第134話 正体を見破ります

 俺とリリアナ殿下を闇で覆って閉じ込めた王妃ミスティーナは、こちらを見つめてにやにやと笑っていた。2人同時に相手をする余裕があるという自信なのか、ただ気持ち悪く笑っているだけなのかは全く理解できないが、身体から湧き出ている人間とは思えない禍々しい闇に、俺もリリアナ殿下も動けずにいた。


「皇女殿下は帝国を切り崩すために使えるけど……そっちの貴方は、洗脳できなさそうだから私のペットにしちゃいましょう」

「は? ライト君をどうするって言いましたか?」

「自分の方じゃないんですね」


 こういう時でも全くブレないリリアナ殿下に、頼もしさすら感じる。

 しかし、俺のことが洗脳できなさそうというのは少し気になる。アガルマ先輩も、スイッチさんですらも簡単に支配していた奴が、俺を支配できないというのはなにか条件があるということか。


「お、王妃様……」

「あら? これはこれは……リースター子爵」


 アイムールを片手にどうやって先制攻撃しようかと考えていた俺の耳に、その小さな声は聞こえてきた。王城前の広場で俺が戦闘不能にした父、レント・リースターが闇に巻き込まれていたのだ。

 両手両足につけられていた拘束は既に消えていたが、動けないぐらいに生命力を吸収されているので、息も絶え絶えといった様子だが、確かにミスティーナの背後に立っていた。


「オーウェル様はやられてしまいましたわ」

「そ、そんな……国王様が」

「だから、貴方も必要ありません」

「やめろっ!」


 あの悪魔のような女が父に対して何をしようとしているのか気が付いたが、俺の制止の声など聞くはずもなく、ミスティーナの影が父の身体を貫く様に伸びていた。


「な、なん、で……」

「無能は嫌いなんです。貴方の息子の方が、優秀そうですし」

「そ、そんな……こと……で」

「大事ですよ。そんなこと」


 俺が動揺した一瞬の隙に、ミスティーナはそのまま貫かれたレント・リースターを闇で押し潰してこの空間から消した。


「……父を、どうした」

「は? 殺しましたよ。見えていなかったんですか? それとも、貴方の目の前でぐちゃぐちゃにしてやればよかったですか?」

「下種な人……本当に悪魔のような女性ですね」


 絶縁されてもうどうでもいいと思っていたはずの父が殺されて、目に見えて動揺している俺を庇うようにリリアナ殿下が前に出ていた。俺は、またリリアナ殿下に甘えてしまっている。


「リードラシュの悪魔……名前を奪われた悪魔には、お似合いの悪辣さだな」

「あれ? バレて、いたのかい? やっぱり君は、勘のいい人間だよ……支配し辛くてボクの大嫌いなタイプの人間だよ」

「なっ!?」


 俺が口にした「リードラシュの悪魔」という言葉に反応して、王妃ミスティーナの姿がドロドロに溶けて消えていき、真っ黒の影絵に赤い瞳だけが浮かび上がっているモンスターへと姿を変えた。

 あれこそが王妃ミスティーナに化け、賢王とまで呼ばれたオーウェルを狂わせた、闇を操る悪魔の正体。かつて、リードラシュ王国が建国する前に存在した古代の英雄によって、名前を奪われた悪逆非道の悪魔だった。

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