第2話 ソラ リク ウミ

「おはよう、ラオラオ!」


「おはーラオー」


「おはよう。太刀宝」


 ラオが登校すると、3人のクラスメイトが話しかけてきた。


 元気よく挨拶をしたのは、光彩 空爛(こうさい そら)。


 美少女が多いと噂される、ラオが通うカンノバル高等学校の一年生の中でも二大美少女と言われる一人だ。


 金髪のショートヘアで片目が前髪で隠れているが、いつも弾んだ表情をしている。


 また、本人の気質はとても明るく、男女問わず人気が高い。


 友人も多く、特に気に入った相手にあだ名をつけてくる性質があり、ラオのこともラオラオとしきりに呼んで、絡んでくるのだ。


 その隣にいる少しテンション低めに挨拶をしてきたのは、暁闇 凜陸(ぎょうあん りく)


 ソラと同じ二大美少女と呼ばれる少女で、背が同学年の男子生徒と比べても高く、モデルのようである。


 深い紺色の髪の毛が背中まで伸びて艶めいており、まるで星空を背負っているようだ。


 また、常にテンションが低いのだが、歌うときだけは、その美声がどこまでも遠く響くのである。


 彼女が歌を投稿するとすぐにその動画はバズってしまい、実はこの夏デビューが決まっていたりする。


 友達は多くないのだが、ラオにだけはよく話しかけており、彼女がカラオケに行くときは、必ず拉致しにくるのである。


 最後に唯一ラオのことを名字で呼んだのは、ソラとリクと同じ中学校出身の黄昏 海満(たそがれ うみ)だ。


 眼鏡をかけて、淡い水色の髪を三つ編みにしている彼女は、絵に描いたような学級委員長であり、実際に学級委員長を務めている。


 ソラとリクというとびきりの美少女に囲まれているため目立っていないが、彼女も十分すぎるほどに容姿が整っており、特に、二人にはない、たわわな部分は、男子生徒に注目されていたりする。


 実は天才的なハッカーで、ソラとリクを含む、女子生徒の盗撮画像などを常に監視し、犯人を次々と警察に送っている(学生だろうがちゃんと警察に通報している)


 そのため、男性に対して非常に警戒心が高いのだが、なぜかラオには挨拶をして話しかけてくる。


 それどころか、唯一好む運動である水泳に、ラオを巻き込んで連れて行ったりもするのだ。

(ちなみに、水泳は競泳水着を着て泳ぐのだが、ウミのその体型から、とても素晴らしいことになる)


「おはよう。ソラ、リク、ウミ」


 そんな3人の少女に挨拶を返して、ラオは改めて思う。


(異常だな、これ。『モテる力』が授けられていたって聞いて、なんか、逆に安心した)


 こうやって話しているだけで男子どころか女子の注目も集めるような美少女たちと、ラオは何の苦も無く話しているのである。


 ミコトが言っていたように、ラオの今の状況は男子高校生にとって、まさしく夢のような状況ではあるのだろう。


 ありえないような幸運であり、実際に、それは神様によって作られた状況だ。


「ラオラオ、聞いてよ聞いてよ。昨日、ドラモンハンターの緊急クエストを出したんだけど……」


「ラオの背中……暖かいね……」


「ちょっと、ソラ。リク。そんなにくっつくと、太刀宝が歩きにくいだろ? ほら、手を貸すから……大丈夫か?」


 ソラがラオの腕に抱きつき、リクが背中に乗っかかる。


 その拍子で少しバランスを崩したラオの手を、ウミがとって4人は歩き出した。


(うん。正常に異常だ。異常だって思うと、マジでヤバいなこれ。『モテる力』って)


 これは年頃の男女の距離感ではない。


 周囲の男子から(一部、女子からも)歯ぎしりの音が聞こえてくるのは、気のせいではないだろう。


(なんで、ミコトはこんな力を俺に授けたんだろうか)


 その答えを、ラオはわかっていた。


(ミコトはなんとなくとか言っていたけど……本当は、忘れてほしいんだろうな。自分のこと)


 ラオが毎日ミコトの元へ通い、お百度参りをしていることを、彼女が悲しそうな目で見ていることをラオは知っていた。


 そして、もう神様となっている彼女のことを諦めてほしいと願っていることも知っていた。


 だから、モテる力を授けたのだろう。


 ラオが別の女の子に夢中になれば、もう死んでしまっているミコトなど忘れてくれるだろうと祈って。


(こんなことで、忘れるわけないだろう。俺は、おまえが好きなんだ。ずっと……)


 ソラもリクもウミも、素晴らしい女性だ。


 しかし、どんな女の子よりも、ラオはミコトが好きなのである。


 そう、自分の思いを再確認している間に、ラオ達は自分たちのクラスである1-Aの教室に到着した。

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