第15話 ムカつく
「……なぁ、どうする?」
料理を食べて、少し話をしたあとに解散したゲットウとヒノツルギは、二人で家路についていた。
二人とも幼なじみなので、家は近所である。
歩きながら、先輩たちに頼まれた内容を思い返した。
クラスメイトの太刀宝にバツを与える。
言い換えると、イジメて、学校に来れないようにするということだ。
ゲットウも、ヒノツルギも、ラオには恨みがある。
大好きな人を奪われたという、恨みだ。
「……俺は正直、気が進まない」
「そうだな。僕もだ」
しかし、恨みがあるからといって、イジメを進んでするほど腐っているわけではなかった。
「それに、太刀宝をイジメたからって、ソラが戻ってくるわけじゃないだろ?」
「今日、ソラは何か言っていたか?」
休んでいたヒノツルギに今日の出来事を話すか悩んだゲットウだったが、結局は教えることにした。
「誓いの話をしたら……知らないって言われた。カンサイにいくなら、コウシエンじゃなくて、UPJが良いって」
「……っ!? そう、か。そうだよな。何となく、そんな気がしていた」
今日一日、休んでいる間にヒノツルギも色々考えていたのだろう。
その際に、ソラがヒノツルギたちの誓いの事を知らない可能性について、思い当たったのかもしれない。
二人は黙って、暗い道を歩く。
すると、遠くから人の話し声が聞こえてきた。
「……ゲットウ」
「なんだ……おわっ!?」
人影を確認した瞬間。
ヒノツルギはゲットウの手を引いて、近くの道の陰に隠れた。
「なんだよ」
「しっ。静かにしていろ」
しばらく隠れていると、人影が近づいてくる。
「……あれは」
その人影は、彼らの思い人であるソラと一緒に歩いているラオの姿だった。
他にも、ウミとリクの姿もある。
彼らは、中心にいるラオにくっつきながら、仲良く歩いていた。
「ラオラオ、そういえば夏休み、UPJに行くんでしょ?」
「そんな話もあったな。本気か? どう考えても泊まりになるけど……」
「いいじゃん。別に、変なことはしないんでしょ?」
「しないけどなぁ……」
「してもいいんだよ?」
ニシシと笑うソラに、ラオが困惑した顔をしている。
そんな彼らの様子を見ながら、ヒノツルギとゲットウは、黙って隠れていた。
そして、彼らの気配がなくなってから、ヒノツルギが口を開く。
「なぁ……」
「なんだ?」
「正直なことをいってもいいか?」
「ああ」
「……ムカつく」
ヒノツルギの意見に、ゲットウも同意した。
「ああ、ムカつくな」
「先輩の話だと、他のクラスメイトも巻き込んでイジメをしろって話だったよな」
ヨキチからの頼み事を、ゲットウも思い返す。
「そうだな」
「そうやって、関係ない奴らを巻き込むのはよくないと今でも思う。けどさ……」
ヒノツルギは、息を吸い込んで、吐いてから。
落ち着いてから、言う。
「俺たちだけでやるんなら、いいんじゃないかな」
ヒノツルギの提案を、ゲットウが吟味する。
「そう……だな。それに、先輩達に頼まれたんだ。断るわけにもいかない。太刀宝が調子に乗っているのも事実だ。何かしないと、悪いだろ」
誰に対して悪いのか。
言っているゲットウ本人にもよくわからないことではあるが。
「じゃあ、やるか。太刀宝へのバツ……いや、教育?調子に乗っちゃいけないって、教えないとな」
「ああ」
道陰から、二人は仲良く出る。
「まずは、どうする?」
「そうだな……朝練前に、上履きでも隠すか。場所は……女子トイレとか? 出来れば弱みを握ってSNSにさらしたいけど……」
「SNSは、逆にこっちが悪者になるかもしれないだろ。弱みを握るのは賛成だけど……」
二人で、ラオを陥れる計画を建てはじめた、そのときだった。
急に、ヒノツルギの姿が消えた。
「女子からのイメージが下がるような弱みがいいよな……ヒノツルギ?」
消えたヒノツルギの姿を探して、ゲットウが呼びかける。
「おい、ヒノツルギ。なん冗談だよ、おい! お……」
そして、ゲットウも姿を消した。
この日、ゲットウを含む、カンノバル高等学校のヤキュウ部員、54名。
そして、一部のOBが消息を絶った。
だが、彼らの捜索は行われることはなく、このことが公になることもなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます