第138話 リードラシュの悪魔4
「……中々、魔力も切れないし、本当に化け物みたいな奴だね君は」
「悪魔に化け物って言われると、少し傷つくな」
こちらを観察するように全く動かず、攻撃する意思も見せずに俺がリリアナ殿下と喋っているのを観察していたリードラシュの悪魔は、ケタケタ笑い始めた。
クリムゾンドラゴンのように意思疎通が可能なモンスターというのは存在するが、やはり目の前にいる悪魔はそんな次元の存在ではない気がする。はっきりとは言えないが、モンスターの枠を逸脱した存在に感じる。
「それで、ボクを倒せる方法は見つかったのかい? 見つかったとは思ってないけど」
「……本当に性格の悪い奴だな。心の闇そのものみたいな性格してる」
悪魔がこの空間の全てを掌握していると言うのならば、俺とリリアナ殿下が喋っている内容も把握しているのかもしれない。そうなると、今俺たちを言葉で煽っているのは単純に嫌がらせでしかない訳だ。
「ライト君、闇を『破壊の炎』で修復不可能にする、というのはどうですか?」
「できなくはないかもしれませんけど」
「じゃあやりましょう!」
「……はい」
むやみやたらに魔法を放って、自分の手の内をさらけ出すのは嫌っているのは自覚しているが、リリアナ殿下はそんなこと気にする必要はないと言わんばかりに微笑んだ。
リリアナ殿下は自分が他人に喋る訳がないと思っているし、多分悪魔に知られたところでどっちみち殺すのだから関係ないと思っているんだろう。副会長のアガルマ先輩が脳筋なら、会長のリリアナ殿下もやはり脳筋か。ただ、行き詰っているのは事実なので、何も考えずに魔法を放つのもいいかもしれない。どれだけ破壊しようとも、ここは闇の空間なんだから遠慮はいらない。
「シアンは魔力回復に努めてくれ。しばらく、魔法は俺だけで使う」
『……いいけど、戦いが終わったらちゃんといい男の魔力で労わってね? 連戦続きでしかも龍種の魔法連発してるんだから』
「わかってるよ……いい男の魔力ってのが全く理解できないけど」
隣人であり相棒であり助手でもあるシアンの要求は、なるべく聞いてあげなければ。契約しているとはいえ、言葉が通じる上位精霊なんだからそれくらいの労わりが必要なのは当たり前だ。
「はぁっ!」
想像するのは初めて相対した龍種であるクリムゾンドラゴンの雄大な姿。人の身では絶対に辿り着けないと思わされるほどの自然の力を感じた、あの巨体を考えながら『破壊の炎』を錬成していく。
「炎? クリムゾンドラゴンの炎かい? それは厄介だねぇ」
「邪魔はさせません」
放つまでに時間のかかる『破壊の炎』のデメリットは、俺を守るように前に立つリリアナ殿下が補ってくれている。本当は皇女であるリリアナ殿下を俺が守る、といった形で逆の立場の方がいいんだが、そうもいかない。
背後から俺を襲おうとする闇を停止させ、前から迫る闇を不可視の魔力武器で粉砕する。
「龍種の炎……受けてみろ」
人の身体ほどの大きさまで巨大化させた火球を、リリアナ殿下が切り開いた道へと向かって放つ。実体のない身体を持つ悪魔に対してどこまで有効化もわからないが、これで全く傷も与えられませんなんて話になったら、もうお手上げだ。
凄まじい速度で接近してきた火球を見て、悪魔の顔からニヤニヤとしていた余裕の表情が消えた。
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