第121話 レント・リースター2
「おおぉぉぉぉ!」
俺は名前なんて全く知らないが、リースター家に伝わる宝剣で俺を執拗に攻撃しようとする父を見て、あの宝剣には俺の知らないなんらかの秘密が隠れているような気がした。
かつて嫡子だったのに存在だけしか知らないということは、名前自体に秘密が隠れているのか、それとも単純にリースター家を継ぐときにしか知ることができないのか。
「ん?」
どうやって父を止めようかと思っていたが、攻撃をずっと防いでいた『障壁』に異常が現れていることに気が付いた。攻撃をしっかりと防いでいるはずの『障壁』が、外側から徐々に薄く削り取られているのだ。
俺の父親であり、リースター家の当主であるレント・リースターの固有魔法は『衝撃』である。子供の頃から見てきた俺はその魔法を模倣できるが、その力にこんな形で『障壁』に異常を起こすことはできない。これこそが持っている宝剣の効果なのではないかと考えるしかない。
「アイムールッ!」
宝剣の名前と思われるものを叫ぶと同時に、2人の間にあった『障壁』が消えた。破壊されて粉々にされたとかではなく、自壊するように内側から崩れてそのまま消えてしまった。しかし、その様子をじっくりと観察していた俺は宝剣アイムールの能力を事細かに把握した。
見えない壁を突破して俺に対して宝剣の切っ先を向けてくるが、それを再び『障壁』で防いだ。再び止められたことに舌打ちを鳴らしながら、父はそのままもう一度壁を突破しようとしている。
「その宝剣、アイムールですか……魔力を吸い取っているんですね。外側から俺の『障壁』を崩して突破しようとしているって訳ですか」
「お前の魔法はこのアイムールで容易く突破できる! 諦めろ!」
父のその言葉を聞いて、俺は驚愕してしまった。この人は、俺の固有魔法が『模倣』であることを知らないのかもしれない。そうでなければこういう反応はしないだろう。この人は、俺に対してそこまで興味を持っていないと言うことなのか、それともそれすらも判断できないぐらいに耄碌してしまったのか。
確かに俺の固有魔法が『障壁』なんだと勘違いしているのだとしたら、アイムールだけで容易く勝てると思うだろうが、俺の固有魔法は生憎そんな生易しいものではない。
「はぁっ!」
アイムールが障壁を突破する速度が上がった。恐らく、使用者が魔力を込めるなりすることで効果が増大したりするタイプの武器なんだろう。
「またその身で受けて私の前から消えろ! 『衝撃』!」
「『衝撃』」
「なっ!?」
壁が無くなって無防備になった俺に対して、間髪入れずに固有魔法である『衝撃』を放ってきた。不可視でありながら、強力なモンスターすらも一撃で倒せるような火力を出すこともできる魔法で、今まで父が倒せなかった敵はいるのだろうか。どちらにせよ、今の俺にはなんの関係もない魔法だ。
放たれた『衝撃』を『衝撃』で相殺した。信じられないと言った表情でこちらを呆然と見つめているレント・リースターの姿を見て、俺は目を伏せた。
「侮辱するような言葉で申し訳ないですが、これ以上の戦いは時間の無駄です」
「な、何故、私の魔法を……」
「それが俺の固有魔法だとだけ、言っておきます」
別に父親だからと言って真正面から固有魔法の中身を全て喋る訳がない。どこで誰が俺のことを観察しているのかもわからないのだ。用心のし過ぎで困ることはないのだ。
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