第261話 ようやく対面です

『それでは、参りましょうか』

「あ、あぁ……お前が仕切るのね」


 世界樹と契約し、ヒュドラとも盟約を結んだのでいよいよ大いなる意思との決戦だと思ったら、世界樹が一番気合の入っている様子。ヒュドラはさっきから愉快そうに笑っているし、ウロボロスはいつも通りやる気がなさそう。本当にこんなので大いなる意思とやらに勝てるのだろうか。


「さっさと開けるぞ」

「た、頼む」

『……言い忘れていましたが、仲間は連れて行けませんよ?』

「知ってる」

「え?」


 いや、知っているつもりだったが、オリヴィアから呆けたような返答が返ってきた。どう考えても、俺と世界樹にしか因縁がないんだから仕方ないだろ。それに、大いなる意思と結びつきの強い俺ならまだしも、世界の裏側なんて場所に行って無事に済むとも思えない。


「……薄々わかってはいました」

「だろう?」

「アタシはわかってなかった!」

「いや、知らんが」


 リリィもやはりわかってはいたらしい。納得できるかどうかは別なのは表情を見ればわかるけども。


「ついて行けないのならば、せめてこれだけでも」

「アイムールと、ヤグルシか……わかった」


 エドワードはすぐに飲み込んでくれて、自分の剣と盾を預けてくれた。確かに、アイムールとヤグルシは強力なので、必ず俺の命を救ってくれるはずだ。


「お気をつけて」

「あぁ……エドワードも、皆を頼む」

「はい。私はライトさんの騎士ですから」


 エドワードなら皆を守ってくれるはずだ。ミミーナとアリスもリリィと同じ様になにか言いたげな顔をしているが、とりあえずは飲み込んでくれたらしい。帰ってきたらどんなこと言われるかわからないけど。


「オリヴィア、行ってくるよ」

「……バーカっ! さっさと帰ってこないと許さないから!」

「わかってる」

「さっさと行くぞ」


 別れの挨拶みたいになってしまったが、ウロボロスに催促されてしまった。

 今生の別れにするつもりはないが、無事に帰ってこられる保証はないのでもう少し言葉を交わすぐらいさせて欲しいものである。


「後でいくらでも話せばいい。大いなる意思を打倒したあとにな」

「……じゃあ、そういう願掛けってことで、行ってくるよ」


 挨拶しないことが願掛け、なんて言い訳みたいだけど嫌いじゃない。


 ウロボロスがおもむろに口を開けて、見えない波動のようなものを放ったと思ったらなにもない空間がガラスのように砕けて、暗い上下が反転した世界が見えた。あれが、世界樹の言っていた世界の裏側なんだろう。


『重力も安定しないほどの場所です。気を付けてください』

「わかった」


 背後に向かって手だけ振って、破られた空間を通り抜けた瞬間に、身体が上方向へとすごい力で持っていかれそうになる。


「こ、これ重力が不安定とか以前に、上下が逆だろっ!?」

『だから、そう言いました』

「言ってない!」


 見た目からして上下反転してるのかなと思ったら、重力が安定していない場所って言われたので、てっきり周囲の物も重力に揺られているのだと思ったら普通に反転してた。なんとか空中で身体を捻って上にあった地面に降り立つと、普通の感覚に戻った。


「……確かに、重力も安定してないな」


 よくよく見れば、バラバラになった地面が空中を浮遊しながら左右に回転していたり、上下に移動したりと好き勝手に移動している。俺が立っている場所は、比較的安定した場所だと言える。


「うーむ……大いなる意思はどこだ?」

「この次元のどこかには潜んでいる」


 九つの頭を起用に動かしながら浮遊している足場を移動するヒュドラと、周囲の重力などなんの関係もなさそうに自由自在に飛ぶウロボロスは、既に大いなる意思を探していた。


「俺には、そもそも暗くてよく見えないんだが」

『気を付けてください、あと三歩先は海ですよ』

「なんでだよ」


 手を『発光』させると、確かに重力と拮抗するように水の球体が浮かび上がっていた。まぁ、球体と言うには少し大きすぎる気もするが。


「……本当に、こんな所までやってくるとはな」


 水球を興味本位でつついていたら、背後から静かに語り掛ける声が聞こえてきた。少年のようで青年のような、そして少女のようで老婆のような声。全てが重なったような不快な声は、俺の背後に立っていた白服の人型から発せられていた。


「これが、大いなる意思か?」

『そのようですね』

「ふむ、確かに強力な魔力を感じるぞ」

「喰い甲斐のありそうな強い魔力だ!」

「世界樹と、トカゲ共か……神に逆らうとは、愚かな連中だ」


 白服の人型を取っている大いなる意思は、嘲笑するようにウロボロスとヒュドラを眺めていた。


「この世界の神として君臨する者として、お前たちに裁きを下してやる」

「勝手にやってきて神様名乗ってんじゃねぇよ! 俺もお前も、異端者だろうが」

「クズが」


 ようやくご対面した大いなる意思は、想像以上に柄が悪そうだった。

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