第6話 生け贄
6月12日。
今日もラオは、ミコトがいる寄道神社でお百度参りをしていた。
「ミコトと俺は健やかなるときも病めるときも、支え合い、ともに生きることを誓えますように!」
「その願いは叶いませーん」
いつものようにバツ印を作りながら現れたミコトに、ラオは言う。
「だから、なんでだよ!」
「私が神様だからだよ!」
いつものやりとりをしたあと、ラオは本題に入る。
「じゃあ、俺の『モテる力』を消してくれ」
「えー……やだ」
ミコトがラオから目をそらした。
交渉することさえも嫌なときにするミコトの癖だ。
こうなると、ミコトのいうことを聞かせる時は力尽くになる。
ミコトが生きているときは、それこそミコトの両親などに頼むこともできたが、神様となったミコトにはそれもできない。
ならば、やはり『モテる力』を消すためには、イナリが言っていた方法をするしかないのだろう。
ラオは、持っていた荷物を下ろす。
「……なに、それ」
「生け贄」
「そんなっ! ラオ、これはダメだよ! なんで、こんな……こんなモノを……」
ラオが下ろした荷物の中身を見て、ミコトはワナワナと震える。
それはそうだろう。
ラオが用意した生け贄は、ミコトにはあまりにも刺激が強すぎる。
「とおりよんしゃあの空港限定イチゴミルク味に、ワシントンバターサンドの期間限定、九女茶使用の抹茶味。ほかにも、アマイダゴダンの生ドーナツなどなど……」
そう。ラオが用意した生け贄とは、様々な種類のお菓子だった。
しかも、人気店の期間限定品など少々お高いお菓子である。
「なにそれーーーーーー!!」
ラオが用意した生け贄に、ミコトは目を輝かせて飛びついた。
全然生きていない贄だが、ミコトは年齢で言えば花の女子高生である。
おいしいお菓子に飛びついて当然である。
イナリからミコトが喜ぶモノを生け贄として捧げるのはどうだろうかという提案を受けて実行したが、間違いなかったようだ。
どれから食べようとよだれを垂らしているミコトに、ラオは言う。
「その生け贄を捧げるから、俺の『モテる力』を消してくれ」
ラオのお願いに、ミコトは悩んでいた手を止める
「そんなに、『モテる力』を消したいの?」
「ああ……だって、異常だろ? こんなの」
ラオは、昨日あった出来事をミコトに話す。
「どこで、どこまで、集めたのか知らないけど、可愛い女の子が俺の周りに集まって……でも、クラスメイトには、集まった女の子のことが好きなヤツだっていたんだ。なのに、『モテる力』のせいで二人は仲が悪くなって……そいつと、その女の子は、幼なじみなんだってさ。俺の『モテる力』のせいで、幼なじみ同士が上手くいかないのは……ダメだろ」
ラオの話を聞きながら、ミコトは荷物からドーナッツを取り出して、口に運んだ。
「……おいしい! ふわふわなのに、とろけるような食感で……クリームも最高だね!」
「おい、勝手に食べるなよ。食べるなら、俺の願いを……」
「いいよ」
「え?」
「消してもいいよ。ラオの『モテる力』」
思ったよりもあっさりと『モテる力』を消すコトに同意したミコトに、ラオは逆に動揺してしまう。
「いいのか? やけにあっさりだけど……」
「もともと、ラオに幸せになってほしくて与えた『力』だからね。その『力』でラオが苦しんでいるなら、本末転倒だし。ラオは、集まった女の子達の事が嫌いなんでしょう?」
ミコトの最後の言葉をラオはゆっくりと反芻して、慎重に答える。
「いや……『モテる力』で集まった女の子たちは……クラスメイトの女の子たちは、皆良い子だ。嫌いな子なんて、一人もいない」
「そっか。それでも『モテる力』を消したいんだね。本当に、いいんだね。その子達が、どうなっても」
ミコトは念を押す。
明らかに、脅迫を込めて。
「どうなってもって……どういう意味だ?」
「……何も知らずに消したら、それはそれでラオが苦しみそうだから説明するね」
ミコトはドーナッツを食べ終えると、今度はクッキーを取り出した。
「うん。濃厚なバターの香りが最高。っと、クッキーの感想じゃなくて。例えば、そのラオが言っている幼なじみの二人。光彩 空爛(こうさい そら)と日剣 一芽(ひのつるぎ はじめ)だけど」
「……二人のことを知っていたのか」
「自分が運命を変えた人間のことくらいは把握しているよ」
ミコトはパリパリとクッキーを食べていく。
「……ラオの呼び方に合わせようか。ソラとヒノツルギの二人だけど、確かにラオがいなかったら、二人は高校生になっても仲が良くて、最終的には付き合っていたよ。ラブラブ幼なじみカップルの誕生だ」
「じゃあ、やっぱり……」
「でも、ソラは強姦される」
ミコトの衝撃的な発言に、ラオは言葉を失った。
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