落ちこぼれだと言われて廃嫡された嫡子、実は最強の固有魔法を持っていました～俺を廃嫡したせいで家が没落しそうなんて言われても知りませんよ～

第133話 闇の時間の様です

「どうよ！」

　全てを貪り食らう『浸食』を纏ったレイピアを首に突き立てたことで、自分の勝利を確信したキーニーは笑顔でスカイドラゴンの背から飛び降りた。グランドドラゴンすらも抵抗できずに殺すことができた『浸食』は、スカイドラゴンの身体を蝕み始めた直後に『氷槍』を展開して自らの首を攻撃した。

「はぁ！？」

「凍らせたのか？　けど『浸食』はそんな単純魔法じゃないぞ！？」

　たとえ氷の槍であろうと、キーニーの『浸食』には逆らうことはできない。しかし、スカイドラゴンは更に『氷槍』を放って浸食されていく首の一部を抉り取った。

「自分の首をっ！？」

「……龍種というのは大した精神力だな。呆れて何も言えんぞ私は」

「ふっざけんじゃないわよ！？　アタシの固有魔法に対抗してんじゃねぇー！」

　キーニーの理不尽な叫びも無視して、スカイドラゴンは背後から迫っていたスイッチさんの奇襲を避けて上空へと飛び上がった。

「くっ！？　あそこまで逃げられたら私にも、キーニーにもどうするこもできないぞ！」

「俺がなんとかします！」

　低空なら身体強化で跳躍することでなんとか届くだろうが、あそこまで飛ばれてしまっては俺以外に手出しできる訳がない。

「固有魔法が来ます！」

「データは充分……行ける！」

　リリアナ殿下は精霊眼によって『氷槍』が飛んでくるタイミングを正確に伝えた。同時に、俺は幾度も見せられた構築式を模倣して『氷槍』を完成させる。

「シアン！　魔力頼む！」

『私にだって龍種の魔法はキツイのよ！？　後でちゃんと労わってよね！』

　確かに、シアンの魔力を借りるときは基本的に消耗の激しい龍種の魔法を使っている気がする。この戦いが終わったらしっかりと労わってやらないと駄目だな。

　シアンの魔力を借りて多重に展開した『氷槍』を、上空を旋回するスカイドラゴンへと向けて発射する。攻撃の魔力はシアンが補ってくれているので、俺は発射した槍に『加速』を付与して、スカイドラゴンへ飛ばす。

「ギュガアァァァァァァ！？」

「翼に当たった！」

　俺が放った『氷槍』に面食らって、避けきれなかったスカイドラゴンは左の翼を撃ち抜かれた。攻撃すると同時に相手を凍結させる槍によって、スカイドラゴンは自由に空を飛ぶことができなくなったのだ。翼が凍結したせいで、まともに空を飛ぶことができなくなったスカイドラゴンは、そのまま広場から少し離れた場所へと落下した。

　スカイドラゴンへと追撃を仕掛けて決着をつけようと走り出そうとした瞬間、リリアナ殿下の背後から迫っていた影をアイムールで叩き割った。

「このタイミングで来るか。王妃ミスティーナ」

「忌々しい太陽が落ちたんですもの……ここからは私の時間よ」

　ミスティーナの魔法は影を使うものという情報しか持っていないので、未知数だが勝ち目が無い訳ではない。スカイドラゴンよりも、この女の方を優先的に狙うべきだ。そうしなければ、この戦いは終わらない。

「ふふふ……さぁ、私の闇の世界を見せてあげるわ！」

「これはっ！？」

「殿下っ！？」

　何をしてくるかわからないと思いながら、王妃ミスティーナの行動に目を光らせていた俺とリリアナ殿下は、背後の闇が動き出していることに気が付けなかった。一瞬の判断が遅れた結果、ミスティーナが放った闇は王城前の広場を覆ってしまい、外までスカイドラゴンを追いかけて行っていた4人と完全に分断されてしまった。

「私のこの空間へは、誰も入ってこれない……勿論、外に出ることもね」

　ミスティーナは、外の4人よりも俺とリリアナ殿下を優先的に排除することを決めたということだろう。

　もしかしたら、この戦いはこの戦争最後の戦いかもしれない。

　手の中にあるアイムールを握り締め、俺は戦う覚悟を決めた。