第131話 想定外の敵でした

 仲間の4人を助けることには成功したが、その間に太陽が地平線の向こう側へとほぼほぼ沈んでしまった。俺の推理通り、敵であるミスティーナの魔法が影を扱う固有魔法なのだとしたら、ここからは奴の時間にということになる。


「……ここで、撤退はないよ」

「わかってます」


 俺の顔に浮かんでいる焦りの表情を見て、スイッチさんが横から撤退はないと言った。それは俺にもわかっている。ここまで追い詰めておいて撤退したところで、帝国にできることはない。相手の固有魔法が精神支配だと分かった以上、集団で踏み込むのはリスクが高すぎる。


「後ろ! なにか、飛んでくるわよ!」

「は?」


 王城の方へと視線を向けながらこれからのことを考えていた俺の耳に、キーニーの忠告を聞いて背後の空へと視線を向ける。太陽の光が消えていく空の中、人間より遥かに大きな影が山脈の方から飛んできていた。


「……また、龍種か?」

「勘弁してほしいね……僕、龍種とこんなにやり合うのは初めてだよ」


 空の彼方から飛来してきた影は緑色の体色で、クリムゾンドラゴンよりも大きい翼で空を飛んでいた。飛行速度もクリムゾンドラゴンとは比べものにならない速度で、まだ遠く離れているはずなのに、巨大な翼が風を切る音が聞こえてきた。


「間違いない。あれはスカイドラゴンだ……この大陸では確認されたことが、なかったはずなんだけどな」


 スイッチさんの言葉を聞いて、リリアナ殿下とアガルマ先輩が息を呑んで、俺たちが立つ王城前広場の上空を旋回するスカイドラゴンへと目を向ける。

 こんな短い期間に3種類もの龍種を目にすることは、幸運なのか不運なのか。


「ギュゴァァァァァァァ!」

「来るわよ!」


 ただでさえ、精神支配なんてされて俺とリリアナ殿下以外の4人は消耗しているのに、スカイドラゴンと戦闘をしなければならないなんて、普通のパーティーならとっくに全滅している。


「魔法が来ます!」

「『障壁』」


 上空を旋回しながらこちらを視認していたスカイドラゴンは、巨大な翼を揺らしながら固有魔法を発動させる。精霊眼によってそれを確認して俺とリリアナ殿下は、同時に行動へ移る。

 文献の通りならば、スカイドラゴンの扱う固有魔法は『氷槍』と呼ばれる危険な魔法だ。そして、その文献の記述が正しいものなのかどうかは、自分の目で確認することになる。


 スカイドラゴンは旋回している速度を少し落とした瞬間に、空中に幾つもの氷の槍を生成して連続で発射した。


「っ!? 壁を作りますよ!」


 まず1発目に飛んできた『氷槍』が俺の展開した障壁にぶつかると、ヒビが入った。続く2発目によって障壁は粉々に砕かれ、3発目は『大地操作』によって生み出した壁に深々と突き刺さった。4、5、6発目をそのまま壁で凌いでいる間に、キーニー、スイッチさん、スケールさんは既に壁から飛び出して近寄ってくるスカイドラゴンへと向けて走り出していた。


「私が止めます!」

「ライト、殿下を頼む」


 壁から飛び出した3人へと発射された氷の槍の6本を、俺とリリアナ殿下の『停止』で止めて、アガルマ先輩は3人をサポートするために壁から飛び出した。

 どれだけ『氷槍』を放ったところで無力化されることを悟ったスカイドラゴンは、上空を旋回するのをやめて、広場へと向かって降りてくる。

 ここからが本格的な戦闘の開始だ。太陽が沈み切るまで既に数分もない。それまでに片付けなければ、ミスティーナが追ってくる。

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