第120話 レント・リースター1

 突然、背後から襲い掛かってきた男に俺以外の全員が咄嗟に攻撃の姿勢を見せたが、レント・リースターは周囲のことなど気にすることもなく俺に向かって、宝剣を振り下ろす。目の前に『障壁』があることにも気が付いているはずなのに、レント・リースターは血走った目で俺に向かって宝剣を振ることしかしない。


「お前さえ……お前さえいなければ!」

「そうですね。俺さえいなければ、リースター家は滅ばなかった」


 それは紛れもない事実だ。俺に対して勝手に失望し、勝手に廃嫡した末路だとしても、俺のせいでリースター家が落ちぶれたのは事実なのだ。そこに、感情が介在する余地はない。だが、今となっては帝国の人間として王国に潜入する立場であるため、安易に恨みだけで殺される訳にもいかない。

 俺を襲った相手がレント・リースターであることに気が付いたメンバーは、俺の対応を見てこれからの対応を考えるようだ。


「……先に行っていてください。すぐに追いつくので」

「信じるよ? みんな、行くよ」

「すぐに終わらせられるとでも思っているのかっ!?」


 俺の言葉を聞いて、父は怒りの形相を更に歪めて宝剣を『障壁』に突き立てるが、俺はそれを冷静に見ていた。

 スイッチさんは俺の意思を汲んで、他のメンバーを連れて王城の方へと走って行った。しかし、目の前にいる父は俺に王都の防衛の為にいるのではなく、あくまで俺のことを狙っているようだ。王城へと向かって行くメンバーを全員無視しているのが、その証拠と言える。


「怪我しないように、気を付けてください」

「わかってます」


 すれ違いざまに、リリアナ殿下が心配そうな声をかけてくれた。正直、今の父に対してそこまでの脅威なんて感じていないが、それでも心配してもらえると言うのは嬉しい。


「お父様、申し訳ありませんが押し通らせてもらいます」

「黙れっ! お前が、リースター家没落の責任を取れっ!」

「俺はもう廃嫡された身であり、リースター家没落の原因は知りません」


 まぁ、原因は自分ではわかっているんだが、それでも没落した理由を俺に押し付けられるのは違うと主張しよう。廃嫡されたことを言い訳にしているつもりはないが、傍から見ればそうなってしまうかもしれないな。


「お前のような落ちこぼれなんぞにぃ!」

「……そうして身勝手に俺を廃嫡した結果が、今のリースター家なのではないですか? かつての俺に力が無かったことは認めますが、それに対して俺は力を付けたからこそ今、貴方の目の前にいる。その事実は変わりません」

「黙れっ!」


 家族だった人間にこんなことを言うのは少し心苦しいが、今の父は見ていられない。

 責任を俺に押し付け、現実から逃げようとしているその姿は、リースター子爵当主であり、強力な固有魔法を使うことからあらゆる貴族から注目されていた……俺がかつて憧れた父親からはかけ離れた姿は見たくない。

 見ていられないから正してやる、なんて偉そうな言葉を吐くようなつもりはないし、父親だからと言って手加減するつもりもない。

 今の俺は帝国の人間で、目の前にいる男は俺がロンディーナ王城へと向かう道を邪魔する敵でしかないんだ。


 これは戦争だ。邪魔しようとする敵は、薙ぎ倒さなければならない。それが、今の俺のやるべきことなんだ。

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