第137話 リードラシュの悪魔3

 悪魔が作り出した闇の世界をなんとかしなければ、この悪魔に勝利することは難しいと思う。自分の世界を展開するような力を持っているモンスターとの戦いでは、その世界を破壊することが大事なのかもしれない。ただ、この悪魔が展開した世界がどのようにできていて、どのようにすれば破壊できるのかがわからない以上、慎重に行動する必要がある。


「リリアナ殿下、悪魔から目を逸らさないでくださいね」

「わかっています。ライト君も気を付けて」

「……なんだか仲がいいねぇ」

「黙ってろ」


 人の心に入り込むことを得意としているだけあって、悪魔は絶妙にムカつく部分で茶々を入れてくる。人の心の機敏を理解できているということなのかもしれないが、腹が立って仕方がない。


 まずは悪魔の世界を解明するために、どれだけの距離がこの世界にあるのかを理解する必要がある。もしかしたら、闇の世界に引きずり込まれた時点で、王城前広場から引き離されているかもしれない。

 加速したまま翼で空を飛び、悪魔の頭上を通り過ぎてリリアナ殿下の上も通り過ぎる。そのまま闇の世界の端を目指して加速し続ける。


「んー? 端っこまで飛ぶつもり? 皇女殿下がどうなってもいいのかな?」

「私、そこまで弱い女ではないんですよ?」

「へぇ」


 悪魔とリリアナ殿下が何かしているが、俺はそれを敢えて無視して世界の端を目指す。既に、王城前広場の往復できるぐらいの距離を飛んでいるはずなのに、端が全く見えない。それだけならば違う世界に引きずり込まれたくらいで納得できるのだが、さっきから背後に見えるリリアナ殿下と悪魔の位置が全く遠くならない。つまり、一定以上の距離から俺は動けていないと言うことだろう。


 これ以上、前に移動できないと言うのならば、俺はリリアナ殿下を守る方に意識を割いた方がいい。そのまま反転して一気に戻りながら、アイムールを持っていない左手に『雷撃の槍』を悪魔へと向けて放つ。


「おっと。因みに、この世界での出来事はボクにとって手に取るように理解できるから、君が槍を投げたのも見えていたよ」

「そうかいっ!」


 雷の槍も簡単に闇の壁によって阻まれてしまったが、代わりに襲われていたリリアナ殿下からは遠ざけられた。魔力で作り出された槍を片手に持ちながら、迫る闇を破壊していたリリアナ殿下は、こちらを振り返って安堵の息を吐いた。

 牽制の為に『氷槍』を放ちながらリリアナ殿下の前に降り立ち、襲ってくる闇をアイムールで破壊する。


「どうでしたか?」

「端はなさそうでしたね。なんというか、無限に飛んでいるはずなのに全く進んでいないという感じですかね」

「そうですか……」


 結局、端まで飛んだところでなんの解決にもならなかった。ただ、闇が無限に続いているというよりは、悪魔を中心に一定以上の離れられないという感覚だった。つまり、この闇の世界は悪魔の作り出した世界というよりは、身体の中のようなものだと考えた方がいい。

 身体の中のようなものだとすると、悪魔が闇の世界での出来事を手に取るように理解できるというのも、納得できる話だ。ただ、そうなるとこの闇の世界を破壊するということは、悪魔を倒すことと同義ということだろう。

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