第141話 闇の外1

「追撃するわよ!」


 スカイドラゴンがライト・リースターの模倣した『氷槍』によって墜落した瞬間に、キーニー、スイッチ、スケールは走り出していた。飛行能力失ったスカイドラゴンの脅威度は、恐らくクリムゾンドラゴンよりも下だろう。誰もがそう思って走り出していたが、4人の中で最後尾にいたアガルマだけは背後にいたライトとリリアナに襲い掛かっている闇に気が付いた。


「殿下っ!?」

「はっ? ライトっ!?」


 アガルマの声に反応して咄嗟に振り向いたキーニーも、2人を覆い隠すように広がる闇を見て反転しようとしたが、次の瞬間にはその場から消えていた。スイッチとスケールも、背後の2人が異常に気が付いたことを察して背後を振り向くと、そこにいたはずのライトとリリアナが消えていることに気が付いた。


「何処に消えたのよ!?」

「わ、わからん……闇に覆われたと思ったら、そのまま消えた」

「……もしかしたら、王妃ミスティーナが追ってきていたのかもしれない」


 闇を操る敵が近くにいたことなど、4人は全く気が付いていなかったが、少し前に自分たちの精神を操っていた王妃の顔が思い浮かんだ。


「ど、どうすんのよ」

「僕は、このままスカイドラゴンを仕留めるべきだと思う」


 動揺して声が震えているキーニーに対して、スケールは毅然とした態度を示した。それは、短い間でも信頼できるだけの関係を築いたライトへの信用から出た言葉であった。帝国の人間として、皇女が攻撃に巻き込まれた事実は心に動揺をもたらすに充分だったが、同時にスケールはライトが共にいるのならばなんとでもなると思っていた。


「……私もその意見を尊重しよう。ライトの実力は信頼できるし、彼ならばリリアナ殿下を守り切ってくれるはずだ」


 スケールの言葉にいち早く同意したのは、このメンバーのリーダー的立ち位置にいるスイッチだった。侯爵から信頼を寄せられているだけあり、スイッチは現場での判断がとても早い。今回は、スケールの言葉を聞いてライトを信頼しての判断だった。スイッチ本人は、ライトのことをそれほど信用している訳ではないが、固有魔法なしで3等級冒険者になったスケールが信頼するライトを信頼した形である。


「……本音を言えば、私は殿下のことが心配で仕方がない。しかし、あれを放置する訳にもいかないだろう」


 アガルマが視線を向けた先には、左翼を使用不能にされた怒りから、無人の商店街を破壊しながらこちらへと向かってくるスカイドラゴンの姿があった。

 キーニーは、何度か視線を行ったり来たりさせながらも、最終的には頭を掻きむしってからスカイドラゴンへと視線を向けた。


「あいつをさっさと片付けて、そこからライトをなんとか助ける方法を考えればいいんでしょう!?」

「リリアナ殿下も助けてあげてね」

「わかってるわよ!」

「……大丈夫なのか?」

「あはは……キーニーはあんな感じだけど、僕が大丈夫だと約束するよ」


 自暴自棄ともとれるようなキーニーの宣言に、アガルマは呆れたような溜息を吐いたが、スケールは彼女のことを全面的に信頼していたので、大丈夫だと語り掛けた。

 スケールは、余計なことを考えなくなったキーニーがどれだけの力を発揮するかを、正確に知っていた。

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