第24話 急襲

「いやぁ、『スキル:ミカヅキ(アストバージョン)』が使えてよかったよかった。ここに来てから、見たことが無いモノばかりですからね。正直に言って困惑しかしていなかったのですが……少しでも知っているモノがある。それだけで安心するというモノですよ」


 クルクルと髪が巻いてある男性は、ニコニコ笑顔である。


「しかし、この感じ。もしかして……」


 うーんと、男性が首をかしげている。


 とぼけた様子の男性の登場に、ラオとウミは唖然としていた。


 だが、一人だけ動きだした者がいる。


「……ねぇ」


 リクだ。


「……リクっ! よせ!」


 ラオが止める間もなく、リクは男性の前に立っていた。

 

 そして、いつの間にか手にしていたバールのようなモノの尖っている部分を、男性に向けていた。


 リクは、普段は大人しいが、友人が傷つけられることに対して、とても強く反応する。


 だから、このときもリクはソラを殺したと思われる男性の前に勇敢にも立っていたのだ。


「もしかして、貴方がソラを殺したの?」


「んん?」


 リクの質問を、男性はただ興味深そうに聞いている。


「答えて! その剣で、私の友達を殺したの!?」


「んー? どうですか?」


 男性は、逆に質問をしてきた。


 その答えは、リクの逆鱗に簡単に触れた。


「ふざけないで、しぅほんにおあおあぶぅっ!?」


 だが、その怒りを言葉にすることは出来なかった。


 リクの口から血があふれ出していたからだ。


「……『スキル:エンゲツ』。確かに、スキルが使えますね」


 いつの間にか、リクの後ろに女性が立っていた。


 堅そうな水着のような衣装を身にまとった女性。


 出で立ちだけならば、まるでゲームのキャラクターの『戦士』である。


 その女性が持っている大きな剣が、リクの胸部を貫いている。


「……リク!」


 ラオは、リクの元に駆け出そうとした。


 リクが、ラオの声に反応して、彼の方を向く。


「ラぁ……」


 その瞬間。リクの美しい顔がボコボコと腫れ上がった。


 体の内側が沸騰するように……いや、実際に血液が沸騰したのだろう。


 ボコボコと全身が膨れ、体中から湯気を出しながら、リクの体が崩れ落ちた。


「リク……リク!」


 もはや、リクはただの肉の塊に変わっている。


「な……そん、な……」


 ラオは、その場で膝をついた。


 凄惨な友人の死が、ラオの体から力を奪ったのだ。


 一方、その友人達を殺した男女は、仲良く話をしている。


「ふむ。どうですか? キーガルさん」


「アスト様のおっしゃるように、スキルの使用に問題は無いですね。ただ、倒した後に……」


「やはりですか。実は僕もです。これは、試してみる必要がありそうですね……」


 男女が、ラオの方を見た。


(な……んだ。この目)


 ラオはまだ17年しか生きていないが、このような目を人に向けられたことがない。


 人を、人として認識していない目。


 それだけしかラオにはわからないが、彼らの目はとても恐ろしいモノだった。


「逃げるぞ! ラオ!」


 唖然としたラオの手が、急に引かれた。


 ウミだ。


 ウミが、ラオの手を引いて、立ち上がらせてくれたのだ。


「あ……ああ」


「走るぞ!」


 無我夢中で、二人は手をつないで走り出した。


 何が何やら、よくわからない。


 ただ、彼らはラオ達を殺そうとしていることだけはよくわかった。


「とにかく、校門へ行こう!」


「……そうだな!」


 周囲は瓦礫だらけだが、学校から出るなら校門が一番道が良い。


「アイツらは、追ってきているか?」


 ウミの質問に、ラオは背後を見た。


 勇者のような格好の男性と戦士のような格好の女性は、まったく動いていない。


「大丈夫だ! こっちに来ていない」


「じゃあ、こ」


 ウミの言葉が途中で消える。


「ウ……!?」


 すぐにラオは隣を見た。


 ウミの手は、まだラオが握っている。


 ただ、手の先がなかった。


 数メートル後ろで、ウミの体がバラバラと崩れて落ちている。


「……ミ?」


「『バギルエア』ふむふむ。魔法も使えるようだ」


 黒い衣装をまとった男性が、ラオから少し離れた場所で頷いている。


 彼は大きな杖を持っていて、まさしく『魔法使い』のようである。


「マギルさんの魔法。いつみても問題なし!ですね」


 マギルと呼ばれた男性の元に、勇者のような男性、アストと、戦士のような女性、キーガルが近づいていく。


「ああ。しかし、不思議だな。アレを倒したら妙な感覚が……」


「マギルさんもですか。やはり、普通とは違うのでしょう」


 彼らの話は、ラオの耳に届いていた。


 しかし、内容までは考察出来ない。


 考える余裕が無い。


 あっという間に、死んでしまった。


 せっかく生きていたと思った友人たちが、大好きな友人達が、残酷な殺され方をした。


 思考など、出来るわけがない。


「……妙な感覚、ですか」


 アスト達の元に、もう一人女性がやってくる。


 真っ白い、しかし豪華な衣装をまとっている彼女は、『聖女』と呼ばれても不思議ではないほどに清らかな雰囲気である。


「セインフィネさん。貴女も試してくれませんか? ちょうど、そこにもいるので」


 アストが、ラオを指さす。


「そうですね。あまり、攻撃魔法は得意ではないのですが……」


 セインフィネは、大きな杖を両手に持った。


「……どこまでの魔法が使えるか。試してみましょうか」


 大きな光の塊が、セインフィネの頭上に現れる。


「『極大聖魔法 ホーリー・セイント』」


 その光は、眩しくはあった。


 ただ、それだけだ。


 それだけを感じたあと、ラオは意識を失った。

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