第2話 旺鉄人形ナノの来訪
ある日、雌餓鬼姉妹が身を寄せる黑鉄球の浮遊の館の下、煉獄の地の炎が弱まった。
何事かと見張りの雌餓鬼は目をこらす。
炎が消えた箇所から、黒赤い土塊が盛り上がりはじめていた。
黒赤土はさらに盛り上がり、鈍色の鉄塊が現れた。
そして鉄塊は上に昇る。
他の姉妹も物見やぐらに立ちはじめた頃。
鉄塊はゆっくりと煉獄の地から離れていく。
やがて、鉄塊は完全に宙に浮かあがった。
黑鉄球の館のすぐ近くにまで、鈍色に輝く鉄塊は至る。
長の金鬼と銀鬼までも含め、皆がそれを見つめていた。
鈍色の鉄塊はなお近づく。
慌てた雌餓鬼の一が、黑鉄球の裡に入り御本尊の御尻様を摩り摩りし、黑鉄球の館を鉄塊から離そうとする。
前衛の雌餓鬼達は多重の陰陽結界を張り、不測の事態に備えた。
その時、鉄塊の一部が小さく膨らんだ。
長細く膨らむと、すぐに鉄塊から離れ近づいてくる。
その鉄紺色の小さな塊は、皆の前で形を変えていく。
やがて小さな少女の鉄人形へと至る。
鉄人形の口が動いた。
『ハジメマシテ メスガキノミンナ』
小さな口で呟いただけなのだが、雌餓鬼姉妹は、皆、耳元でその声を聞いた。
黑鉄球の裡にあり、鉄人形が見えていなかった姉妹は不思議に思い、辺りを見回す。
聞こえたのは話している飛騨の言葉に通じる言葉。
「「はじめまして?」」
姉妹の何体が返事した。
『私ハ ナノ。オウテツのナノ』
再び鉄人形の念話。
「オウテツのナノ」
「ナノ、なの?」
「オウテツ、何?」
……姉妹の口々に、ナノは順々に応えていく。
ナノは、その旺鉄の生命体。
?
旺鉄……改質……初めて聞く言葉。
けれども、そんなナノが鉄人形になり話しているのだから、と姉妹は受け入れていった。
✧
ナノは続けた。
『ミンナを煉獄ノ炎ない地に導きたい』
代わりに求めることは一つ。
やがて襲い来る阿鼻の魔災から、各地を守るために力を貸してほしい、と。
『ソシテ各地ノ男たちト繁殖シ 一族ヲ再興スルガ良シ』
男?はんしょく?さいおう?
雌餓鬼姉妹には、なじみのない言葉が続いた。
✧
「その前にあんたの力を見せてよ」
雌餓鬼隊の前衛が一、ララがナノに言った。
ララは単騎で獄卒どもを相手取ることができる豪の者。
煉獄の炎が渦巻く地へと、ララは降下する。
旺鉄人形のナノがララの後ろに続く。
赤茶の魔木の上のララが立つ。
「そろそろ来るわよ」
ララがナノに向けて言い放った。
事実、二人の周りに赫黒い塊が集まりだした。
獄卒の魔。その数は百を超える。
『ヤッツケルわ』
そんなナノの念話を姉妹が聞いたとたん、獄卒の魔が全て爆ぜた。
『ハンブッシツ レールガンと イウ奴』
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