メスガッキー大編隊 と 末妹レム子の天鬼族再旺紀 ✧1巻だっちゃ

十夜永ソフィア零

第1話 黑鉄球の裡なる御尻様と飛騨の天鬼の末裔

 とある第三惑星の飛騨の里に棲まいし天鬼属。

 陰陽術と体術の双方に秀でており他属を寄せつけない。

 その勇名は人属にも広く知られていた。


 が、各国の船が行き交うようになった室町の世、大航海時代の時。

 大天鬼の時の長が、地下からの熱線の不意討ちに倒れた。

 続いて、阿鼻の獄卒の魔が飛騨の里の天鬼達を蹂躙した。


 獄卒の魔から地に遍く煉獄の炎が沸き立つ。

 天鬼達は一体、また、一体との前に煉獄の炎に呑まれていった。

 阿鼻の魔災の果て、地に残された者はすべて獄炎に消えた。他の人属・亜人属は死に絶えた。


 ただ、空に逃れた天鬼のうち何体かは、宙に浮かぶ黑鉄球に隠れ、獄炎から逃れることができた。


 黑鉄球の裡にて生き残った天鬼達。

 

 裡は黑く光っていた。

 ただ一つ、肌白く輝く双山ふたやまを除いては。

 

 ✧

 

 験氣けんきの陰陽にて外を探っていた、天鬼が気づいた。

 宙に在る黑鉄球が地に近づいている、と。

 やがて験氣けんき持ちは皆、地が迫ることに気づく。

 

 迫りくる獄炎。

 どうしたものか、と惑う天鬼達。

 そのうち、肌白く輝く双山を拝むものが現れた。

 確かに神頼みしかないか、と他の天鬼も輝く双山を拝む。

 

 獄炎が黑鉄球を飲み込んだ。

 まとわりつく獄炎の様を験氣けんきで見、我らも遂に焦げ果てるのかと覚悟した。

 

 ✧

 

 天鬼達が獄炎に呑まれることはなかった。

 黑鉄球は獄炎に耐え、裡に暑熱を伝えることはなかったのだ。

 

 ある天鬼がおずおずと輝く双山ふたやまへと手を伸ばす。

 感謝の念を込め、双山を撫で擦る。



 えも不思議。黑鉄球は再び浮かび上がった。

 

 黑鉄球は、人のお尻に見える双山を撫でることで操ることができるらしい。


 時が過ぎ。

 獄炎は勢いを弱めたが、怪しげな獄卒の魔が地を徘徊するようになった。

 

 天鬼達は輝く双山ふたやまを撫でさすることで、黑鉄球を自在に扱えるようになっていった。

 そして、焼け焦げた地にわずかに残る有機物を、変成の陰陽により「食しうるもの」に変え、痩せ細りながらも彼らは生き延びた。


 やがて、彼らは、黑鉄球を神の如く思うようになっていった。


 彼らが唱える変成の陰陽の効果は、黑鉄球の裡と外とで明らかに異なっていた。

 焼け焦げた炭と変色した硫黄を混ぜ、獄炎揺らめく地で変成の陰陽をかけても食しうるものとはならない。が、それらを黑鉄球の裡へと持ち返り、変成の陰陽をかけるとしばしば「食しうるもの」となる。


 まさに奇跡。

 

 奇跡と言えば、獄炎なお揺らめく地に素足で立てることもそうだ。

 着ている服は焦げ破れつつあるというのに。

 彼らの身体はだんだんと褐色を帯びていた。

 まるで黑鉄球の瘴気か何かを帯びたかのように。

 

 その褐色を、彼らは黑鉄球の神気の加護やもと捉えた。

 そして、黑鉄球の神気の源は、御尻の双山ふたやまなりとも思った。

 何しろ黑鉄球は実のところ御尻の反対側の御前から濛々もうもうと生えた陰毛なのだから。


 褐色の彼らの目に入るのは、赤黒き大地と昏き碧の海、それに黑鉄球。

 ただ御尻の双山のみが肌白く輝き続けていた。


 彼らは、御尻の双山を御尻様と呼び、拝み撫でさするようになった。


 こうして、彼らは御尻様の一神教徒となった。


 ✧

 

 さらに時が流れた。


 御尻様は、天鬼達の陰陽にさらなる恵みをもたらした。


 その一が、獄卒の炎からの火傷に苦しむ者を救った濃肌のうきの陰陽。

 黑鉄球の裡でのみ行使ができる濃肌のうきの陰陽は、魔災にただれた肌を幾度も幾度も癒やした。

 

 後に、濃肌のうきの陰陽は矮化の陰陽でもあることが判明。

 天鬼属の者たちの身体は小さくなり餓利餓利と痩せ、雄の男性器は縮小していった。やがて天鬼属の者たちは交配不能となった。

 

 年老いて数を減らした天鬼属の窮地を救ったのが、最後の二体の子、金鬼と銀鬼に宿った接合の陰陽。

 この陰陽により、黑鉄球の裡では金鬼の卵子と銀鬼の卵子は接合し子を為すことができるのだ。

 

 年老いた者たちが天に召される中、族長となった金鬼と銀鬼は互いに雌の子を生み続けた。

 かくして、阿鼻の魔災から数百年を経た時には、地には御尻様を奉じ黑鉄球の神気を宿した千数百名余の雌餓鬼の姉妹がなお生き延びていた。

 獄卒の魔がうごめく地にて、彼女達は、残る有機物「食しうるもの」を喰らい逞しく生き続けていた。

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