第135話 リードラシュの悪魔1
「リードラシュの悪魔?」
「……リードラシュ王国に伝わる古い伝承なんです」
俺はリードラシュ王国で子爵家の嫡男として育てられたので、この悪魔の正体を知っていた。と言っても、この悪魔は王国民なら常識的に知っている存在ではない。俺も、リースター子爵家の書斎の奥でたまたま見つけた古い文献を読んだことで偶然その存在を知っていただけだった。
「リードラシュ王国が建国するよりも更に昔に、古の英雄が封印した伝承の悪魔。目的の為ならばどんな手を使うことも厭わず、悪逆非道の限りを尽くした結果、英雄によって名前を奪われることで力を失って封印された存在」
「名前を?」
「よく知っているね。そんな詳しいことまでさ……忌々しい男のことをおもいだしてしまったじゃあないか」
くぐもったような声で喋る悪魔は、不愉快と言わんばかりの態度で俺の話を聞いていた。恐らく、忌々しい男というのは、悪魔を封印した古代の英雄……建国の王リーダリラのことを言っているのだろう。
「悪魔の特質的な力は、自らの影を操って闇を支配する固有魔法。人の心の闇に入り込み、その精神すらも操ってしまうという闇の固有魔法」
「そう。ボクの固有魔法は『疑心の闇』と名付けてもらった特別な力だよ」
基本的には闇を操り、グランドドラゴンの『大地操作』のような使い方ができる悪魔の『疑心の闇』最大の特徴が、まさにその人の心にある闇を支配し、増大させる力にある。上位等級冒険者の仲間が一瞬で支配されてしまったのは、悪魔の闇に魅入られてしまったからだ。心に闇を持っていない人間など存在しない。この悪魔が操る闇から逃れることなど、実質的に不可能なんだ。
「けど、ボクの正体がわかって、ボクの魔法がわかったところで君たちには対処不可能。無敵なんて言うつもりはないけど、ボクに勝てるとは思わないことだ、ねっ!」
闇の空間であるこの場所は、闇を操るリードラシュの悪魔にとって圧倒的に有利な空間。この空間内ならば悪魔は、恐らくどこからでも俺たちを攻撃することができる。
俺とリリアナ殿下が立っている場所へと向かって、全方位からレント・リースターを貫いた闇の針が飛んでくる。俺は傍に立っていたリリアナ殿下の肩を抱き寄せて固有魔法を発動させる。
「ら、ライト君」
「……へぇ。本当に便利な魔法だね、君の『模倣』だっけ?」
全方位から襲い掛かってきた闇の針は、俺を中心とした一定距離の空間だけ歪んで避けて通っていた。リードラシュの悪魔が精神を支配して操り人形にしていた、国王オーウェルの固有魔法である『歪曲』によるものだ。
「リリアナ殿下、サポートを任せても、いいですか?」
「勿論です。そのためにここにいるんですから」
俺の目の前にいる敵は、人智を超えた怪物だ。もしかしたら、龍種よりもよほど強力なモンスターですらない何かかもしれない。そんな存在に、俺は1人では勝てないかもしれない。でも、今の俺にはリリアナ殿下がいる。リードラシュの悪魔如きに、遅れをとることはできない。
俺が必ずこの悪魔を滅し、戦争を終わらせる。それが、操られて狂った国王オーウェルや無惨に殺された父レント・リースター、そして悪魔が自分勝手に起こしたこの戦争で犠牲になった者たちを弔う唯一の方法だ。
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