第259話 ようやく出てきました

『そのままの意味です。ライト・リースターは本来、大いなる意思の傀儡として生まれるはずでした』

「なんのために」

『リードラシュ王国を乗っ取り、ローズ帝国を打倒する為に』


 世界樹の言葉にエドワードとオリヴィアは唖然とした表情のまま固まり、リリィは露骨に顔を顰めていた。アリスとミミーナもなにがなんだかわからない、といった困惑の表情をこちらに向けてきているが、俺はそこまででもない。

 俺は身体に眠っている邪神の権能とやらと、以前から大いなる意思に対して本能的な嫌悪感を持っていたから、世界樹の言葉に納得できた。


『しかし、その企みは失敗したのです』

「さっき言ってた、別の世界から来た魂が、身体に乗り移ったからね?」

『その通りです』


 アリスは困惑しながらも結論をしっかりと出していた。ライト・リースターが元々大いなる意思の傀儡であったのに、別の魂が他所からやってきてその身体に乗り移った。元々あった魂を、追い出して。


「なんで俺はこの身体に入り込んだ?」

『貴方の身体の内にある力は、他世界の邪神の権能であると言いました。その邪神は、丁度大いなる意思が傀儡の為に作り出した身体に入れてやろうとでも思ったのでしょう』

「つまり、愉快犯の嫌がらせか」

『神とは往々にしてそういう存在です』


 そうだろうな。それはこの世界における神のようなポジションにいる上位龍種と話せばすぐにわかる。


『邪神の権能は強力でしたが、それと同じぐらいに大いなる意思の力も強大でした。権能として与えられたはずの力は大いなる意思の力と反発し合い、中途半端なものとなった』

「それが俺の『模倣』か」

『そうです。ですが、貴方の魂が成長するごとに身体と魂は癒着していき、段々と大いなる意思の力が弱まっていった。その結果、私が少しつつくだけで邪神の権能が顔を出したのです』


 正直、全部が納得できる話ではなかった。滅茶苦茶振り回された結果、今の俺がいる訳だし、勝手に死んだ人の魂を使って代理戦争ごっこをしている訳だ。世界樹が邪神呼ばわりするのもよくわかる。


「神様がクソで顔を見たらぶん殴りたくなるのは、よーくわかった。次はさっき言いかけていたヒュドラの居場所――」


 俺が言葉を言い切る前に、背後に転がっていたニズベルグの骨が再び動き出した。すぐに邪神の権能を頭の中で発動させるイメージを先行させながら振り向くと、糸のようなものが複雑に絡み合って再びニズベルグの骨を繋ぎ合わせようとしているのが見える。恐らく、あの糸のようなものが大いなる意思の力。


「仕方ない。もう一回黙ってもらうしか」

「グハハハハハハッ! 我、遅れて参上!」


 ニズベルグが再び空を飛ぼうと翼を広げた瞬間に、地中から勢いよく九つの頭が姿を現し、ニズベルグの身体を粉々に噛み砕いてしまった。流石にあそこまで粉々にされてしまえば、もう動かすこともできないだろう。だが、破壊の概念がないはずの骨を砕ける存在に、警戒が先行してしまう。


『……遅いですよ。なにをしていたのですか、ヒュドラ』

「うーむ、世界樹は相変わらず人を焦らせる奴だな」


 声が九つ重なって聞こえる。どうやら、ヒュドラの意思は一つで統一されていて、単純に頭が九つあるらしい。

 世界樹の言葉にぶつぶつと文句を言いながら、ヒュドラは地中から這い出てきて、18個の目で俺たちをゆっくりと観察していた。


「お前が異世界の魂を持つ簒奪者か。確かに悪そうな顔をしているな」

「……お前の顔の方が悪そうだと思うけどな」

「なにぃ? 俺のカッコよさがわからんとは、やはりガキだな」


 腹立つなこの蛇野郎。

 絶対ヒュドラの方が人相悪いだろ。顔も9個あるし、牙だってギラギラさせてるし目立って吊り上がってるし。

 同意を視線だけで求めて背後を振り返ると、リリィ以外の全員から視線を逸らされ、肝心のリリィには呆れたような冷たい視線を向けられてしまった。

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