第126話 リードラシュ国王オーウェル3

「愚かにも私の射程に幾度も踏み込んだこと、後悔するがいい」

「さっさと死ね!」


 オーウェルが禍々しい魔力を放出するのと同時に、アガルマ先輩の強化と俺の加速を受けたキーニーの大鎌がオーウェルの首を刈り取ろうとした。直前に、俺は『交換』でキーニーとオーウェルの背後で破壊されていた玉座を入れ替えた。


「なっ!?」

「……やはり、勘がいいな。リースターの裏切者よ」


 何も知らせずに位置を交換してしまったせいで壁に突っ込んでしまったキーニーには申し訳ないが、オーウェルが何をしようとしていたのかを察してしまった為に行った緊急手段なので許して欲しい。

 オーウェルの固有魔法は『歪曲』であり、文字通りなんでも捻じ曲げることができる単純にして強力な能力だが、オーウェルは向かってきたキーニーに対して逃げる訳ではなく攻撃の為に使用した。


「あ、アタシの鎌が……」


 結果的に、キーニーの身体よりも前に出ていた武器である鎌が根元から切断されていた。単純な話、攻撃しようとした瞬間に鎌が耐えられない角度まで捻じ曲げられただけだ。つまり、俺がキーニーの位置を交換していなかったら、鎌と同じようにキーニーの上半身と下半身が分かれていただろう。


「随分、凶悪な魔法だな」

「ははは……お前の魔法ほどではないな。さぁ……私の『歪曲』も模倣してみるか?」


 明らかな挑発行為だが、絶対に模倣できない訳ではない。ただ、リリアナ殿下も言っていた通りとても複雑な構築式をしているので、模倣するにはかなりの回数を観察しなければならないのだが、あの固有魔法が攻撃に対しても強力な効果を有しているとわかった以上、こちらから無策で突撃するのは賢い行いではない。


 6対1の状況でもオーウェルが自信に満ちた表情で、見下している理由は理解できたが、腹が立つことに無敵なのかと錯覚するほどに強いのは事実だ。だが、今の俺には魔力を吸い取る宝剣アイムールがある。これならば、奴の『歪曲』を突破することもできるはずだ。


「……確かに、宝剣アイムールの力が発動していれば『歪曲』で破壊することは不可能。だが、さっきも私に攻撃が当たっていなかったぞ?」

「それはアイムールとの接触を恐れた結果だろう。アイムールは『歪曲』を無効化できなかったんじゃなく、そもそも『歪曲』に触れることができなかっただけだ」


 アイムールでオーウェルに攻撃できなかった理由は、単純に『歪曲』によって空間ごと移動させられたことでアイムールが『歪曲』に触れることができなかったからだ。つまり、触れることさえできればアイムールでの攻略は可能。


「僕はなにをすればいい?」

「……奴の目を引いてください」

「私がやるよ。このメンバーの暫定リーダーとしてね」

「では、私が後ろから援護をしましょう」


 宝剣アイムールを片手にオーウェルに向けていると、スケールさんとスイッチさんが背後から近づいてきて、リリアナ殿下が魔力で編まれた不可視の弓矢を作成していた。


「……皇女の武器が見えないが、魔力でできているのか? 精霊眼とは実に便利なものだな……是非とも抉り取らせて欲しいものだが」

「させると思うか?」

「気持ち悪いおっさんね」


 リリアナ殿下の方へと視線を向けたオーウェルに対して、アガルマ先輩とキーニーが立つ。リリアナ殿下の方はあの二人にまかせれば大丈夫だろう。

 オーウェルの攻めも守りもすべては『歪曲』を中心にできている。これを切り崩せなければ、俺たちの勝ちはない。

 責任重大な役割だが、そういう役目は言うほど嫌いではない。

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