第142話 闇の外2

 商店街を破壊しながら走るスカイドラゴンは、先頭を走るキーニーの顔を識別した瞬間に、口を大きく開けて『氷槍』を放った。さっきまでのように、周囲に『氷槍』を展開するのではなく、口から直接魔力を流し込んで数を1本に絞る代わりに、威力を大幅に上昇させている。

 自分が狙われていることに気が付いているキーニーは、スケールから借りているレイピアでは受けきれないことを察して、魔力を『浸食』ではなく身体強化へと優先して回避に徹しようとしていた。そんなキーニーの思考を読み切っているのか、スカイドラゴンは、口以外の場所からも『氷槍』を展開し始めた。


「面倒くさいわねぇっ!」

「私が叩き落すよ」

「頼むわよ!」


 キーニーのすぐ傍まで走っていたスイッチが、生命力を開放しながら追い抜いていき、放たれた小さな『氷槍』を体術で破壊していく。一撃で人体など簡単に貫通する程度の威力は持っているはずだが、魔力による身体強化と生命力による強化の恩恵によって、スイッチは素手で龍種の魔法を砕いていた。

 キーニーの『浸食』を本能的に警戒しているからこその攻撃だったが、スイッチの魔法もスカイドラゴンにとっては充分な脅威になり得る。そう判断したスカイドラゴンは、凍結して動かなくなっていた左翼を無理やり動かして、低空だが飛行し始めた。


「はぁっ!? ふざけんじゃないわよっ!」


 触れないと発動することができないキーニーの『浸食』とスイッチの『生命吸収』への対策としては、スカイドラゴンの飛行は満点と言えるだろう。どれだけ強力な魔法だろうと、発動されなければ問題はない。しかも、スカイドラゴンの『氷槍』は飛行しながらだろうと問題なく発動できる。スカイドラゴンにとっては敗北などあり得ないと確信できる程、圧倒的な有利な状況だ。

 だからこそ、スカイドラゴンは隙を突かれる。一番の隙は、自分が勝ったと確信した時に生まれるものだ。


「悪いねっ!」


 低空で飛行していたスカイドラゴンの視界に、突然スケールが映り込んだ。彼の手には、龍種の鱗を破壊できるとは言えない程度の武器が握られていた。スカイドラゴンの視界には、キーニーとスイッチしか見えていないと考えたスケールが、破壊された商店街の武具店から拝借してきた安物の刀剣である。

 安物の刀剣では、当然ながら鋼よりも硬度が高いと言われる龍種の身体は貫けない。しかし、それは鱗で覆われている身体に限った話である。龍種であろうとも、眼球は無防備な急所だ。


「ギュオォォォォォォォ!?」

「はぁっ!」


 突然現れたスケールによって片目を潰されたスカイドラゴンは、左翼を凍結させられていた影響もあってすぐにバランスを崩した。その隙に、すぐ近くまで寄っていたアガルマが、自らの身体強化にありったけの『強化』を乗せた拳を頭の上から叩き込む。

 視界を奪われ、バランスを失ったスカイドラゴンは抵抗することもできずに地面に激突して、口から血を吐いて『氷槍』も砕け散る。同時に、キーニーとスイッチが一気に距離を詰めてきた。


「ギュガァ!」

「ふっ!」

「調子に乗るなっ! はぁぁぁぁぁぁ!」


 吸収した生命を解放して、驚異的な身体能力を発揮しているスイッチは、凍結している左翼を強化した手刀で根元から切断した。今度こそ二度と飛ぶことのできない身体になったスカイドラゴンは、大きく身体を逸らせて『氷槍』を発動させようとするが、キーニーが首に向かって突っ込んで『浸食』を纏わせたレイピアを突き刺し、そこから身体の方まで切り裂いていった。

 首から身体まで『浸食』が広がっていき、首の部分から身体が崩れていった。


「はぁ……なんとか、なったわね」

「やっぱり僕のレイピア、無事に返ってこなかった……」


 スカイドラゴンをなんとか沈めたキーニーの手に握られていたレイピアは、半ばからボロボロに崩れていた。生物の身体ほど浸食が早くないとはいえ、刀剣もキーニーの『浸食』には耐えきれる訳ではないので、スケールとしても最初から知っていたことだったが、それなりに大切に使ってきたものだったので、半泣きだった。

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