第128話 決着です
「ば、馬鹿な……」
アイムールで腹を刺されて倒れたオーウェルは、本当に自分の敗北を信じられないと言う顔をしていた。そこまで深く刺していないので死んではいないだろうが、一応傷はある程度、治しておいた方がいいだろう。
「やっと終わったわね……全く」
キーニーの言葉に、スイッチさんとスケールさんが苦笑いを浮かべていた。ただ王国の実情を知る為に内部へと潜入したのに、まさか国王との戦闘に発展するとは思っていなかった。それもこれも、王国が内側から完全に崩壊しかかっていたのが原因なのだが。
「取り敢えず、これで国王の影響から王国民たちが解放されたはずだね。後は、帝国の正規軍に任せた方がいいかな?」
スケールさんの言葉に、スイッチさんとリリアナ殿下が頷いた。1人で暴走し、戦争を始めた国王オーウェルが倒れたのならば、これ以上の話は帝国の上の人間が片付けるべきだというのは間違っていない。
「お、オーウェル様?」
「っ!?」
誰もが安堵の息を吐いて警戒していなかった玉座の間に、オーウェルの名前を呼ぶか細い声が聞こえてきた。咄嗟に、キーニーとアガルマ先輩が扉の前にいた女性を拘束する。そして、その声の正体が唯一生き残った国王オーウェル・ヴァン・ソレイユ・リーダリラの王妃である、ミスティーナであると気が付いた。
「……国王オーウェルは気を失っているだけです。貴方も、捕虜として連行します」
スイッチさんの冷静な声を聞いて、王妃ミスティーナは彷徨わせていた視線を国王オーウェルに向けて顔を青褪めた。しかし、スイッチさんの言葉で彼が死んでいないことを知って泣く泣くと言った様子で抵抗意思はないと示すように手を挙げた。
「戦争だから仕方ないとはいえ、少し心が痛いな」
オーウェルを拘束しながら、王妃ミスティーナが拘束されていく姿を見て俺は溜息を吐いた。オーウェルにとって唯一残った妻であり、ミスティーナにとってもどれだけ狂っていようとも夫だ。狂った王も1人の人間であり、ミスティーナの装いが高級そうことからもどれだけ愛されていたかが伝わってくる。
「……本当に、オーウェル様が負けたのですか?」
「見ればわかるでしょ。頭悪いのかしら?」
「キーニー、言葉がキツイよ。申し訳ありません」
スケールさんがキーニーの保護者のようにミスティーナへと頭を下げた瞬間、俺とリリアナ殿下が目を見開いた。
「その女から離れろっ!」
「もう遅いわ」
俺の警告も虚しく、拘束されたミスティーナの身体から噴き出した闇がキーニーとスケールさん、そして近くにいたスイッチさんとアガルマ先輩をも取り込んでしまった。一瞬のうちに起こった出来事に、リリアナ殿下と俺が目を白黒させている間に、闇に呑まれた4人の瞳が城内にいた騎士たちのように虚空へと向けられていた。
「さぁ……私の言う通りに動きなさい。あの2人を捕らえるのよ」
何故、俺はあの女がただの王妃だと思い込んでいたのか。帝国軍に捕まった王国兵が悪魔のような女だと言っていたはずなのに。そして、狂った暗愚王となったオーウェルは、元々リードラシュ王国では賢王と呼ばれていた事実。
「国王オーウェルすらも、操っていたのか!?」
「あら、気が付かれてしまったわ。あの男の方は殺しなさい」
俺の言葉に対して、ミスティーナは気持ち悪い笑みを浮かべた表情のまま無慈悲な言葉を吐く。同時に、操られた4人が俺に向かって襲い掛かってきた。
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