第127話 リードラシュ国王オーウェル4

 俺がアイムールを用いることでオーウェルの『歪曲』を突破する。その為に、スイッチさんが真っ先にオーウェルへと向かって走り出した。

 基本的に片手直剣を使った近接戦闘を得意としているスイッチさんだが、オーウェルの持つ『歪曲』は途轍もなく相性が悪い。近づいてくるも者にカウンターを放つように『歪曲』を発動する性質上、触れないと発動できない『生命吸収』も使い辛く、片手直剣で戦ってもキーニーの大鎌同様に切断されるだけだろう。それでも、スイッチさんはこの王国潜入メンバーのリーダーとして、その身を危険に晒そうとも戦うことを覚悟していた。


「来るか。この私の魔法を知りながら距離を詰めてくるか?」

「仲間を信じているからね」

「くだらん……仲間など、所詮は弱者の馴れ合いだ」


 オーウェルの言葉に対して、スイッチさんは胡散臭そうな笑みを浮かべているだけだった。


 当初の目的は王国に潜入して情報を持ち帰るだけだったが、今となってはもうそんなことを言っていられない。国王を倒せば全てが終わると言うのなら、そうするだけだ。

 スイッチさんがオーウェルに向かって行き、リリアナ殿下が魔力の弓を静かに構えたのを確認してから俺はアイムールを片手に走り出した。そのすぐ後ろを、スケールさんがついてくる。


「……私の『歪曲』は一つの物しか曲げられない訳ではない」


 振り下ろされるスイッチさんの剣を切断しながら、リリアナ殿下が放った不可視の矢も、自分の周囲全てを捻じ曲げることで自らの位置をずらして避ける。同時に、スイッチさんの背後から俺がアイムールで斬りかかるが、やはり空間ごと捻じ曲げられていつの間にか背後に移動させられていた。


「アイムールは無敵の剣ではない。魔法を無効化される前に、刀身を折ってやればいいだけのこと」

「やってみろ!」


 リリアナ殿下が再び不可視の矢を放つ。自身の周囲を捻じ曲げることで対応した瞬間に、俺が背後からアイムールでオーウェルを貫こうとするが、それも逸らされてしまう。


「馬鹿なっ!?」

「どうした? 無敵の固有魔法、じゃなかったか?」


 逸らしたアイムールをその手で折ろうとした瞬間に、オーウェルの腕には不可視の矢が刺さった。オーウェルは、精霊眼を持たないためリリアナ殿下が矢を放ったのを見てから自身の周囲全てを捻じ曲げることで自らの居場所をずらして避けている。そして、オーウェルの『歪曲』は一度に複数のものを捻じ曲げることができるが、それにはオーウェルの認識が必要なのだ。つまり、オーウェルはリリアナ殿下が矢を2本放ったことに気が付けなかったために攻撃を避けることもできなかった。


「この程度!」

「どこまでが、この程度に入るか……見ていてやろうか?」


 逸らせばいい。折ればいい。頻繁に口にしているが、アイムールがオーウェルの脅威であることは事実なんだ。そしてオーウェルは見えずに認識できないものに対して『歪曲』の影響を及ぼすことができない。たとえ、周囲の空間の全てを捻じ曲げようとも、認識できないものはその影響をすり抜けてしまう。だから、リリアナ殿下が放つ不可視の矢は曲げられず、オーウェル自身が避けようとする。


「貴様っ!? アイムールをどこへやった!」

「さぁ……どこだろうな」


 自身の天敵であるはずのアイムールが、俺の手に握られていないことに気が付いたオーウェルは焦りを見せるが、既に手遅れだ。ここにはもう1人の協力者がいて、その存在は指定したものを認識できなくすることができる。

 シアンの『認識阻害』によって見えなくなっていたアイムールが『歪曲』を超えて、オーウェルの腹に突き刺さった。

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