第260話 契約です

「世界樹の元までやってきたということは、リヴァイアサン、バハムート、ウロボロスにはあってきたんだろう?」

「あ、あぁ……」

「なら、我で最後だな! なぁに心配することはない。我の力があれば大いなる意思など瞬殺よ!」


 自信ありげに笑っているヒュドラだが、確かにとんでもない力を持っていることは間違いない。なにせ、俺たちがどれだけやっても倒せなかったニズベルグをあっさり噛み砕いてしまったのだから。


「どうやって、ニズベルグを?」

『ヒュドラには魔力を喰う性質があります。ニズベルグ自身に魔力がなくても、それを動かす大いなる意思には魔力があります』

「……つまり、大いなる意思の操っていた魔力を喰った、と?」

「そうだ。中々美味いぞ? お前も今度喰ってみるか?」

「遠慮しておくよ。腹を壊しそうだ」


 魔力を喰うとかいう意味のわからないことを言われても、マジで全く理解できない。アイムールの魔力を吸収する能力とはまた違う原理なんだろうが、ヒュドラ自身が馬鹿過ぎて聞く気にもならない。


「それで、上位龍種はそろった訳だが……大いなる意思はどこにいる?」

『世界の裏側に、根を張るようにして定着しています』

「裏側? どうやって行けばいい?」


 そもそも、この世界の大地だって平面じゃないのに裏側とはどういう意味なのか。言葉を解釈するのならば、異次元に近い場所のような気がするが。


『世界の裏側はその名の通り、この世界の裏に位置する場所です。裏と表がなければ世界は安定せず、崩壊してしまいます。故に世界には裏側が存在するのですが……そこに大いなる意思が入り込んでしまっています』

「だから、どうやって行けば? 鏡の世界みたいなもんだろ?」

『次元を裂いて移動する手段を、貴方は持っているはずです』


 そう言われて、自分の首にチェーンでかかっている魔剣サタンを見る。確かに、俺は既に次元の壁を裂いて別の世界にいったことがあると、言えるかもしれないな。


『サタンだけでは不可能です。ウロボロスの力を借りなければ、できないでしょう』

「なるほど」


 そのための魔剣サタンという訳か。

 首飾りにしてあった鞘からサタンを抜き、虚空へと向かって振るう。しばらくすると、次元の壁がゆっくりと横に裂けていき、中から龍の瞳がこちらを見つめるように浮かび上がり、そのまま壁を破るように頭から飛び出してきた。


「もう出番か?」

「もうって言うな」

「おぉ、陰険ウロボロス! 実に久しいな!」

「……何故、こいつがいる?」


 おいおい。仲悪いのか?

 世界樹の方へと視線を向けると、肩を竦めながら首を左右に振られてしまった。世界の危機だとかやってるのに、上位龍種同士での喧嘩はやめてくれよ?


「まぁいい。それで、用件は世界の裏側に行く方法か?」

「どこでそれを?」

「未来で、な」


 相変わらずな奴だな。だが、これで大いなる意思と戦う戦力は揃った訳だ。

 本当はもっと時間をかけて準備してから倒したかったんだけども、どうやら相手は既に世界樹に傷をつけられるぐらいには強大になっているらしい。一刻の猶予も、ないだろう。


「すぐにでも大いなる意思を倒す。色々と情報をありがとう」

『なにを言っているのですか? 私も行きますよ』

「え?」


 いや、世界樹が一緒についていくるのは不可能だろ。どうやっても世界の裏側に来ちゃだめだと思うんだが。


『この精霊の姿だけでも貴方と共に行かせます。なので、私とも精霊としての契約を』

『ちょっと! また同居人が増えるの!?』

『べ、別に同居人が増えるのはいいんじゃないですか?』

『ライトのイケメン魔力が三等分にされちゃうじゃない!』

「シアン、頭の中でキンキンと喚くな」


 姿も見せずに身体の内側から騒がれると、非常に頭が痛くなる。

 大体、イケメン魔力ってなんだよ。大いなる意思を倒したら世界樹との契約は切るんだから少しぐらい我慢して欲しいものだ。

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