第3話 旺鉄の倥空母艦 炎の煉獄の地を潜る

 ララと共に、ナノは黑鉄球の館に戻った。

 雌餓鬼たちが寄ってくる。

 

「どうやってやっつけた?」

「ハンブッシツ?」

「レール、ガン?」


 ナノは答える。

 

 反物質レールガンとは2つの権能の組み合わせ。

 物質と反物質とを確率的に生み出し続け、うちに蓄える権能。

 うち反物質を、余剰次元を介し敵の裡に滑り込ませる権能。

 敵のうちに入った反物質は触れた物質と対消滅し、爆砕のエネルギー源となる。


 学問に縁のない姉妹には理外の答え。

 

 でも、権能がもたらす結果に、雌餓鬼達は得心していた。

 百を超える敵が瞬時に爆砕。

 

 獄卒の魔が魔素の他に普通の物質を含むから爆砕できた、とナノは付け加えた。

 何にせよ、雌餓鬼達からすれば、べらぼうな力。

  

 普段、食しうるものを探しに煉獄の炎に降り立つ時、雌餓鬼姉妹は前衛と後衛の隊をなす。

 後衛の隊は、魔に対し防御の陰陽結界を張る。前衛では(ララのような豪の者でない場合は)幾人かで隊を組み攻めの陰陽を駆使し、獄卒の魔に相対する。

 そして、獄卒の魔を幾体か倒す間に、手の空いた雌餓鬼たちが食しうるものを集める。

 

 接合で生み継がれてきた姉妹は、ずっとそうやって過ごしてきた。



 ナノは、黑鉄球の館の脇に停まっていた旺鉄の塊を静かに膨らませていく。

 

 旺鉄塊のうちで反物質を放ち爆ぜさせることで大きくできるのだという。

 獄卒の魔を爆ぜさせた対消滅が裡に起きても、旺鉄にはヒビ一つ走らない。

 

  またも何故?と聞かれる。

 ナノは、対消滅で生じた素粒子や光子は距離の自乗で減衰し……鉄塊に織り込まれたクォークの凝集体、ストレンジリットが……など、説明するが、雌餓鬼たちは途中で聞くのをやめてしまう。

 黑鉄球の館より遥かに大きくなった旺鉄の塊と、入り口のようならしき穴の方に目を奪われたのだ。

 

 ナノが先導し、雌餓鬼の姉妹は、続々と旺鉄塊の中に乗り込んでいった。


 ✧

 

 旺鉄塊の中はまるで大きな広場。

 乗り終えた姉妹ははじめ驚き、それから走ったり床を転がったりを始める。

 

『コレハ 倥空コウクウ母艦』

 ナノが念話した。

 

 地殻深くに潜ることができる母なる艦。

 惑星上で可能なレベルの物質攻撃全てに耐え……

 そんなことをナノは続けるも姉妹たちは聞いていない模様。

 

 ナノの口角がひとり上がる。

 旺鉄の床に黑鉄球が現れる。

 

 あれは? とあちこちに散っていた姉妹の視線が黑鉄球へと集まる。

 どうやったかは知らないが、黑鉄球の館までも旺鉄の中に招いたようだ。

 

 ナノが黑鉄球の館の入り口の前に座る。

 

 姉妹たちが集まってきた。

 

『コレヨリ 地に潜ル』

 旺鉄ナノは宣言した。


「そんなこと できるの?」

「できないよ」

「潜ったら暑そう」

 口々に言い合う彼女達の眼下が透けていく。

 

 炎の煉獄の地が迫ってくる。

 姉妹の何人もがこわごわ黑鉄球の中に避難する。

 特に気弱な雌餓鬼は、御尻様にすがるように祈りを捧げる。

 

 めいめいざわつく姉妹たちの前で倥空こうくう母艦は、炎の地の裡に入っていく。


 ✧

 

 えも不思議と、地の裡を皆が視る中、ナノの念話が響く。 


『母艦ハコレヨリ 惑星のコア ヲ 目指ス』


『コアヲ超エルト 煉獄ノ炎ナキ 多界ノ地ニ至ル』


「こんな艦なら、どんな不思議もできてもおかしくないね」

「そうさね」

 雌餓鬼の長老、銀鬼が金鬼に言った。

 周りの雌餓鬼姉妹は神妙な顔をした。

 

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