第125話 リードラシュ国王オーウェル2
手の中にあるアイムールが魔力を欲している。感覚的な話だが、この宝剣はある程度の意思を持っている気がする。俺が勝手に言っているだけの可能性もあるが、このアイムール、実は魔剣でしたなんて言われても正直納得できるだけの不気味さはあると思う。
アイムールが求めるまま、俺は国王オーウェルに向かって飛び掛かる。
敵の固有魔法である『歪曲』は恐らく、あらゆるものを曲げることができる能力。キーニーの攻撃を避けたのは、空間を捻じ曲げて位置を無理やりずらしたから。俺が放った『雷撃の槍』が背後に飛んでいったのは、オーウェルが前方の空間を捻じ曲げたから。単純な固有魔法というのは、強力な分対策が取りやすい。
「ふっ……」
「はぁっ!」
発動していた『千里眼』がオーウェルの固有魔法が発動した瞬間を視認する。アイムールの切っ先がぐにゃり、とあり得ない形に捻じ曲がった瞬間にアイムールへと魔力を注いで宝玉の力を発揮させる。アイムールの力は、固有魔法の魔力を吸い取ることで無効かする力。オーウェルの捻じ曲げる固有魔法すらも、出力次第ではあるが無効化できるはずだ。
「無駄だな」
「なっ!?」
アイムールの宝玉が光ったことで、確実に力は発動しているはずなのに、オーウェルの『歪曲』を無力化することもできずにただ後ろへと通り抜けていっただけだった。
「ふぅっ!」
「助太刀するよ」
俺が無防備な姿を晒した瞬間に、その隙を埋めるためにアガルマ先輩とスイッチさんが高速でオーウェルとの距離を詰めた。
「無駄だな。私の前ではどんな攻撃も、無駄だ」
しかし、高速で距離を詰めたはずの2人は、オーウェルの『歪曲』によってあらぬ方向へと走っていた。空間を捻じ曲げることで、そもそも走った方向を後から変えているんだ。アガルマ先輩とスイッチさんは、オーウェルがいる方向とは全く関係ない方向へと突っ込んでいき、放たれた攻撃は玉座の間の壁を破壊するだけだった。
「……構築式が複雑すぎて停止しきれません!」
「まいったね」
「固有魔法連発して魔力が持つわけ無いわ! ガンガン攻めるのみよ!」
オーウェルの『歪曲』をなんとか停止させられないかと、精霊眼でずっと隙を伺っているリリアナ殿下は、複雑な構築式故に咄嗟に止めることができず、キーニーは頭が悪そうな脳筋理論で突貫していた。
「支援する身にもなれ!」
キーニーが真正面からただ突破しようとしているだけでは、いつどんな反撃を受けてやられてしまうかわかったものではないので、俺とスケールさんがオーウェルの動きに注視しながらサポートに回る。
「私の固有魔法は無敵だ。誰にも止められん」
「『強化』!」
「『加速』!」
大鎌に『浸食』を纏わせたキーニーに対して、アガルマ先輩が『強化』を、俺が『加速』を付与してオーウェルへと突っ込ませる。それを余裕の表情で見つめていたオーウェルは、固有魔法である『歪曲』を発動させながら笑っていた。
「愚か者どもめ……私の固有魔法である『歪曲』が、ただ相手の攻撃を避けるだけのものだと思うなよ」
オーウェルの身体から発せられていた魔力が、一段と強いものになったことを見ていた俺とリリアナ殿下の表情が同時に強張った。
国王オーウェル・ヴァン・ソレイユ・リーダリラの身体から放出されている魔力は、人間のものとは思えない程禍々しい物だった。
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