第8話 転移者は即落ちする
お互い言葉にしてお互いが大好きだし、出会いは突然だし色々あるし出会って間もないけど、でも私もケイさんもそんなの関係なくお互い大好きってことがはっきりした。なのでとっても幸せな毎日。
なのはいいのだけど、私のブラッシングのお返しにとケイさんが私の髪をとかしたり全身のマッサージをしてくれるようになった。
まだまだなれない飲食店、間に休憩があるとは言え長い拘束時間に結構疲れてはいる。睡眠時間はたっぷりとってるし体力的には問題ないけど、足もむくむしね。
だからマッサージ、すごい有り難いし気持ちも嬉しいし実際に気持ちいいんだけどさ。
「……っ」
「気持ちいいなら声をだしてもいいぞ?と言うか、いつまでも恥ずかしがるな」
ちょっと呆れたように優しく声をかけられるけど、変な声でちゃったら気まずすぎるから無理!
そう、ケイさんのマッサージ、気持ちよすぎるのだ。大きくしっかりしつつ柔らかい肉球の感触と絶妙な力加減が普通に気持ちいいのはもちろんだけど、ケイさん、普通にお尻とか内腿とかお腹とかデリケートなとこも触ってくるんだもん!
マッサージで緊張もほぐれて体が温まってぽかぽかして気持ちいいところに、優しくもしっかり触られたら、そりゃちょっとは違う意味で気持ちよくなっちゃうし、意識しちゃうでしょ!
「う、うん。でも、恥ずかしいから」
「まあ、どうしてもならいいが」
私が先に普通にブラッシングかけてたのは事実だけど、内腿はさすがにそんな際までしてなかった。なのにマッサージで普通に外側も内側もしっかり揉んでかつ優しくも撫でてくれるんだよね。ケイさんは全然普通にしてくれるから、ケイさん的にブラッシングと同じくらいの感覚でやってるんだろうけど……。
私も最初はくすぐったいが先行していたし、恥ずかしさで緊張も合ってそこまでじゃなかったから拒否しなかったけど、なれればなれるほどそっちを意識しちゃってそう言う意味で気持ちよくなっちゃってる自分を自覚せざるをえない。
「ん……」
そして最後の仕上げのお腹なでなでがほんと、あったかくて下っ腹まで丁寧にしてくれるから、もうほんと、自覚するほどそう言う意味にもうなっちゃってる。
いやほんと、ケイさんは普通にマッサージの気持ちで純粋にやってるんだろうし、私のことは手のかかる年下の友人と思ってるはずだし、まさかそんな目で見てると思ってないだろうに。
でも言い訳させてもらえるなら、私だってそんなつもりじゃなかった。
昔からずっと犬が好きで、特に大型犬にあこがれていていつか飼いたいと思いながら家庭の事情で飼えなかった。ケイさんと出会って仲良くなれて、犬扱いしないようにとは思ったけど、だからって恋愛対象として意識してたつもりはないのに。
全然種族も違う。この世界的に人種の違いではあるけど、見た目で雌雄どころか見分け自体パッと見では難しいレベルの種族さがある。これだけ違う種族だと仲良くなっても恋愛感情ってなかなかないでしょ。
だからケイさんも私をそんな風に意識するわけないし、私もそんなの何にも意識せず、ただただ友人として仲良くなったつもりだった。しかも同性だし、ケイさんも絶対私にそんな気ないはずだ。
なのに気づいたら普通に意識してるし、多分もう普通に恋愛感情で好きになっている。
前の世界では独り立ちして犬を飼うと言う目標もあったし、恋愛に興味なかったけど、まさか、元々私、そう言う気があったのかな? うーん。犬じゃないのはわかってるし肝心の中身が大事とは思う。ケイさんはその点パーフェクトすぎてほんと優しいし大好きだ。普通に私と同じ系統の人種だとしても変わらず大好きになる自信はある。
でも、いくらなんでも顔がほぼそうなのにそう意識するのは、やっぱり特殊性癖では? 私の性癖が元々そうだったのか、こっちにきてケイさんによって開拓されたのかはわからないけど。
いやまあ、好きになる自体はまあ、ケイさんめっちゃ素敵だし、仕方ないでしょ。性癖うんぬんも、この世界はどうせ他に人間いないから異種族でも恋愛として好きになるのも遅いか早いかの違いだろうし。うん、仕方ない。そこは問題じゃないよね。よしとしよう。
問題は、純粋にケイさんがしてくれてるマッサージで感じちゃってることなんだよ!
気まずすぎる。今更言えないし。あれだけ大好き。私たちの友情は不滅! みたいに言いまくってたのにちょっと触れ合っただけで恋に落ちちゃってるのもちょろすぎて気まずい。
それさえなければ、普通に恋愛で好きって自覚しても、もうちょっと文化にも馴染んでケイさんに恋愛アプローチをしかけていって自然に恋人になるのを狙うことに問題ないだろうけど、いやほんと、これ、どうしよう。
ばれたらばれたでこれ気まずすぎるし、変態と思われたら恋をしてもらる前に終わりだ。一回生理的に無理って思われたらそんなの恋愛対象外でしょ。なんなら友達としての関係も終わりだし。
ほんっとにケイさんのこと大好きだし、恋愛関係なくても一生付き合っていきたいと思ってる。
でもケイさんは、私が恋愛で好きって言ったら絶対今まで通りではなくなるし、何なら引かれて距離とられるでしょ。嫌われたくないし、恋愛として好きって告白して拒絶されるのは恐い。
だからってこのまま黙ってマッサージを受けるのはケイさんを騙してるみたいで申し訳ないし。ていうかマッサージ以外の最初何とも思ってなかった顔を舐められるのももう、恋愛的に意識しちゃってるし。うう、どうしよう。
と本気で悩んでいるのだけど、ケイさんのマッサージを受けてると気持ちよくてそれで頭がいっぱいになっちゃって、気づいたら寝てたりして、ほんと、どうしよう。
なんて風に悶々とした日々は悩んでいる間にどんどん過ぎ、私がケイさんと出会って二か月近くが経過したある日。
「カノン、今度のお祭りの後の連休なんだが、その、ちょっと、遠出しないか?」
と突然ケイさんは少し気まずそうに提案してきた。
お祭りがあるのはわかっている。今度この街は収穫を祈願するお祭りということで、起源とか神様とか詳細はよくわからないけどとにかく街全体で盛り上がるお祭りがあるそうだ。
特に目玉の伝統的に砂浜で行う奉納試合があって割と盛り上がるし、別地方からも見学に来るくらいでお店も書き入れ時、と言うことでケイさんも臨時で働くと説明を受けている。
その代り、それが終わったら町全体がしばらく飲食店とか多くがお休みになると言うことで、うちもそうなるので私も連休を予定している。
どのくらい大変か分からないけど、お祭りと同じ期間の一週間もお休みをもらえるので、さすがにずっと疲れを引きずるなんてことはないだろうし、遊びに行くのは大賛成だ。
「えー、嬉しい。行く行く。どこか行きたいところがあるの?」
「ああ、ちょっとな」
でもなんでそんな言いにくそうに? もしかして私の態度から何かばれたりしてないよね? とちょっとドキドキしつつ返事をすると、ケイさんはほっとするように笑顔をみせてくれた。
そう言う無防備な笑顔なんて見せられたら、最近はもうそれだけでドキドキしてきてしまう。ケイさんカッコいいのにふいにそんな気弱そうなそぶりされたら、可愛さ度合いが急に上がってギャップで可愛くてもう。ていうか普通に普段からも可愛いし。もうほんと、全部好き。
「ここから少し離れるし泊りがけになるんだが、美しい湖の有る街があって、この時期は特に湖のまわりに花が咲き誇る観光名所なんだ。その、少し混むかもしれないが」
「そんなところがあるんだ。花が咲き誇る湖とか……素敵! 絶対行く!」
ケイさんは細工師として綺麗な細かい模様のある小物とかの作品をつくって委託販売している職人さんだ。きっとそう言う素敵なものをみることで日々インスピレーションとかを養ってるんだろうなぁ。
お祭り期間のお手伝いは私が来る前からしてたって話だから、それを旅行費用にするのが定番とかなのかな? それを私に付き合わせるのが気が引けたとかなんだろう。
よかったー! 私の好意がばれたとかじゃなくて!
普通にこの世界のことももっと知りたいし、ケイさんと一緒なら絶対楽しいし、しかもデートみたいだし断る理由もないしめっちゃ楽しみ! 湖って普通に向こうでも楽しんだことないし、楽しみすぎるー。
「ボートとか乗れるの?」
「ああ。一日にのれる数に制限があるが、期間もあるし、初日に予約しておけば大丈夫だろう」
「わー、すごい。ケイさんはのったことあるの?」
「ああ。いや、見に行ったが、実はボートはまだなんだ。小さくても二人のりだから一人だと他の客と一緒にのせられてしまうのが嫌で」
「うわー、それは嫌だね。じゃ、一緒に楽しもう」
そのシステムは確かに嫌だ。食事くらいなら相席もしかたないかなってなるけど、ボートで知らない人と二人っきりはちょっとね。
でもじゃあケイさんも初めてってことで、その相手が私とか嬉しい! 今まではボートに誘う相手いなかったってことだし、もしかして、ちょっと脈ありなのかも? ドキドキしてきた。
内容からデートっぽいって思ったけど、え、これ、ほんとに期待してもいいのかも? いやいや、浮かれ過ぎは駄目! その前に大変なお祭りって言う山場もあるんだし、そこでミスしたりしたら目も当てられない。冷静に、まずは無事に乗り越えて、そしてお泊りも無難に楽しむことを目標にするんだ。ふぅ。深呼吸して。
「……わー、ほんとに楽しみ! わくわくしてきた! いい提案してくれてありがとう!」
いややっぱり浮かれないとか無理! だってデートじゃなくてもこんなのわくわくがとまらないもん! 絶対楽しいし!
「ああ、カノンも喜んでくれてよかった」
「それ楽しみにして、お祭りも頑張ろうね」
「ああ、任せてくれ。いつも手伝っているからな」
「うん、頼りにしてるねっ」
あー、めっちゃ楽しみ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます