第129話 まずい状況です

「まさか帝国皇女が自ら王国に足を運んでくるなんて思っていなかったわ……でも、これで内部から帝国を崩せるかも」


 闇を身体から放出しながら1人で語る王妃ミスティーナは、俺のことなど全く気にしている様子もなかった。

 外の太陽も既に沈み始める時間の中、仲間であった4人のメンバーからリリアナ殿下を庇いながら俺は戦わなくてはならない。はっきり言ってかなりまずい状況だ。

 はっきりしていることは、王妃ミスティーナがこの戦争の全ての原因であり、王国軍が率いていたモンスター、王城内の虚ろな目をした騎士、そして狂った国王オーウェル、その全てが王妃ミスティーナの闇によって操られた結果だった。目の前で俺に対して武器を向ける4人も、同様の魔法を受けて精神を支配されているのだろう。


「どうするつもりですか?」

「……アイムールで、なんとか解除できないかやってみます。リリアナ殿下は下がっていてください」


 この状況でリリアナ殿下まで操られてしまえば、間違いなく俺の敗北が決定的なものになる。そして、この場合において俺の敗北は最悪、帝国の内部崩壊にまで繋がる可能性がある。

 4人や王国の人間がミスティーナの固有魔法によって単純に操られているだけならば、アイムールを使うことで簡単に解決できるのだが、そうでなかった場合がまずい。最悪、4人を殺すことになっても俺は帝国とリリアナ殿下を守らなければならない。


「『浸食』」

「くっ!?」


 容赦なく『浸食』を発動させながら、こちらへと向かってくるキーニーの攻撃を避け、スケールさんのレイピアをアイムールで弾いてからスイッチさんの拳を素手で受け止める。


「『生命吸収』」

「我慢比べになりますよっ!」


 スイッチさんが俺に触れた状態で『生命吸収』を発動させたが、俺は模倣によって『生命吸収』を使うことができる。奪われた生命力を自分で奪い返す戦いは、ただの我慢比べにしかならないが、根本的な魔力量の問題で俺の方が『生命吸収』を持続して発動することができるので、このまま放置していればスイッチさんを倒すことはできる。しかし、この戦いはあくまで4対1なんだ。

 俺の背後からアガルマ先輩とキーニーが同時に襲い掛かってくる。


「ライト君!」

「っ!?」


 アガルマ先輩の『強化』をリリアナ殿下が咄嗟に『停止』させたが、キーニーの固有魔法である『浸食』は停止することができない。固有魔法の単純さと反して、何故か『浸食』は停止することも、俺が『模倣』することもできない謎の固有魔法である。


 リリアナ殿下が『強化』を停止したことで、スイッチさんの相手をしながらアガルマ先輩は片手で簡単に受け流せたが、迫ってくるキーニーに対してはアイムールを使うことでしか『浸食』には対抗できない。


「くそっ!?」

「ほう……どこまで持ち堪えられるかしら?」

「今のうちに勝手に余裕を見せてろ!」


 4人を支配して自由に動かしながら、自分は全く手を下さずにこちらを見下すばかり。ミスティーナのその余裕こそが、必ず逆転の隙になる。

 キーニーの攻撃をアイムールで防ぎながら、俺はなんとかしてこの4人を制圧する方法を考えなくてはならなかった。

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