第14話 転移者は告白する
いやこれ、ワンチャンあるのでは? これケイさんも私のこと好きでは?
アピールしようとお昼を食べさせあったときも恥ずかしがりながらもしっぽブンブンで喜んでくれたし、ボートも離れて座ってたら急に私の手を握って風が寂しいとか言ってくるし。
一瞬意味わからなかったけど、これは人形が笑って見えるのは自分が楽しい時で、悲しそうに見えるのは自分が悲しい時って言う理論だよね? つまり風が寂しそうに感じたケイさんが寂しいから私に触れてきた。
これが脈ありじゃなくてなんだと? 好みのタイプはなんか一般的な感じだったけど、私わりと当てはまってるよね? この世界では断トツ小柄だし元気さには自信があります!
思いきって私の好みはケイさん! って言ったら、またも恥ずかしそうにしながらも満更じゃない感じだったし、もうね、ワンチャンどころか全部チャンスしかないでしょ。
そんな感じで私は調子に乗りながら夜になったら告白するぞ! そして告白してグルーミングだ! と決めていたのだけど、いざ、その時が近づくとすごく緊張してしまう。
「お、お風呂いただきました」
「ん? ああ。どうしたんだ? なんだか固いが」
「う、うん」
「うん? 髪もまだ全然濡れてるじゃないか。おいで」
緊張してしまう私の不審な態度にケイさんは不思議そうにしながらも、いつも通り優しく私を招いてくれる。
観光地にあるちゃんとした宿だけど、ケイさんがいつもお風呂を嫌がっていたのはやっぱり文化なのか、大風呂が無いので普通に順番に入った。今ばかりはそれがありがたい。ちゃんと告白してからじゃないとだめだし。
と言うわけで私が後でケイさんはすでに済ませている。ケイさんに言われるままそっとベッドに行くと、ケイさんは私をいつものように引き寄せて膝にのせて髪を拭いてくれる。
優しい。と言うかこんなに自然にしてくれるのに、外ではちょっとって恥じらうの可愛すぎるし、外でしちゃ駄目な行為と思うともしかしてこれって特別なのかなってドキドキしてしまうな。
「よし、このくらいか。じゃあ」
「けっ、ケイさん!」
「ん?」
「あの、だ、大事な話があります!」
このまま流されてはいけない。告白だ! と言うことで私は自分を奮い立たせるために大きな声でそう宣言した。
ケイさんにいつまでも抱っこされていては告白の雰囲気でもないので、すっと起き上がってケイさんから離れ、ちゃんと向かい合って座りなおす。
「ケイさん、あの……ケイさんに、言いたいことがあるの」
「ど、どうしたんだ? そんな、改まって」
ケイさんは戸惑ったように尻尾もベッドに落ちていて、私を見ながら首を搔いている。宿の寝間着は柔らかい生地でバスローブみたいなデザイン。不特定多数が着れるようにするには、こういう紐でしばって調整する服が一番なんだろうけど、なんだかいつもより着ているのに色っぽく感じてしまう。
正直、緊張する。ケイさんに脈ありとか私の妄想で、本当はケイさんは優しいから拒絶できずに戸惑ってるだけの可能性もある。純粋に子供を拾ったくらいに見られてる可能性もあるかもしれない。そのくらいべろべろに甘やかされてる自覚はある。もしそうだったら絶対無理だ。
告白して駄目だったら、この旅行は最悪だし、帰ったら家を出ろって言われるかもしれない。それは怖すぎる。
でもOKだったら? OKだったら、ケイさんと恋人になれる。誰にもはばかることなく、遠慮なくケイさんに私からグルーミングだってできるし、キスもできる。いつかとか心配しなくてよくて、本当にケイさんの一番傍に、一生いられる。
だったらOKを目指すしかない。恐いとか、ビビってる場合じゃない。家を追い出されたら通ってOKをもらえるまで告白すればいい。渋々でも受けさせればこっちのものだ。後悔させないよう、私がケイさんを幸せにすればいい。
「っ、私、ケイさんが好き! 大好き!」
心臓がばくばくするのを黙らせるように、私は自分の膝に手を押し付けながら前かがみになってケイさんに気持ちを伝えた。
格好いい告白とか、感動させる言葉とか、全然頭に思い浮かばなかった。好きって気持ちだけが口から飛び出した。
私の稚拙な告白に、ケイさんは一瞬ぽかんとしてから、ふわっと相好を崩すように笑った。
「ああ、私も好きだぞ」
その笑顔に希望を持った瞬間、あっさり答えられて、全然通じてないとわかってしまう。だったら、通じるまで言うだけだ。
「そうじゃなくて、私の好きは、恋人になりたい好きなの。ケイさんが好きで、結婚と言うか、夫婦と言うか、番になりたいの。ケイさんと触れ合うとドキドキして、特別な気持ちにもなっちゃう好きなの。ケイさんと恋人になりたくて、今私、告白してるの」
どう言ったら伝わるのか、翻訳の具合や文化の違いもあるだろうから、とにかく私なりにわかりやすく言葉を重ねた。勘違いのないようストレートに、私の思いを飾らずに伝えた。きっと綺麗に言おうとしてしまえば、まっすぐに伝わらないだろうから。
「か、カノン……」
ケイさんは私の言葉に驚いたように目をぱちくりさせてから、照れたように体を揺らしてから顎を引いて上目づかいに私を見た。その姿は顔だけ見たら睨み付けているようにも見えるかもしれないけど、ケイさんを知っている私には可愛くてたまらない。
今すぐ抱き着いてなでなでしたいけど、返事をもらうまでそんなわけにはいかない。
「ケイさんは、私の事どう思ってる? 恋人になるの、嫌かな? あの、全然、無理強いしようってわけじゃないんだけど、なんていうか、恋人になったらケイさんの事絶対幸せにするよ?」
「ああ、すまない。そうだな。まず返事だな」
「う、うん」
びっくりした。一瞬断られたのかと思った。
すまない、の単語にめちゃくちゃ動揺してしまった。いやほんとに、心臓に悪いよ。私はそっと胸を抑えながらケイさんの返事を待つ。
ケイさんは顔をあげ、まっすぐに私を見ながら口を開いた。
「私もカノンがそういう意味で好きだよ。だから恋人になろう」
「えっ! ほ、ほんとに!? 同情とか仕方なく合わせてるんじゃなくて、ほんとに言ってくれてる!?」
脈があるのでは、とは思っていたけど、まさか本当にこんなにすんなりうまくいくと思ってなくて、嬉しすぎてとびあがって膝立ちになりつつも、私は念のためケイさんに確認をしてしまう。
だってこれで喜んで抱き着いて、実は仕方なくで子供の遊びに付き合ってるとかだったら泣くよ私は。
疑る私の言葉にケイさんは苦笑して、ケイさんも膝立ちになって私を迎えに来てくれた。
「本当だ。と言うか、だな。私はもう、付き合っている気でいたんだが?」
「え!?」
そして肩を軽くたたいて頭を撫でながらケイさんは苦笑のままとんでもないことを言った。もう付き合ってたの!?
え、いつから!? びっくりしすぎて固まってしまう私に、ケイさんはそっと私を抱きあげて膝に抱っこしてくれた。いつもみたいに正面じゃなくて横抱きで、ケイさんと顔が合うようにして。
ケイさんは私と見つめ合ったまま、片方の耳を伏せてちょっと笑う。
「むしろ、付き合っているつもりもないのにあの態度は駄目だろう。いやまあ、私のことが好きでアピールのつもりだったとして、私の態度でわかるだろ。と言うか、普通にお互い好きとかずっと一緒と言っていたのに。なんで付き合ってないと思ってたんだ?」
え、いや、うーん。言われてみればそりゃ言葉だけなら、なんならプロポーズみたいなこと言ってたかもだけど。
「それはまあ、女同士だから? あと態度って言うのはまあ、今日とかケイさんを落とすつもりでぐいぐいしてたつもりはあるよ」
「今日と言うかずっとなんだが、女同士? まあそうだが、それが何か関係あるか?」
「え、あれ、もしかして、この世界女同士とか全然恋愛するのに関係ない感じ? 子供できないとか障害じゃない感じ?」
「子供って。カノン、私とカノンが異性であったとしても、種族が違うから子供はできないんだぞ? と言うか、子供って言うのは畑でとれるものじゃないからな?」
いや、めっちゃ子供扱いするじゃん? でも確かに、考えてなかったけど、種族違うと子供できないのか。普通に話して一緒に暮らしてるから見た目全然違っても、肌の色が違うくらいの感覚なのかと思ってたけど、普通に全然違うんだ。
それを言われてしまうと、考えてなかった私ってめっちゃ子供って言われたら否定はできない。はい。すみません。
「えっと、種族が違うのも別に恋愛的に問題ないの?」
「いやまあ、一般的には同じ種族で恋愛をするし、少数派には間違いない。だが、好きになってしまえば仕方ないだろう。周りからは変わり者扱いされるだろうが、別にありえないことではない。それこそ地位のある立場の人間で家を継ぐとなると問題があるかもしれないが、私はそんなことはないしな」
「そ、そうなんだ。じゃあ女同士なのは問題ないんだ?」
「同じ種族で同性なのはそこまで珍しくないだろう」
あ、そ、そうなんだ。この世界的には同性なのはどうでもよくて、異種族の方が恋愛のハードル高いのね。じゃあもしかして女同士と思って気軽に触れてたのが、ケイさんからしたら普通に積極的にアプローチしてくるって思ってた可能性もあるのかな?
「そっかぁ、私の世界とだいぶ違うから、その辺の感覚も違うみたいだね」
「会ったこともないと前も聞いたが、近くにいなくてもなんとなくその辺の感覚はわからないか?」
「え? あー、いやいや、私のいたとこに異種族の人がいないっていうのは、近くにいないとかそう言うのじゃなくて、本当に、世界中どこにもいないってことだよ?」
生活が似通っているから、何となく同じ感覚でとらえがちだ。それでもグルーミングとか文化の壁があると思ってたけど、文化だけじゃなくて本質的に感覚が違うのかも。ていうかよく考えたら、視覚も聴覚もなにもかも、文字通り感覚が違うしね。
前に説明したつもりだったけど、どうやら私が身近に接したことが無いと言うだけで、世界規模で見たらいると思われていたらしい。でも言われてみたら説明難しいなこれ。
「は? それだとまるで、カノンみたいな種族しか世界にいないように聞こえるが」
「同じように言葉を話して一緒に生活する種族はそうだね。みんな私みたいに尻尾もないし、子供もできる程度にしか種族差はないよ。別の国とか、世界中まわってもそうだよ」
きょとんとされたけど、どうもケイさんにとっては私の世界の方が予想外すぎてそのままの意味にすぐ受け取れないらしい。
じゃあ前に説明した時に通じてなかったのも、お互いの前提条件が違い過ぎたからだね。私の説明が下手過ぎるわけじゃなかった。よかった。
「えぇ……想像しにくいな。同じ種族しかいない小さな村が全部の世界だと思ってる、くらいの感覚なのか。というかその状態で、よくこの世界に馴染んだと言うか、私のことを好きになれたな」
ケイさんは一回空を仰いでから不思議そうに首を傾げ、言いにくそうにしながら私を見た。その時鼻先が私のすぐそばにきたので、つんと私も顎をあげて鼻をくっつけてみる。
ちょっと湿ってるような、ひんやりした感覚だ。ケイさんは嫌がることもなくちょっと笑った。もう一回つんと鼻先でつついてから、私はケイさんの頬に触れてわしゃわしゃと撫でながら答える。
「それはまあ、ケイさんだし。ケイさんみたいに可愛くて格好良くて優しくて素敵な人といて好きにならないことある? 種族とか関係ないし、私も女同士だって思ってたけど、普通に好きになったし」
「そ、そうか……」
ケイさんは照れたように耳をぴくぴくさせた。そんなところも可愛い!
なんか真面目な話をしていて空気おかしかったけど、私今告白成功したところだよね! ケイさんも私の事好きで両思いだ! 恋人だ! 結婚だ! やった!
あまりに行違ってたからちょっと混乱してたけど、冷静になると体の奥から喜びが湧き上がってきて、私はうきうきでケイさんの首に手を回して抱き着いた。
「うん。なんかちょっとすれ違ってたみたいだけど、でも、無事に両思いになれて嬉しい! ケイさん大好き! 恋人として、一生一緒にいてね!」
抱き着くとぴんとたったケイさんの耳元で、うるさくないよう小さな声で、でもケイさんの好みにあうよう私は元気な声でそう言った。
「ああ! 恋人として、一緒にいような」
ケイさんもそう言って、私の背中に手を回して応えてくれた。
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