第267話 大いなる意思6

 戦いが始まって、どれくらいの時間が経過したのだろうか。

 ここは風景も変わらないし、周囲は暗闇だらけで時間感覚なんて自分の中にしかない。


『戦闘開始から1時間と24分です』

「そういう雰囲気ぶち壊すようなこと言わなくていいから」


 お前はスマホのサポートAIか。

 ちょっと疲れたからモノローグみたいに思考を飛ばしてただけなのに、世界樹によってすぐに現実に引き戻されてきた。

 現在、俺が大いなる意思から奪った魔法の数は500を超えたぐらい。これでも1%に全く届いていない、と思うぐらいに膨大な魔法を持っている大いなる意思から、存在を超えるほど大量の魔法を奪うことは可能なのか。


「ぐっ!?」

「貰い!」


 戦闘中に一つ、気が付いたことがある。俺の『簒奪』は相手から伸びる糸のようなものを引っ張ることで奪い取っている感覚だったんだが、相手の身体に直接触れていると糸の抵抗が弱まった気がした。

 既に500以上の魔法を奪っているので、勝手な錯覚かもしれないけど、俺は自分の感覚を信じて上位龍種と協力……協力はあんまりしてないな。あいつらの攻撃を勝手に利用しながら大いなる意思から魔法を奪っていた。


「ん? なにを奪ったんだ?」

『自身の五感を研ぎ澄ます魔法のようですが、発動から3秒間だけのようです』

「なんで奪った魔法までわかるんだよ」

『貴方の中にいますから』

『え? 私、わかんないわよ?』


 シアンは黙っててくれ、馬鹿なんだから。

 そして、多分世界樹しかできないことだと思うから、張り合おうとするな。

 自身の五感を研ぎ澄ませる魔法と言っても、3秒間だけでは全く使いもにならないので記憶の彼方へと放り投げる。さっきからこれの繰り返しだ。使えそうなら利用して、使え無さそうなら放置する。


「返せ……私の力を!」

「やなこった」


 大いなる意思から幻影の巨大な腕のようなものが飛んできたが、あれも魔法だろうな。大いなる意思から奪った魔法で自分を透過して腕をすり抜けさせ、魔力の鞭で腕を絡めとってから、引力で引き寄せる。


「くだらん奇襲だ」

「くそっ!?」

「がら空きだなッ!」

「ふん!」


 引き寄せた大いなる意思を鎖で雁字搦めにして、頭に触れて更に魔法を奪っていると、さっき透過させて避けた腕が飛んできたがバハムートが防御してくれた。焦ったような顔を見せる大いなる意思に対して、俺は静かに離れた

 だって、ヒュドラとウロボロスが口を開いてるのが見えたから。

 ビームと魔力弾を受けても、大いなる意思は真っ逆さまに落ちていくだけ。あんなの、人間が受けたら命が幾つあっても足りないと思うんだけど、やっぱり俺を通して世界と繋がっているから不死身っぽい。


「お、のれ……」

「あ、その魔法はもう奪った」


 再び幻影の腕を動かそうとしたみたいだけど、既にその魔法はさっきの接触時に奪った。その証明の為に、わざわざ幻影の腕で大いなる意思を殴り飛ばしてやった。

 これだけボコボコにしておいて、全く勝敗が付かないんだから面倒くさいったらない。リヴァイアサンが追撃をかけているが、やはり大いなる意思はしぶとく飛んで来るし、上位龍種たちも辟易とし始めている。


『一気に奪いましょう』

「さっきやったけど、100個ぐらいが限界だったぞ?」

『龍がいます』

「…………だってさ」

「確かに、そろそろ終わらせんと長引き過ぎるか」

「埒が明かん、とも言うな!」


 まぁ、確かに5対1なこともあって、ずっと戦況は有利ではあるが大いなる意思に敗北の兆しが未だ見えない。このままじりじりと続けていても、最初に息切れをするのは俺になる。そうなれば、この戦いに勝ちはないだろう。


「まぁ、最終的にどうしても勝てないってことになったら俺を殺せばいい」

「それが最適解だな」

「我は反対するぞ!」

「……中立を貫かせてもらうぞ」

「うーむ、人の子一人の犠牲で済むのならば……だが最終手段だな」

『させませんよ?』


 バハムートは最適解であると即答。俺もそう思う。

 リヴァイアサンは盟友として反対してくれているし、ウロボロスは実質ノーコメント。ヒュドラは人間一人の命で済ませられるのならば楽だが、犠牲は出ないに越したことはないという姿勢。世界樹はリヴァイアサンと共に反対の立場、と。


 まぁ、多数決で最後まで言うと反対2、賛成1、最終手段なら賛成2、無効票1ってところか。因みに最終手段なら賛成に俺は含まれている。

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