第123話 宝剣を手にしました
父であるレント・リースターを戦闘不能にした俺は、手の中にあるリースター家に伝わる宝剣アイムールに目を向けた。本来ならば、廃嫡された時点で俺が持つことは一生なかったであろうはずの宝剣は、特に俺を拒むことなく手の中におさまっている。
『……よかったの? 自分の父親なんでしょう?』
「いいんだよ。俺はもう王国を追放された身なんだから」
親子喧嘩の最中はずっと黙っていてくれたシアンに言葉を返しながら、俺は手の中にあるアイムールの姿を見つめ続けていた。宝剣と呼ばれるには、あまりにも装飾が少ない無骨な姿をしている片手用の直剣だが、柄の部分に禍々しい紫色の宝玉が備え付けられていた。恐らくこれが、このアイムールの魔力を吸い取るという力の源になっているのだろう。
「取り敢えず、俺もさっさと王城に向かうか」
『え、その剣貰ってくの?』
「まぁ……この戦争が終わったらエルスに返すからいいよ」
正直に言うと、この剣のことを少し気に入ってしまった。前から武器が使えるようになるといいなとは思っていたんだが、それがまさか生家に過去から伝わっている宝剣になるとは思っていなかった。取り敢えず、この戦争が終わるまでは借りたままにしておこう。父は戦闘不能の状態のまま気を失っているから、別に問題ないだろう。俺が勝手に言っているだけだが。
意識を失った父を放置したまま、俺は王城へと向かって走り出した。スイッチさんたちの速度を考えると、多分既に王城内に潜入している頃だろうが、後から追い付けるだろうか。そう思っていたが、王城の守護をしているはずの騎士たちは意識が朦朧とした状態で虚空を見つめて立っていた。
「……なんだこれは」
『これ、みんな異常な状態になっているのかしら?』
「多分、操られていたモンスターたちと同じような状態になっているんだと思うけど……やっぱり人間にも使えた訳か」
王国で戦争に反対する人間が極端に少ない理由も、これで納得できる。そして、賢王とまで呼ばれたオーウェルがどうしてここまで狂ってしまったのかも、もしかしたら関係しているかもしれない。
「先を急ごう。王城内の騎士たちもこんな状態なら、スイッチさんたちは多分もっと先まで行っているはずだ」
父と戦っていた時間を埋めるためには、俺がかなりの速度で追いかける必要があるんだが、この調子ではスイッチさんたちは多分一度も道中で戦闘していない。上位等級冒険者に追い付くためには、なにかしらの方法で足止めを受けていないと無理だろう。
しかし、この状況で潜入メンバーが向かう場所なんて限られている。恐らく、このロンディーナ王城の最も重要な部分である、玉座の間に全員がいるはずだ。そして、俺は子爵家の嫡男としてこの王城の内部に入ったことがあるので、玉座の間がどこにあるのかも大体把握している。
階段を上がって一番大きな扉を蹴って中に入った瞬間に、先に行っていたメンバーが全員臨戦態勢のまま玉座に相対していた。
「っ!? ライト!」
「間に合った、みたいですね」
「ライト・リースター、か……」
玉座の前に悠然と立っている豊かな髭に触れている王冠を被っている男、リードラシュ王国の国王オーウェル・ヴァン・ソレイユ・リーダリラが俺に視線を向けた。こいつが、この狂った王国の国王。この戦争を始めた、倒すべき敵。
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