第269話 これで終止符です【終】
「……やべぇ」
『大丈夫ですか?』
「吐き気がする」
魔法を奪い過ぎて頭が痛くなってきた。ぐわんぐわんと頭が揺れているような感覚で、吐き気も出てきている。完全に脳のキャパシティが追い付いていない気がするんだけども、大丈夫なんだろうか。
『……これでどうですか?』
「え、すっきり」
世界樹がぶつぶつと呪文のようなものを唱えたら、何故か俺の気分が良くなった。理由は不明。
『貴方の処理能力を私が負担している状態です』
世界中の魂を管理していた世界樹なら、これだけの魔法があっても処理落ちしないのは当然かもしれない。いや、助かった。
『ですが、こうなると契約を解除する訳にはいきませんね』
「……確かに!?」
『ちょっと! 話しが違うじゃない!』
「ご、ごめんって」
大いなる意思を倒したらてっきり世界樹とはおさらば、上位龍種たちとももう関わることがないと思ってたのに。
「大いなる意思を倒しただけで、我が盟友ライトを認めたことは変わらん。よって、我はライトの味方だ!」
「……人間の寿命などたかが知れている。一生ぐらい盟約を結んだところでなんの損にもならん」
「面倒だからこのままでいい」
「面白そうじゃね?」
上位龍種ときたら、こんな思考回路をしてやがる。
もしかしたら、俺は大いなる意思を倒す代償としてこの面倒な連中と生きていく必要があるのか? いや、上位龍種は召喚しなければなにもしないんだから、それでいいか。
「取り敢えず、戦いは終わったんだから帰ろう」
『そうですね。今後のことは、後で考えればいいと思います』
行き当たりばったりで行動はしたくないけど、流石に今回のことはかなり規模ができないので行き当たりばったりでも仕方ないと思う。
ウロボロスが次元に穴を空けようとしてくれていたが、俺はそれを制止して大いなる意思から奪った大量の魔法を検索感覚で絞り込んでいって、最適な魔法を発見する。
「『開門』!」
魔法を発動させると目の前に超絶巨大な扉が生み出されて、それが自動でゆっくりと開いて行くと、その先にはリリィたちの姿と世界樹の本体が見えた。
大いなる意思から奪った魔法は正常に機能していそうだ。まぁ、固有魔法の名前は俺が即席で勝手につけたんだけどね。多分、別々の色々な名前が大いなる意思の中にはあったんだろうけど、今更それを知る機会はないので俺が勝手に名付けさせてもらう。
「ライトっ!」
門を通り抜けて世界の裏側から帰還したら、真っ先にリリィに抱き着かれてしまった。普段から結構ポーカーフェイスを心掛けてリリィが、泣きそうな顔で抱き着いてくるのはそれだけ心配させてしまったのだろうか。アリスとミミーナは、リリィが抱き着いたのを見て苦笑いで、エドワードは微笑みながら頭を下げ、オリヴィアは何故かドヤ顔だった。なんで君がドヤ顔してるのか、理解できない。
「終わったの?」
「まぁ……全部ね」
大いなる意思を世界から切除したも同然だ。力と名前を完全に奪われ、存在を確立できなくなって大いなる意思は消えた。恐らくだが、もう二度と復活することはないだろう。奪った魔法も、俺の中に完全に定着してしまっている。それこそ、奪いでもしない限りは、俺の魔法は消えないだろう。
「ようやく終わったのね」
「ライトさんなら必ず成し遂げると、思っていましたよ」
「騎士だから?」
「信じているからです」
オリヴィアとエドワードは、ウィストリア神聖王国のことを考えているのだろう。長い時間、あの国は大いなる意思によって好き勝手に歪められてきたから。だからこそ、あんな冗談を言っているんだと思う。
「固有魔法の研究がこんなことになるとは思わなかったわ」
「俺も、そうだよ」
「で、でも……もう終わっちゃったんですよね?」
「さぁ? 研究なんてのは、幾らでもできるわよ」
アリスの言う通り、まさか固有魔法の原点を探していただけで神様と戦うことになるとは思わなかった。でも、結果的に世界にもいい影響を与えられたのかもしれない。
『固有魔法……大いなる意思が生命へとばら撒いていた力の残滓は、全て消えました』
「ん? つまり?」
『人類は、固有魔法を使えなくなっているはずです』
「…………本当だ」
世界樹の言葉を証明するように、アリスは体内の魔力を動かして『翼』を生み出そうとしているが、形になることがない。魔法陣を丁寧に練り上げても効果が現れていないようだ。
試しに俺も頭の中に『翼』の構築式を思い浮かべようとしたら、既に背中から白い翼が生えていた。
「……なんで?」
『力の残滓は消えた、と言ったはずです。力の大本を全て奪ったのですから当然です』
「あー……」
それ、つまり俺だけが世界で固有魔法を使えるようになったと。真の意味で俺、固有の魔法ってか?
「俺だけか」
なんとなく、また自分が異端者である証拠を突き付けられたみたいな感じがして嫌だな。
持っている固有魔法の使い勝手で生き方が決まり、その先の人生が良いものになるのか悪いものになるのかが決まっていたのは事実だ。しかし、世界から固有魔法が消えたことをどう思うべきなのか、俺にはわからなかった。
「気にする必要はないと思います。人がある意味で、平等になった訳ですから」
「俺は?」
「貴方は、貴方でしょう?」
リリィにそう言われて、なんとなく苦笑が出てしまった。
これから先の世界がどうなっていくのかはわからないが、固有魔法を失ったことできっと生活は大きく変わることだろう。もしかしたら、帝政そのものが揺らぐかもしれない。
それでも、世界を意のままに操ろうとしていた大いなる意思が消えたことは、きっといい方向に繋がっていくはずだ。
「難しいことは今度考えればいいんです。帰りましょう? 私たちの国へ」
「…………そうだな」
多分だけど、俺がどれだけ願っても元の世界に戻ることはない。たとえ異端者であろうとも、俺はこの世界で生きていかなければいけないんだ。
だが、不思議と不安はそこまで強くない。
それはきっと、大切な人がいるから、なのかもしれない。
【あとがき擬き】
一応、これにて完結となります。
明日には、その後の話を幾つか投稿する予定があります。
ちゃんとしたあとがきは、作者の近況報告にでも書いておきます。
初めての長編でしたが、誤字脱字の指摘など多くのコメントや応援、ありがとうございました。
また同時並行で投稿している「魔王様は怠惰に過ごしたい」の他にも、小説を投稿する予定はかなりあるので、そちらも読んでくださると嬉しいです。
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