第139話 リードラシュの悪魔5
悪魔から余裕の表情が消えたのが見えるのとほぼ同時に、火球がなにかに衝突して弾けた。空間内を一瞬だけ明るくしてから消えていった破壊の炎によって、周囲の闇が崩れ去っていく。と言っても、空間そのものは無事なようで、俺とリリアナ殿下に襲い掛かろうとして形状が変化していた闇だけが破壊されていた。
「どうやら、本当に無敵に近いみたいですね」
「全く……こんなのをどう倒せと」
この悪魔を封印したと言われるリードラシュ建国の初代王は本当に凄まじい英雄だったんだろう。クリムゾンドラゴンの『破壊の炎』を真正面から受けても、平然と立っているような化け物を、数百年以上も封印し続けていたんだからな。
「この、クソカスがぁ……ボクにトカゲの炎なんかぶつけやがってッ!」
「……無傷とは、いかなかったみたいだな」
ずっと余裕の表情でこちらを煽っていた悪魔の顔が、憤怒に歪んでいる。身体のあちこちから白い煙が吹き出ているのを見るに、どうやら『破壊の炎』は一定以上の効果があったらしい。
すかさず、リリアナ殿下が魔力の弓を生み出し、不可視の矢を放つ。矢が悪魔の身体に近づいた瞬間に、その矢を『燃焼』させて悪魔を燃やそうとしたが、身体が崩れて消え去った。
「また逃げたか」
「もう、遊びは終わりだ劣等種どもが……無惨に八つ裂きにして、帝都の地面にぶちまけてやるッ!」
「わざわざ死体を帝都まで持って行ってくれるってか? ありがたいことだなっ!」
言葉と同時に背後に現れた悪魔へ向けて『雷撃の槍』を放つ。しかし、アイムールがすり抜けたように雷は悪魔の身体を取り抜けて背後の地面を抉るだけ。今度は『大地操作』を使ってなんとか悪魔を攻撃しようとするが、これも全く話にならず鋭利な形に変化した闇をいくつか破壊できるだけ。
「これでもっ!?」
ならばと『氷槍』を数十本くらい生み出して地面にばら撒いたが効果はなく、逆に悪魔の数がいつの間にか10を超えていた。身体が本体ではないとはいえ、ここまで数が多くなると想定していなかった。咄嗟に、襲い掛かってきた闇をアイムールで弾いても、背後から対応しきれない数の闇が迫ってくる。
「させません!」
やられると思った瞬間、リリアナ殿下が闇を停止させて隙を作り出した。その隙を見計らって、俺は一番近くにいた悪魔をアイムールで斬り付けるが、当然のようにすり抜ける。しかし、アイムールがすり抜けたと同時に悪魔の身体に『燃焼』を発動させて燃やす。
「ギィヤァ!?」
「やっぱり炎か!?」
倒せないと思っていた悪魔の弱点が炎なのだとしたら、積極的に『燃焼』と『破壊の炎』を発動させて悪魔を倒しきる。そう思っていた俺を嘲笑うかのように、次に狙いを定めた悪魔の身体が膨張して攻撃してきた。咄嗟にアイムールで防いだが、地面を無様に転がされた。
「ライト君!」
「ここ、だね」
「リリアナ殿下っ!?」
俺に追撃を加えようとした闇に『停止』を3つとも使ったリリアナ殿下は、背後から近寄ってくる悪魔に反応しきることができずに闇に飲まれた。
「ぐっ!?」
「反応が遅いよ! 馬鹿めッ!」
すぐさま立ち上がってリリアナ殿下を守るために走り出そうとした俺に、20本以上の闇が襲い掛かってくる。数本はアイムールで破壊できても、同時に対応することができずに再び吹き飛ばされる。
「あー……皇女殿下の心の闇、とっても素晴らしいじゃあないか」
「らい、と……くん」
身体の痛みを無視して顔を上げた先にあったのは、絶対に守ると決めていたはずなのに、俺が馬鹿だったせいで闇に精神を支配されたリリアナ殿下の姿だった。
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