第130話 活路が見えました

「ダメかっ!」

「宝剣アイムール、だったかしら? その力では私の支配は打ち破れないみたいね」


 内心でキーニーに謝りながら『衝撃』で吹き飛ばし、俺と『生命吸収』を発動し続けているスイッチさんへと向けてアイムールを振るうが、魔力を切り裂く感触が全く感じられなかった。ミスティーナの固有魔法であることは間違いないが、どうやら支配はもっと内面的なものから来ているらしい。


「『停止』!」


 俺の背後から迫るアガルマ先輩とスケールさんの靴を固定することで、実質的に2人の動きを止めたリリアナ殿下は、俺の方へと心の底から心配そうな顔を向けながら、魔力を固めて作られた壁でキーニーの攻撃を防いでいた。

 そもそも、こちら側には手数が圧倒的に足りない状況なのだからまずはそれを補う必要がある。固有魔法の『分身』を発動させてもう1人の自分に、動けなくされているアガルマ先輩とスケールさんへと触れる。


「リリアナ殿下!」

「は、はい!」


 その状態から、リリアナ殿下にはキーニーに触れてもらい『交換』を発動させて近くの瓦礫とリリアナ殿下の位置を交換して、リリアナ殿下へと本体の俺が触れる。そして、分身した自分と2人で同時に『転移』を発動させる。

 固有魔法の『転移』は、自分以外を飛ばす場合には先に触れておく必要があるのだが、この場合はリリアナ殿下が触れているキーニーまでも巻き込むことができる。


 王城前の広場へと転移した勢いのまま、俺はリリアナ殿下を抱えて4人から距離を取る。


「何故、外に飛んだんですか?」

「……王妃ミスティーナが、窓から差し込む太陽を避けるように移動していたんです」


 それは俺も偶然に気が付いたことだった。数少ない窓から光が差し込んできている中、ミスティーナは太陽の光を避けるように何度か移動していた。それがこの洗脳の固有魔法に関係があるのかはわからなかったが、ただ玉座の間で不毛な消耗戦をしているだけでは事態が好転しないと思ったのだ。


「でも、太陽はもうすぐ沈みます……このままでは」

「大丈夫です。ミスティーナはどうか知りませんが、この洗脳はなんとかできる自信ができたので」

「ほ、本当ですか?」


 恐らく、リリアナ殿下はその優れた精霊眼で4人とミスティーナの状態を常に見続けていたのだろう。そして、ただの固有魔法ではないことを理解して解除する方法などないのではないかと考えていた。しかし、数多くの固有魔法を模倣する過程で、常人よりも遥かに多くの魔法構築式を見てきた俺は、なんとなくミスティーナの魔法の正体が掴めた。


「4人を操った魔法の正体は闇です。人間ではまともに扱うこともできない、心の闇を使うことで4人は操られています」

「心の、闇?」

「それ以外に表現できません」


 本当にそれ以外の説明方法がない。しかし、俺にとってはこの「心の闇」という言葉で、ミスティーナという存在の正体を確信できるだけの情報が揃ったことになる。


「洗脳は心に及ぶもの。しかし、それが固有魔法である以上、必ず魔力を必要とする……そして、ミスティーナは自らの影を使って4人を操っていた」


 再びこちらへと襲い掛かってこようとする4人に対して、4人の背後に潜んでいた俺の分身がアイムールで影を斬り付けた。同時に、4人はその場で膝をついて息を吐いた。王城から飛び出すことで太陽の元に晒しだし、4人の影に及んでいた力をアイムールで断ち切った。


「た、助かったわ……」

「ありがとう、ライト」

「意識、あったんですね。悪趣味な」


 息を荒げながら礼を言うキーニーとスイッチさんの言葉を聞いて、全員が意識を持った状態のまま操られていたということに気が付いた。どこまでも悪趣味で、人間の尊厳を侮辱する魔法だ。

 悪魔らしいと言えば、悪魔らしいが。

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