第268話 大いなる意思7

「一気に奪うって言っても、具体的にどうする?」


 大いなる意思から一気に魔法を奪えればそれに越したことはないのは確かだが、それが簡単にできれば苦労はしていない。


『さっきも言いました。龍の力を借りましょう』

「どうやって?」

『あなたの『簒奪』は相手からなにかを奪う際に魔力が必要です。なので、ウロボロスから魔力を分けてもらうのがいいでしょう』

「まぁ、いいだろう」


 ウロボロスの方へと視線を向けると、すぐにこちらへと近寄ってきた。


『ウロボロスは魔力を循環させ、無限に極めて等しい魔力を持っています。彼なら魔力切れはないです』

「マジ? 羨ましいな」

「あくまで無限に近いだけだ。無限な訳じゃない」


 それでも、幾らでも魔法が使えるって充分凄いことだろ。


『リヴァイアサンとヒュドラは好きに動いて貰って構いません。なにより、貴方達に役割を与えてこなせると思ってませんから』

「なにぃッ!?」

「我々が馬鹿かなような言い方はやめろ!」

「……事実だろう」


 バハムート、辛辣。


『バハムートには魔力の操作をお願いしたいのです』

「簒奪の範囲を広げればいいのだろう? なら、容易いことだな」


 それだけ言ってバハムートは俺の影に潜り込んだ。


『準備は完了です。私も範囲を広げるのを手伝いますから、後は貴方がウロボロスの魔力で思い切り奪ってください』

「簡単でいいな」


 俺がすることが見える糸をとにかく引っ張るだけ。それなら仕事が楽でいい。

 リヴァイアサンとヒュドラはすぐさま大いなる意思への攻撃を始め、ウロボロスは俺の周りを取り囲むようにぐるぐると回りながら留まっている。しばらくすると、自分の身体がパンクするのではないかと思うほどの魔力が流れ込んできたので、意識をしっかりと保って『簒奪』を発動させる。


「影とは人が生み出すもう一人の自分自身だ。身体を勝手に動かすぞ」

「お、おぉ!?」


 俺の影に入り込んでいたバハムートが、俺の身体を勝手に使って『簒奪』の範囲を広げていく。頭が痛くなりそうなほどの情報量が流れ込んでくるが、世界樹、シアン、イーリスがなんとか処理してくれている。

 どうやら『簒奪』で思うように一度に多くの魔法を奪えなかった理由は、脳の処理速度の問題らしい。精霊として契約している3人に協力してもらって、なんとか処理速度を上げた状態でバハムートに『簒奪』を強制的に広げてもらうと、視界内に大いなる意思から伸びる大量の糸が見えた。


「いくぞウロボロス!」

「……私を絞りつくすなよ?」

「それは大いなる意思に言え!」


 視界内を埋め尽くすかのように浮いている糸を、とにかく掴む。ウロボロスの魔力で引っ張っているからなのか、抵抗感も薄くどんどんと奪えていく。


「やめろっ!」

「させると思うか!」

「ガァッ!」


 俺の『簒奪』による魔法を奪う速度が尋常ではないと悟った大いなる意思が、すぐさまこちらを妨害しようと動いてきたが、リヴァイアサンに進行を邪魔されてヒュドラのビームを受けていた。世界樹の言う通り、あの2体には無駄な指示はいらないだろうな。


「ぐぅっ!?」

「堪えろ、全てを奪うまでな」

「わかってる、けど!」


 頭が割れるかと思うほど痛い。

 そりゃあ、当然なのかもしれないけども。なにせ、俺が奪っている魔法は、この世界の人類が今まで被り無しで持っていた魔法たちなんだから、俺は人類の魔法全てを使えるようになろうとしているのも同然な訳だ。


「わ、私が再び手にした力が……消えていく……やめろぉ!」

「悪い、けど……この世界にお前はいらない。だから、俺が全部持って行ってやる!」

「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!」


 膨大過ぎて幾つ奪ったのかわからないが、視界に映る糸の殆どを千切ると同時に『簒奪』で触れていない魔法までこちらに流れ込んでくるようになった。留まることを知らずに、どんどんと大いなる意思から溢れてくる魔法が、全て自分の内側に入ってくる。


『大いなる意思と貴方の力関係が完全に反転したのです。大いなる意思に、自らの力が流出することを止める手段はもう、ありません』

「ふざ、けるな……貴様のような、奴に……異界の異端者などに!」

「お前も異端者だろう。俺と同じだ……だから、この異端の力は俺が持っていく」

「くそぉぉぉぉぉ!? また私は貴様に敗れると言うのか!? 卑しき簒奪者如きに崇高なるこのわたしがぁ……」


 流れてくる魔法が止まった瞬間に、大いなる意思の身体が崩れ去った。

 魔法が流れ込んでこなくなったのではなく、大いなる意思には既に魔法が残っていなかったんだ。ボロボロに崩れる身体を抱えながら、大いなる意思は俺に言葉を吐き続けていたが、力を奪われた者が今更なにを言っても遅い。

 名前も、力も奪われた神は、存在することはできない。


 これでようやく、大いなる意思との戦いが終わったんだ。

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