第5話 編隊命名の儀

 翌日、目覚めた姉妹がパラパラと黑鉄球から出てきた。

 改めて旺鉄の広場を散歩してみたり側転やバク転をしてみたりなど、姉妹はそれぞれに楽しみだす。


 

 そのうちに、旺鉄ナノの念話が聴こえてきた。

『アト3日 艦ハ 溶岩中ヲ潜リ続ケる』

 

『ソノ間ニ 皆の艦載機ファルケノ 名前ヲ考エヨウ』


 改めてテーブルを出すと、そこから次々と鉄板を出現させていく。

 

 全ての鉄板に沢山の文字が刻まれている。

 鉄板の上方、大きな文字で「海軍連合艦隊 艦艇一覧」とある。


 鉄板を手にした雌餓鬼のニャーが、不思議に思い文字に触れてみた

〈かいぐんれんごうかんたい かんていいちらん〉

 鉄板から音が出た。


「すごい」「音、出た」

 周りの姉妹が感心して声を上げた。

 

 そのうち、鉄板を手にした他の姉妹たちて、文字に触れてみる。


〈かいぐんれんごうかんたい かんていいちらん〉

〈かいぐんれんごうかんたい かんていいちらん〉


 続いて、下の方の文字に触れてみると、様々な音が鉄板から出ていった。

 

〈そうりゅう〉

〈つくば〉

〈ずいほう〉

〈いずみまる〉

〈まつしま〉

 ……


 下の方にある文字からもそれぞれに音が出る。そうするうちに、幾人かの姉妹が、キャッキャと言いながら尻をクネクネ動かしだした。


 〈ゆうばり〉〈きそ〉〈たにかぜ〉……鉄板から音が出るたびに尻をクネクネさせる姉妹がどんどん増えていく。

 

 旺鉄ナノの前で、目につく限りの姉妹のほとんどが尻をクネクネさせている。


 ナノは姉妹に聞いてみる。

「何ヲ シテイルノ?」


「「漢字の文字、書いてる~」」

「おしりの文字ぃ」

 

 お尻の文字で漢字を書いているの、と言う。

 

 室町の世、地を満たした炎で草木が燃え尽きた。

 天鬼族が空に逃れ御尻様を奉ずるようになってから、数百年。


 字を書く紙を失ったため、漢字の記憶は薄れていく。

 けれども、天鬼族はお尻の文字で漢字を伝えることで何とか記憶を保ってきた。

 

 天鬼族の末裔の姉妹は今も幾つもの漢字をお尻で受け継いでいた。

 そのお尻の文字の経験をもって、初めて見る鉄文字を捉え、その読みから文字を感じ……そしてお尻の文字を書いて見ているのか。


 皆、楽しそう。

 尻をクネクネクネクネし文字を書いてみては、笑いあったり、感心したり。


 ✧


 ナノは、姉妹に心ゆくまでお尻の文字をくねらせるに任せることにした。


 姉妹が出払った黑鉄球の裡にひとり入る。


 ナノは裡に在る一周目のかけら、ホノカを浮かび上がらせてみた。

 ナノには人だった頃らしき記憶はホノカの欠片しかない。

 ただ、姉妹のような仲の者たちと過ごしたような光景は裡にあった。

 

 肌白の御尻に旺鉄の目を向ける。 

 この御尻も、人外の存在となった後に足掻く定め。

 

 一周目にある彼の運命に無理にでも関わることで、ナノもなお足掻こうとしている。何を守りたかったのか、既に記憶にない旺鉄の身だが、なお何かを救おうとしているナノは立ち止まらない。



『お前モ 頑張れ』

 ナノは御尻に声をかけてみた。



 ✧


 黑鉄球を出たナノは、改めて姉妹に念話する。

『ミンナが見ている鉄板は ナノがかつて訪れた国の軍隊の艦名』

 裡なる記憶の欠片に触れ、少し人間味を増した声音だったのだろうか。その念話は姉妹に良く響いた。

 なお尻文字を書く者もいるが、多くの姉妹がナノの周りに集まってきた。



 ナノに尋ねながら、姉妹たちは、搭乗する機に名をつけることの意を少しずつ理解していった。

 

 はじめに名付けをしたのは、豪の者、ララ。

 ララは、自らの艦載機ファルケの名、武蔵を誇らしく、尻文字で示した。


 

 倥空こうくう母艦が溶岩層を進む3日のうちに、雌餓鬼姉妹ひとりひとりの艦載機ファルケの名とその尻文字とが定まっていった。

 

 毎日、食しうるスープを飲み、良く眠った姉妹の体調も万全。

 

 いよいよ、マグマントル層、そして、魔物モンスターどもが待つ迷宮ダンジョンに向かう。

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メスガッキー大編隊 と 末妹レム子の天鬼族再旺紀 ✧1巻だっちゃ Rei @e-a-st

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