそれで嬉しいけど。何回か気にしてつかんだりしてたけど、ちょっと無理やり気味で痛そうだったから、尻尾が動くの可愛いよって何回か言いながら撫でて労わってあげたけど、気持ち伝わったかな?


 遅めのおやつを食べるとお腹もいっぱいだし、それまで歩きっぱなし立ちっぱなしだったのもあって今日は早めに宿に戻った。

 明日また一日ゆっくりして、明後日の朝一番に帰る予定だ。帰ってからもまだ2日お休みなのですごくゆっくりできる。


 最後に食べたのはおやつとしてあまーい、はちみつたっぷりパウンドケーキ。ベリーの酸味もアクセントになってすでに色々食べた後の口でもするっとはいった。


「うーん、お腹いっぱいだねぇ」

「そうだな。少し食べ過ぎじゃないか? 夕飯はいるのか?」

「う、うーん。晩御飯は軽めにする」


 ケイさんの問いかけに私はベッドに転がってお腹を撫でながら答えた。そう言われるとちょっと自信はない。だって観光地らしく食べ歩きできたりちょっとつまめる甘味処とかいっぱいあったから。

 ごろごろして消化を促進……あ、そうだ。ゆっくりするだけって言うのも暇だし、ちょっと久しぶりにケイさんにブラッシングしようかな。旅行に出てからしてないし。


「ケイさん、ブラッシングさせて」

「ん? 疲れているだろうしいいぞ」

「ううん。疲れたから、ケイさんに癒されたいんだ。あ、今ブラシ持ってる?」

「身だしなみとして必要だから持ってるが……まあ、いいか」


 寝転がったままお願いする私に、ケイさんは呆れたようにため息をついてから立ち上がってブラシをとってくれた。


「と言うか、なんとなくそうかなとは思ってたけど、家からブラシ持ってきてたんだね」


 朝とかにつかってるのをちらっと見て、木製で色味といいそうかなとは思ってたけど、起きあがって手に取ってみると何度もつかったケイさん私物のブラシなのがはっきりした。


「ん? まあ、気にしない人もいるが、私はあまり人とブラシを共有するのは好きではないな。毛が長いから、残していくのも悪いしな」

「なるほどなるほど。あと、あんまり意識してなかったけど、やっぱりブラシによって梳かし具合違ったりするの?」

「それはもちろんあるな。素材の差もあるし、単純によく使っていれば手に馴染むのもあるしな」

「そうなんだー、あ。ごめん、私、普通に何回か使ってた」


 隣にすわったケイさんに相槌をうってから、いや家に居る時普通に借りてたと今更気づいて謝る。私はあまり気にしないタイプの人間なので何も考えてなかったけど、まさかブラシを一緒につかうのが嫌な人がいたなんて。


「ん? ああ、いや、もちろんカノンは別だ。カノンの毛なら、抜け毛がついてたとして集めたいくらいだ」

「そ、そうなんだ。よかったー。うれしー」


 いや、それはちょっと……と一瞬思ったけど、私が絶賛ケイさんの抜け毛集め中だし、多分喜ぶと思って言ってくれてるので喜んでおくことにした。

 そして今回のケイさんのブラシはいいとして、今後は他の人の物を使うのは注意しよう。一緒に住んで一緒に寝てる時点で何でも共有OKな気になってたけど、何がその人にとって大事な物かわからないもんね。


 気をとりなおして、受け取ったブラシでケイさんをブラッシングするぞ!

 とベッドにあがってケイさんに向き直ると、ケイさんはそのままの格好で私の前に寝転がってくれた。でもなんというか、普通にさっきからの服装のままだ。いつもは寝間着だし露出度が違いすぎてこれじゃあ碌にブラッシングできない。

 というか、よく考えたらケイさん、最初のブラッシングの時に服を脱ぐか聞いてたよね。もしかしてブラッシングも恋人としてバージョンもあるのかな?


「ケイさん、ちなみにブラッシングも恋人の行為だったりする?」

「んー、いやまあ、そうだな。そうじゃない者もいるだろうが、私にとってはそうだ」

「そっか、じゃあ私、今日は恋人としてちゃんとブラッシングするから、脱いでもらっていい?」

「ん? あ、ああ。いいが」


 と言うことで脱いでもらった。ついでに手伝ってみたけど、服の裾に入れた手が毛につつまれて気持ちよかった。ふざけてばんざーいって言って脱がせたら笑われてしまって、付き合ってくれるケイさん優しすぎて行動のわりに私が子供扱いされてしまった。でも楽しい。服を脱ぐのを間近でみると脱いだ瞬間に毛が膨らんだみたいに見えてわくわくしてしまう。

 いけない、これは恋人の脱衣を見る目ではない。といってもまだ夕方にも早いくらいだし、恋人としてと言っても別にえっちなことするわけじゃないしね。本格的にマッサージをするみたいなことなんだし、あんまり意識するのも変だよね。


「……なんというか、日が高い中脱ぐのは、恥ずかしいな」

「だ、大丈夫、可愛いよ」


 と思ってたのにケイさんが恥じらうから急に意識し始めてしまって脈絡のない答えになってしまった。

 いやだって、可愛いんだもん。ケイさんの羞恥点がいまいち謎だけど、恥ずかしがってるの可愛い。と言うか、流れで普通に全部脱がしてしまったけど、さすがに全裸はちょっとえっちなような。いやいや、そんなことないよね!


「じゃあいくよー」


 下心が伝わらないようあえて明るくそう声をかけ、私はブラシをはしらせる。まずはいつも通り顔回りから。優しく、目や鼻にかからないよう丁寧に細かくかける。耳へは軽く撫でる様に。首筋はちょっとしっかり。肩周りはマッサージをしつつ、背中にブラッシングをしていく。


「あー、いいね。服が無い方がブラシのとおりがいいね」


 肩から腰まで衣類と言う障害物がなく、さっとブラシが通るのが気持ちいい。すーっと腕をふるようにすると、ブラシのかけごたえがあってすごくいい。尻尾の生えているお尻周りはさすがに短パンに隠れていたから、この丸みのある感じもいい。ちょっと他の部位より毛が柔らかいかも。常に衣類に触れているからとかあるのかな? そう思うとデリケートゾーンの手入れをするみたいでちょっとドキドキしてきた。いやもちろん、デリケートにきまってるけど。


「……」


 ケイさんは黙っているけど、気持ちよさそうにゆっくり尻尾をゆらしているし、耳もぺたんと伏せて目も閉じている。問題なさそうだね。と言うかもしかして眠くなってる? ちょっと静かにしておこう。


 さて、次はお腹側だ。ごろっとケイさんの体を転がせて仰向けになってもらう。普段も見ている姿だけど、何もつけていない状態だと動物感を感じる、のだけどそれはそれとしてやっぱちょっとえっちな気がしてきた。


 実際の犬とかってたくさん乳首があって同時にたくさん育てられるようになってるけど、この世界の人たちは見た目が犬とか猫でも普通に胸は二つ膨らんでる形だ。だからシルエットは人っぽいしね。やっぱり本当に犬扱いは無理があるよね。

 胸も毛が生えてるけど、先端は子供が吸いやすいようにちゃんと毛が薄い。ないわけじゃないし私の産毛よりは生えてるけど、他の部位に比べると全然薄くてちょこっと可愛いピンクが見えている。うーん、見れば見るほどえっちすぎる。

 と言うか今までは服で隠れてたから何にも考えずにしてたけど、胸ってブラシでこすったら痛いかな? 柔らかい毛のブラシだし普通に手とかの肌にかけても大丈夫だけど、普通より敏感な場所だし、かけないようにするのがいいかな?


 私は首元からはじめて胸の真ん中から外にむかって優しくかけていく。


「んっ」

「あ、痛かった? 大丈夫?」

「い、いや、大丈夫だ」


 それまで静かだったのに急にむずがるように一瞬身をよじったので心配になったけど、ケイさんは慌てたように首を軽く振って否定した。大丈夫かな?

 お腹もへそ周りはちょっと毛が薄いんだよね。ここもいつも丁寧にしてるけど、おへその横にちょっと毛の渦みたいなのがあるのが可愛いんだよね。ついでに指先でかるく撫でる。

 ケイさんのお腹の感触が味わえるのはここだけ。あー、気持ちいい。くすぐったいのかちょっとお腹がぴくぴくするのも可愛いんだよね。文句言われないからそんなにじゃないっぽいけど。


 お腹も堪能したのでそのまま下半身へ。股関節は二足歩行の普通の人間と同じだけど、膝から下の関節の感じとかちょっと違うんだよね。何て言うんだろ。こう、がくがくってしてるというか、膝も脱力した状態でまっすぐじゃなくて軽く曲がってるし。毛がもふもふだからパッと見はわからないけど、手で触ると形がわかるからね。

 さすがに股間そのものは避けて普通に足全体にブラッシングをする。膝下までできたら、次は反対側だ。ケイさんにごろんとまた転がってもらう。

さっきもしたお尻からまだブラッシングしていく。


「……」


 尻尾がゆるゆる揺れてる。寝転がっているから大事なところは見えないのだけど、あの、ちょっと気になる。ケイさんは唇が黒い。鼻も黒い。となると? 肛門も黒いのかな?って気になるよね?

 わりと犬ってお尻黒いイメージだけど、どうなんだろ。胸はピンクだったし、外気に触れてるか、色素沈着する体質かでよるのかな。いやもちろん、黒だったら嫌とかじゃなくてただの好奇心で、ケイさんなら肛門も可愛いだろうけど。


「……」


 肛門を見てもいい? と言う言葉がのどまで出かけたけど、我慢した。いくらなんでも変態すぎるでしょ。これは別に変な意味じゃないんだし、あとでそう言う雰囲気の時にこそっと見よ。


 と言う訳で真面目にケイさんのブラッシングを続ける。足先の肉球もぷにぷにしながら指先まで丁寧にブラシをかけていく。そしてゆっくり太ももに戻ってきて、また尻尾まで上がってきた。

 ゆれる尻尾をつかむと、手の中でぴくぴく動こうとする。小さいケイさんを捕まえたような気になる。可愛い。すっ、すっ、と軽くブラシをとおす。長いケイさんの尻尾は先の方が毛しかないくらいだ。抜けなくなるまでしっかりブラッシングして、それから腰回りももう一度撫でてようやく終わりだ。

 やっていて楽しいけど、ケイさんは大きいから全身をするのは一仕事だ。ケイさんが気持ちよくなってくれると嬉しいしやりがいがあるけど、終わるとやっぱり疲れたーとも思う。息をつきながら何となくブラシでとんとんとケイさんの尻尾の付け根を軽くたたいた。


「ん?」


 その叩くのにあわせるように、尻尾が一瞬立つようにびくびくっと反応した。今までのブラッシングにはない反応だ。首を傾げてケイさんの顔をのぞき込んでみるけど、目を閉じている。耳もふせていて、寝ているようにも見える。

 もしかして腰回り、と言うかこの尻尾の付け根辺りをマッサージするの気持ちいのかな? 今まで短パンがあった場所なので通り過ぎていたけれど、いいツボがあるのかもしれない。


 私はケイさんに声をかけず、寝れるなら寝てもらおうと思ってそのままブラシをおしあてて、毛並みを混ぜるようにぐーりぐーりと軽く押し込むようにマッサージをする。


「っ!」


 劇的に反応があった。びくびくっと尻尾がたちあがり、それからびたんびたんと私の顔をうつくらいの勢いで尻尾がふられた。

 えぇ? そんなに? びっくりした。でもこれはいいことをしった。もっとやってあげよう。ぐりぐりマッサージをしたり、とんとんと軽く撫でて毛並みを戻したりと重点的にマッサージをする。


「か、カノン!」

「え?」


 ケイさんが喜んでくれて嬉しいなぁ、と思いながらしばらくそうしていると、唐突にケイさんは腕をついて上半身を起こし、勢いよく私にぶつかりそうな勢いで起き上がった。目の前にお尻があった関係上、そのまま目の前の至近距離にケイさんが現れる。その勢いに首を傾げながら顔をあげる。


 ケイさんは口を開けて何だか息が荒く、熱気が私にかかるくらいの呼吸だ。黒い唇の間から、するどい牙が見えている。奥には野菜も食べれるような歯もあると言うことだけど、表面的には立派な犬歯しか見えない。鼻の上に皺をよせ、睨んでいるような顔で目もぎらぎらさせていて、まるで飢えた獣のような顔だ。

 そんな顔を至近距離で見せられて、私はどきっとした。でもそれは恐怖のどきってはない。私はすでにこんな顔を見せられたことがある。昨日、ケイさんは私にグルーミングをするのに夢中で、私の声が届かないほど興奮している時、こんな風な目をしていた。


 待って。いや、だって、普通にブラッシングとマッサージで、えっちな意味のグルーミングでは全然ない……と思ってたの、私だけ? もしかして、尻尾の付け根をとんとんするのって、えっちだった?


「……そ、そろそろ晩御飯いこっか」


 いやまあ、でもお風呂もはいってないし? 晩御飯食べてないし? うん。私、悪くないよね? ケイさんすごいびっくりしてるけど。私、まだ心の準備できてないから。ごめんね? ちゃんと、お風呂に入ったら覚悟決めて、いっぱい気持ちよくするからね?





○○○


この次の話を幻の18.5話としてノクターンノベルズと言うサイトに投稿しました。タイトルはそのまま「異世界転移体格差人外もふもふ百合 18.5話」です。19話目として投稿するはずがこのような形になり申し訳ございません。その為19話も連続してカノン視点となりますことご了承ください。

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