第16話 転移者はグルーミングが下手くそ
思い切ってケイさんに告白して恋人になれてとっても嬉しい、のだけど、まさかケイさんはもう付き合ってたと思ってたなんて。確かにめっちゃくちゃ優しい、とは思ってたし、その、マッサージもえっちだったもんね。私がいやらしすぎて意識しちゃってたんじゃなくて。ケイさんもちょっとそんなノリだった可能性あるよね。
まあそこまで聞いて違ったら恥ずかしすぎるから、確認は取ってないけど。
文化の差があるのが改めてわかったし、これからはケイさんと細かいこともすり合わせていこうねってことになった。そこまでは完璧だね。
勢いでキスもしちゃったし、私が想像していた告白として完璧と言っていい。
「ん……んう、ご、ごめんね、ほんと、下手で」
だけど、約束していたグルーミングはすごく難しかった。ケイさん的に最上級の愛情表現ってことで、思ってたより真面目にやるとえっちなことだよね、とドキドキしながらしてみたけど、いやほんとに、難しい。ケイさんはもっとこう、流れる様に舐めるのに私はめちゃくちゃぎこちない。自分でもわかる。
体を舐めるんだから難しいに決まってるけど、口に毛が入ってきて、ケイさんの毛だから不快感とかはないけど、こう、口の中がうじゃうじゃする。
最初はどきどきしてたよ? ちゅってキスして舌でぺろっと口先を舐めると、ケイさんの口の際のところがちょっと固くて、すぐ上下にある短い毛に触れた。ざらついた感触が面白くて、そのまま上に行くと鼻がある。ひんやりしてちょっと湿っているのが舌で感じると新鮮で楽しかった。
でもそこから鼻の横から頬に舐めていくと、何本か毛が抜けて口に入ってきた。舌に毛がのってるのがなれないし、思わず飲んじゃいそうなのも恐いし、うまく吐き出せなくて凄い変な感じだ。
「いや、気にしなくていい、と言うか、無理しなくてもいいぞ」
「無理と言うか、毛が口の中でもしゃもしゃすると言うか。これはどうすればいいの?」
「うーむ。普通にしていたら抜け毛は適当に固まっていい感じに吐き出せるんだが」
「どんな感じに舌を動かしてるの?」
「ん? うーん。口でやり方を説明するのは難しいな。こう」
口から毛をだそうにも、舌の上の毛を指でつかもうとしてもうまくつかめないし、全然出てこない。私の質問にケイさんは口を大きく開けて舌を動かして見せてくれた。
「うーん」
ぐにゃぐにゃと動いて、何だかすごくえっち。と言うことしかわからない。
「ごめん、ピンと来ないと言うか。ほんとはもっと全体的に舐めるんだよね?」
首筋とかも舐めるって考えると、範囲が大きい分絶対大変だ。ケイさんが喜んでくれるならと軽い気持ちではじめたけど、これを極めようとしたら相当困難な道のりなのでは。すでに結構顎疲れてるし。
ケイさんはこれでもすごく喜んでくれているのは伝わっている。目も声音も尻尾も全部、全身で表現してくれているから。でもだからこそ、下手くそで申し訳ない。
「まあ、そうだな。だが、カノンがそう言うつもりで舐めてくれるなら、顔だけでも十分だし、できる範囲で構わない」
「でも」
「その代り、と言ってはなんだが、私がその分までカノンをグルーミングするのはどうだ?」
それかわりになるのかな? する方とされる方では違うような。でもケイさんからのグルーミングもくすぐったいからついつい笑っちゃって、そんなに長く受けてこなかった。ケイさん的にはグルーミングをするが楽しいと言うなら、頑張ってそれを受けるのも意味ある、よね。
ケイさんが余裕のある大人びた素敵な微笑みを近づけ、わふんと私に吐息をかけながらそう提案してきたので、私は疑問に思いつつもその魅力に抗えずにこくこく頷く。
「う、うん。じゃあ、好きなだけ、どうぞ? くすぐったくても我慢するから」
「いや、さっき我慢はしないと話したばかりだと思うが」
「それは痛いとか嫌とかでしょ? くすぐったいだけなら平気だもん。なれもあると思うし」
「そうか? じゃあ、無理はしないようにな」
ケイさんの大人な気遣いの言葉に、絶対我慢するぞ、と思いながら私は起きあがってケイさんの隣に寝転がってケイさんからのリアクションを待つ。
さっきまでは私が大きいケイさんを舐める側だったので、座ったままでは難しいと言うことで寝転がるケイさんの横に座って、お姫様に王子様が口づける感じのスタイルでグルーミングに挑戦していた。
なので今度は逆がいいだろう。もちろんケイさんからしたら私は小さいから座っていても楽だろうけど、今日はとことんグルーミングを受けるのだから、笑って力が抜けても大丈夫なように寝転がるのが安全だろうしね。
ケイさんは起きあがって自分で自分の口の端をぺろりと舐めあげる。そんな何気ない仕草にも、私がさっきなめたところを舐めて間接キス、とか今更なことを意識してドキッとしてしまった。
散々キス以上のだろうことをしたけど、だって唇と鼻以外のキスは大変すぎていちゃいちゃする楽しいこと、と言うよりは下心のないマッサージくらい真面目なご奉仕の気持ちになってたし。
「カノン、私もキスをしてみてもいいか?」
「え、う、うん」
受け入れる覚悟はしたけどどうなるのかな、とちょっと不安だったけど、ケイさんはゆっくり起き上がって私の上に覆いかぶさると思いもよらぬ提案をしてきた。
驚きつつ頷く私に、ケイさんはにっと歯が見えるように笑ってからそっと顔を寄せてきた。
今まではグルーミングだと思っていたけど、今から本当にキスされるんだ。恋人としてとかじゃなくて、ケイさんもキスだと思って唇を合わせるんだ。そう思うともう私から三回しているのに、緊張が体を固くさせてしまう。
「ん」
ケイさんが私の唇とそっと口の先を触れ合わせた。ケイさんの口はとても大きい。頑張ったら私の頭に噛みつけそうなくらい大きい。だからキスと言っても口の一部分になる。だからこそこの世界はキスって言うのがないのかもしれない。
なんて風に冷静ぶって考えてみても、私の鼓動はバクバクとうるさいくらいに動いている。むしろ一部分だけだからこそ、控えめでケイさんの生真面目な優しさが伝わってきて、すごく嬉しい。
「カノン、好きだよ」
「私も、好きぃ」
ちょっと話して微笑むケイさんの言葉に返事をするけど、思った以上に骨抜きのへにゃへにゃした声が出てしまった。恥ずかしさで悶えそうになるけれど、それより先にケイさんは私の髪をなで頬に触れ優しく顎を固定しながら、私の唇を舐めてきた。
ぺろぺろと今まではあれで控えめだったのだとわかるように、力強いほどぐいぐいと舌が私の唇をなでる。
「っ!?」
その力強さに思わず唇が開いてしまうと、遠慮なく中までなめられてしまう。唇の裏側にケイさんの舌が触れ、歯も舐められているのがわかってしまう。いや、これ、私も口を開けるべき!?
「ん」
と混乱と下心で迷う私をスルーして、あっさりケイさんはその舌を頬にのばした。楽しそうに声を漏らしたケイさんは私の体の上に重なるようにして、もう片方の手で私と手を握った。手の平を親指で揉むように撫でてくれるのが気持ちよくてぎゅっと手を握りかえす。
「んふっ」
ケイさんはおでこを私に軽くぶつけてから、息を漏らすようにしながらぺろぺろと舌を移動させ、私の耳にまでとどいた。遠慮なく耳の穴の中まで入ってきたその熱に、私は背筋をなでられたような感覚に思わず声を漏らしてしまう。
ちらっとケイさんと目があう。大丈夫と私がまばたきをすると、一瞬止まったケイさんの舌がまた動き出す。
ぺろぺろと、そんな可愛らしい動きと変わっていないはずなのに、溝のところにケイさんの唾がひっかかるのかぴちゃぴちゃと音がして、穴の中の壁を撫でられると全身に水音が響いているような衝撃だ。耳かきの時のようななんとも言えない気持ちよさをさらにあげたような、普通に気持ちいいよと言えない、どことなく淫靡な気持ちよさがあって体が熱くなってしまう。
「んん」
「ん。大丈夫か?」
「ご、ごめん、大丈夫だけど、その……」
断続的に声が出てしまうのを耐えている私に、ケイさんは気遣うようにいったん止めてそう聞いてくれたけど、やめてもらわなきゃいけない段階ではない。ただ、耳をなめられているだけなのに気持ちいいから声がでてしまう、と言うのは恥ずかしすぎる。言いたくない。
「何かあるなら、遠慮せず言ってくれ。そう言う約束だろ?」
「う。その……き、気持ちよくて、つい、声が出ちゃうだけですぅ」
恥ずかしいけど、そう言われて、くすぐったいだけ、なんて誤魔化すのもできなくて私は燃えるような羞恥心を感じつつヤケクソ気味にそう答えた。
もちろんくすぐったいのも嘘じゃないけど、くすぐったいだけなのと気持ちいいがはいってるのは全然違う。くすぐったいだけなら遠慮させるかもしれない。それだけは嫌だったから。
それはケイさんがしたいようにしてほしいと言う思いはあるけどそれだけじゃなくて、私自身、このなれないけど確かに感じる気持ちよさを、もっと感じたいと思ってしまっているから。
私の答えにケイさんは一瞬動きをとめた。私の視界ではケイさんの顔はよく見えなくて、ぴんとたった耳と半分体が重なるように私の上にあるケイさんの体と、その向こうにある尻尾が見えたり見えなかったりして揺れているだろうって推測するくらいしか見えない。
「ケイさ、ん!」
だからなんだろう、と思って名前を呼ぼうとする私だったけど、ちゃんと呼ぶ前にケイさんが勢いよく私の耳をまた舐めだしてできなかった。
さっきより奥までケイさんの舌がはいってくる。指をいれても入らないところまで柔らかく熱いケイさんの舌がぎゅうぎゅうに詰まりながらはいってくるのは思わず全身がぴんと伸びてしまうくらいの衝撃だ。
そう緊張する私の体をほぐすように、ケイさんは頬に触れていた手で何度も舐められているのと違う方を頭から顎にかけて撫でてくれる。
「ぁ、ぅんっ」
これ、本当に駄目かも知れない。恋人同士で顔を舐めたり舌をなめるのってえっちじゃん。とか思ってたけど、それ以上に、本当にいやらしい意味で気持ちよく感じちゃってる。
耳でそんな風になるなんて思ってなかったから、すごくびっくりすると同時に、これはまだ始まったばかりだと言うことがちょっと怖いくらいだった。
「カノン、可愛いな。声も、可愛いぞ」
「うぅ……」
恥ずかしい。ケイさんの事大好きだし、えっちなこともドキドキするけど全然嫌じゃない。むしろちょっとは期待してた。でも、ほんとにこうも簡単に気持ちよく感じてるのは恥ずかしすぎる。さすがにケイさんだって、耳だけでこんな風になってるのは予想外だよね。
私は顔をあげて微笑んでいるケイさんと目を合わせる。爛々としたケイさんは肉食獣そのものみたいで、でも全然恐くない。自分で自分の口元をぬぐうその舌の動きが、私を気持ちよくさせてくれるんだって見せつけられてるみたいでドキドキがおさまらない。
「け、ケイさん。あの。気持ちよくなってるのは、ケイさんが相手だからなんだからね? 誤解しないでね」
でも恥ずかしいから、これだけは誤解してほしくなくて弁明する。最初からケイさんのグルーミングをくすぐったいって言っていたけど、それも相手はケイさんだし、それに本当にこんな風に気持ちよくなっているのは恋人として意識してるからで、最初からそんなつもりじゃない。私は全然、そんな、いやらしい子じゃない、はずだ。
「っ、カノン、それ以上、言わなくていい」
「えっ、ん!」
ケイさんは私の言葉に何故かさらに速く尻尾をふって喜びをしめしながら、今度は私の首筋へと舌をのばした。
「んんっ、け、けーさん」
優しく丁寧に筋を舐められる。乱れた襟元へおり、鎖骨をなめられる。そのくすぐったい中にやっぱりある気持ちよさに、私はたまらなくって目の前で舌と一緒に動くケイさんに顔を寄せ、そっと鼻と目の間あたりの毛先をなめた。
目の前で一生懸命愛情表現をしてくれるケイさんを見せられて、私も少しでも返したくなったのだ。
「!? か、カノン!」
「あっ」
ケイさんは一瞬だけ動きをとめたけど、すぐに私の襟を開くようにしてさらにグルーミングを激しくしだした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます