第263話 大いなる意思2

 真の力を見せてやると言われたが、そもそも吹き荒れるような魔力の量に目が開けていられない。辛うじて開けた隙間から見えたのは、闇で作り出された複数のバハムートが分身した大いなる意思を全て殺していることぐらい。


「な、なんでもありかよ」


 大いなる意思もバハムートも気軽に増えすぎだと思う。

 空に手を向けていた大いなる意思の本体が、見上げたまま忌々しそうな顔をしているのを見て、つられて上を見上げると落ちてきていた星が綺麗に四等分にされていた。リヴァイアサンが口から吐いた水流が、そのまま隕石を切ったらしい。


「こんな頂上バトルに俺が参加していいのか?」

『貴方の簒奪の力が必要です』

「簒奪ね……何を奪えばいい?」

『大いなる意思の、全てです』

「了解!」

「援護はしてやる」


 世界樹に言われるまま『翼』を生やして大いなる意思へと接近する。宙を飛ぶこちらを迎撃しようと複数の固有魔法を展開した大いなる意思に対して、こちらを援護するように並走していたウロボロスが口から黒い魔力弾を吐いていた。


『ウロボロスが司る力は無限。吐き出される魔力弾には無限の質量が存在します』

「つまり?」

『触れると死にます』

「なんてもん吐いてんだよ」


 魔力弾を避けるように動きながら、大いなる意思はこちらに向かってビームを放ってきたが、横から飛び出してきたヒュドラがビームを喰った。


「不味い!」

「知らん!」


 最初から味の感想なんて聞いてもない。俺は、大いなる意思の周辺に伸びる大量の糸が気になって仕方がないのだ。ビームを放った瞬間に色が付いた糸を、なんとか掴んで引っ張る。と言っても、あくまで感覚の話であって実際に糸が存在する訳ではない。


「貰った!」

「……なんだ? これは?」


 ヒュドラに向かってビームを放ち続けている大いなる意思から糸を引っ張ると、少しずつ大いなる意思の手から放たれていたビームが収束していき、完全に消え去った。代わりに、俺の内側から溢れるような力が増えた。


「はぁっ!」


 知らないはずの魔法陣を目の前に展開して、そこからさきほどまで大いなる意思が放っていたビームを放つ。大いなる意思がそれに対抗するために掌を向けてくるが、そこから魔法が放たれることはない。


「まさか……奪ったのかっ!?」

「悪いな」


 俺は、大いなる意思から一つの魔法を『簒奪』した。少量の魔力で高出力の熱線を放ち、相手を攻撃する魔法を。ビームなんて名前はなんとなく嫌なので『光線』とでも名付けようか。

 愕然とした表情のまま『光線』が直撃した大いなる意思は、瓦礫まで吹き飛ばされてから一秒も経たずに煙を振り払いながら飛び出してきた。さっきまでの無表情とは違い、その顔には憎悪が刻まれていた。


「そうか……やはり奴が力を貸しているな! 私の力と名前を奪い去り、世界から追放した奴が!」

「奴ってのが誰かは知らないけど、この力を俺にくれた邪神のことを言ってるなら、そうだな」

「この世界にまで私を邪魔しに来るか!」


 激昂した大いなる意思は、周囲の空間全てを覆うほど大量の魔法陣を展開した。『千里眼』で見てみると、それは一つ一つ違う魔法のようだ。


「やっと本気になったな!」

「面白そうではないか! 我が先に行くぞ!」

「……落ち着きのない馬鹿共め」

「ライト、お前は大いなる意思の力を削げ」

「わかってるよ!」

『しっかりと協力しなさい』


 それぞれ好き勝手言いながら上位龍種たちが集まってきた。と思ったらリヴァイアサンはいち早く飛び出していき、ヒュドラもその後を追って一気に進んでいく。ウロボロスは呆れながら上に飛びながら魔力弾を放ち、バハムートは最早気にしてすらない。

 チームワークは最悪な気がするが、それぞれの力は圧倒的。欲を言えば世界樹の言う通り協力して欲しいもんだが、そうもいかないらしい。とりあえず、俺は大いなる意思の力を削ぎまくってしまおう。魔法を奪えば奪うほど、相手は弱くなってこっちは強くなっていくのだから、やらない手はない。


 俺は手始めに、こちらに向けられている魔法の一つを奪った。

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