第23話 大好きだよん

「あー……堅い、この瓦礫」


 腕が疲れてきて、ラオは一度休憩を挟むことにした。


「大丈夫?」


「ああ」


 さきほどの話を聞いて、やめるわけにはいかない。


 ラオは、気合いを入れ直す。


 同時に、話したかった内容を思い出した。


「……さっきの『モテる力』の話だけど」


「まだその話を続けるの?」


 リクはうんざりとした顔をしているが、ちょっとした後悔の話でもあるのだ。


 ラオは誰かに聞いてほしかった。


「いや、まぁ、異性から『モテる』って話は置いておくとして、実は神様から別の『モテる力』が必要か聞かれていたんだ」


「別の『モテる力』?」


「ああ。重たい荷物を『モテる力』」


 ラオの答えに、ウミが目を細めた。


「もしかして、その『モテる力』があれば、この瓦礫もどかすことができたのに……って話をしたいのか?」


「そういうこと。失敗したよ。そっちの『モテる力』をねだっていたら、こんなに苦労しなかったのにな」


『モテる力』を冗談だと思っているリク達は、呆れたように大きく息を吐いた。


 一方、ソラの様子は違った。


「ねぇ、ラオラオ」


「なんだ、ソラ?」


「なんとなく、なんだけど。ラオラオに『モテる力』を与えた神様ってもしかして大好きって言っていた幼なじみの女の子?」


 的中している、ソラの指摘にラオは瓦礫を壊す手を止めてしまう。


「ソラ、それはダメじゃない?」


「あんまり、言って良い冗談じゃ無いぞ?」


 リクとウミの注意に、ソラはあわわと慌てる。


「いや、本当に、なんとなくそう思って……」


 少しだけ止まっていた手をラオは再び動かしながら、困っているソラに正直に言う。


「ソラの言うとおりだ」


「え?」


「は?」


「俺の大好きな幼なじみ……ミコトが、俺に『モテる力』を与えてくれた」


 先ほどまで冗談だと馬鹿にしていたような様子だったリクとウミが、目を見開いている。


「ねぇ、ラオ。もしかして、今までの話、全部本当?」


「神様、なんているのか?」


「ああ……ミコトは、今、神様になっている。寄道神社ってところでな」


「寄道って……それ、そのラオの幼なじみの生家じゃないのか?」


 さすがはウミである。


 ミコトについてよく調べたのだろう。


 寄道神社は、ミコトが生まれた家であり、つまりミコトは神主の娘なのだ。

 

「そうだな。神主の娘だった縁、みたいなモノがあるんだろうってミコトは言っていた。この話をしたとき、お賽銭を親に持って行かれるのを悔しがっていたけどな。自分が稼いだのにーって。神様になったから、お金なんて使えないのにな」


 このときのミコトは、まだ神様になって数ヶ月しか経っていなかった。

 ラオも中学一年生で、正直ミコトが神様になったことを受け入れていない部分もあった頃だ。


「ミコトに頼まれて、それとなくミコトの両親にミコトが神様をしていることを伝えたこともあったけど……まぁ、信じてもらえるわけないよな。お賽銭がほしいから、なんて邪な願い、神様でも叶うわけがない」


 ラオが昔のことを思い出して笑っていると、リクとウミと、目があった。


 彼女達は、なぜか悲しそうな顔をしている。


「……どうしたんだ?」


「……何でもないよ」


「ああ、気にするな」


 2人の態度を不思議に思いながらも、会話を切り上げるべきだとラオは判断する。


「まぁ、詳しいことは、ソラを助けてからにしようか」


 ラオは、ようやくラオでも動かせる程度に壊せた瓦礫をどかし始めた。


「……そうだ。もしかしたら……」


 ミコトの話題が出たことで、ラオは思い出した。


「救助は呼べないけど……神様はいるんだよな」


 ミコトがいる神社は、学校から少し歩いた場所にある。


「『願い』、か。よし、このあと、ミコトの場所に行こう」


「え?」


「本気か?」


「ああ、もしかしたら……皆、助かるかもしれない」


「皆って……」


 疑問符を浮かべているリク達をよそに、ラオは瓦礫を動かす手に力を込めた。


 希望が出てきた。


 ミコトが今まで言っていたことを、ラオははっきりと覚えている。


 彼女が言っていたことが本当なら、どうにかなるはずだ。


 希望は、何よりも人を動かす力になる。


 あっという間に、ラオはソラの体の上に乗っていた瓦礫の山をどかしてしまった。





「出られたー!」


 無事に瓦礫の山から脱出したソラが、ぴょんと飛び跳ねてみせる。


 足が折れているということもなさそうだった。


「良かった」


 元気そうなソラの様子に、リクとウミは胸をなで下ろす。


「ありがとうね、ラオラオ」


 嬉しそうなソラに、ラオを笑顔で返事をした。


「どういたしまして」


「あれ? ラオラオ泣いている?」


 視界がゆがんだと思うと同時に、ソラがその理由を指摘する。


「いや、これは……」


「えへへ……ラオラオ」


 ラオは、涙をぬぐって再度ソラの方を向く。


 すると、ソラは満面の笑みを浮かべていた。


「もう一度、言うね。大


/好き/



だよん」



 ボトリと、落ちた。


 言葉が。


 3等分された。


 ソラの頭が、嬉しそうな笑顔のまま。


 満面の笑みのまま。


 左右と下顎。


 三つに分かれて、地面に落ちていく。


「は……?」


「え……?」


「な……?」


 突然、友人の顔が崩れたことに、ラオもリクもウミも反応出来ないでいた。


 ソラの頭の無い体は、まだ立っていた。


 しかし、上の方から切れ目が走っている。


 ジリジリと切れ目は広がっていき、そして裂けた。


 ソラの体が、3等分に。


「問題なし!!」


 声が聞こえた。


 力強い、男性の声だ。


「問題なしですよ、皆さん! ちゃんと『スキル』は使えますよー!」


 その男性は、派手な鎧を着ていた。


 くるくると巻いている髪に、豪華な剣を持っていて、まるでゲームのキャラクター。



 『勇者』のようだった。

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