第12話 入ってきた大学生


「おー、可愛い。歌が上手いなって思っていたけど、レベルたけー」


「女子高生じゃん。助かるー」


 ズラズラと大学生たちは何の断りもなく部屋に入ると、部屋を占領する。


「喉渇いたから、もらうねー」


「あっ……」


 ソラの飲みかけのメロンソーダを、彼女の隣に座った大学生が勝手に飲み干した。


「さっきまで歌っていたのは君でしょ? もう一度歌ってよ。俺がデュエットしてあげるからさー」


「……っ」


 マイクを持って立って歌っていたリクの隣に来た大学生は、彼女の肩を抱き寄せる。


「ん? 君、おっぱい大きいね。良い匂いもする」


「……はぁ」


 ウミの隣に座った大学生は、彼女の胸元をジロジロと見た後に、首筋に顔を寄せて匂いを嗅ぎ出した。


「ちょっとちょっと。おまえら、がっつきすぎだろー」


 一人だけ、ソラ達にセクハラ出来ていない大学生が、なぜかラオを見て笑い出す。


「っていうか。狭くない? この部屋」


 そして、ラオのところまで歩いてくると、彼の頭に手を置いた。


「というわけでー。君は帰ってくれない? 俺たちが楽しめないじゃん。邪魔者はーゴーホーム?」


 大学生は、ラオの頭に乗せた手に軽く力を込めていた。


 痛みが少しだけ、発生する程度の力を込めて。


 脅迫の、意味を込めて。


「……そうだな」


 ラオは、素直に立ち上がる。


「お、いいね。ノリがいいね。君は偉いよ。うん。大丈夫。お友達はちゃんと俺たちが……」


 立ち上がった瞬間、ラオは大学生の腕をとると、そのまま近くの壁まで歩いていき、たたきつけた。


「グアッ!?」


「なっ!?」


 突然のラオの行動に、他の大学生達は驚いて立ち上がる。


「おまっ……何を……いてぇええええええ!?」


 壁にたたきつけられた大学生が、ラオに反撃しようとするが、すでに関節を極められており、動くことは出来ない。


「ケンチャン!? おい、ケンチャンに何をするんだよ!!離せよ!」


 大学生の一人が、ラオに向かって飛びかかろうとする。


 その動きに反応するように、ラオは腕をとっている大学生の体を動かした。


「いいいいいいいい!?」


 すると、より大きな声を出して、大学生が叫び出す。


「動くな。動くと、折るぞ?」


 彼らは、普通の学生だ。


 友達を人質に取られるような状況には慣れていない。


 ゆえに、彼らは混乱していた。


 誰かが何かを言おうとして、しかし黙る。


 そんなことを何度か繰り返して、大学生の一人がようやく口を開く。


「……とりあえず、ケンチャンを離してくれないか?」


「なんで?」


「その、痛いだろ」


 大学生は、ケンチャンという男性を見ながら、本当に悲しそうな顔をしている。


 その隣には、無理矢理抱きしめたままのリクがいるのだが。


「ダメだ」


「なんでだろ。離せば出ていってやるから、な?」


「出て行けると思っているのか?」


「はぁ?」


 大学生達が不思議そうな顔をしていると、再びラオ達がいる部屋の扉が開かれる。


「お客様ー? 大丈夫でしょうか?……」


 入ってきたのは、カラオケボックスの店員だった。

 ラオが大学生の腕をとって壁にぶつけたとき、同時に内線電話の受話器を落としていたのだ。

 受話器が上がっているのに、反応がないことを不思議に思った店員が、様子を見にやってきたのである。


 店員は、部屋の中の状況を見て、声を詰まらせる。


「……っち。帰るぞ」


「ああ……」


 店員も来て、状況が悪くなったと思ったのか、大学生達はそのまま何事もなかったかのように帰ろうとする。


「なんで帰ろうとしているんだよ」


 隣を通って部屋を出ようとした大学生を、ラオは呼び止めた。


「は? おまえ、調子に乗るな……」


「ぎゃぁああああああ!?」


 大学生の反論を、ラオは腕を極めている大学生の叫び声でかき消した。


「店員さん。警察を呼んでください。この人達、勝手に入ってきて僕に暴行したり、飲み物を飲んだりしたんです」


「え、ええ?」


「早く! 呼んできてください!」


 ラオを急かされて、店員は慌てて戻っていく。

 おそらく、店長などに相談しに行ったのだろう。


「おまえ、ふざけるなよ! 何しているんだよ!」


 警察と言われて、大学生達は慌てだす。


「何しているんだよ、はおまえ達だろ?」


「ふざけるんじゃ……」


 殴ろうとしてきた大学生のパンチを頭の動きだけで避けたラオは、そのまま腕を極めていた大学生から手を離して、殴ってきた方の大学生の腕をとる。


 殴ってきた勢いを乗せて、ラオは彼を床にたたきつけた。


 今度は、殴ってきた大学生の腕をとって関節を極める。


「トオルッチ……」


「お、俺は関係ないからな……!」


 あっさりと友達二人がラオに負けたのをみて、大学生の一人が走って逃げていく。


「ま、待てよ!」


 彼の後を追って、もう一人の大学生も部屋から出て行った。


「……ウミ。警察には連絡したか?」


「ああ。もう到着すると思う」


 すると、店の外からサイレンが聞こえてきた。


 実は、店員が連絡するよりも前に、彼らが部屋に入ってきた時点でウミがスマホを操作して通報していたのである。


「……せっかくのカラオケだったのにな」


 ソラのため息に同意しながら、警察が到着するまでラオ達は部屋で待つことにした。

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